このページの内容は最新ではありません。最新版の英語を参照するには、ここをクリックします。
SVC と PSS による過渡安定性の向上
はじめに
この節で説明する例では、2 つの水力発電所を含む簡単な伝達システムのモデル作成について説明します。静止型無効電力補償装置 (SVC) と電力系統安定化装置 (PSS) が、システムの過渡安定性と電力動揺の減衰を改善するために使用されます。この例で説明する電力システムは、簡単なものですが、フェーザ シミュレーション法を使用すると、さらに複雑な電力網をシミュレーションできます。
SVC および PSS に精通していない場合は、Static Var Compensator (Phasor Type)、Generic Power System Stabilizer、および Multiband Power System Stabilizer の各ブロックのリファレンス ページを参照してください。
交流送電システムの説明
下記に示す単線結線図は、単純な 500kV の伝送系を表します。
500 kV の伝送系
1000MW 水力発電プラント (M1) は、500kV、700km の長距離伝送線路で負荷センターに接続されています。負荷センターは 5000MW の抵抗負荷でモデル作成されます。遠隔の 1000MVA のプラントが与える負荷の他に、5000MVA (プラント M2) で局地的に発電された負荷が与えられます。
950 MW を発電するプラント M1 を使用して、このシステム上で電力潮流が実行されると、プラント M2 が 4046 MW を発電します。このラインは、944MW を伝送します。この値は、電圧変化のインピーダンス負荷 (SIL = 977MW) に近い値です。障害後にシステムの安定性を維持するために、伝送線路は 200 Mvar 静止型無効電力補償装置 (SVC) により、センターで分流補償されます。SVC には、電力振動減衰 (POD) ユニットがありません。2 つのマシンは、水力タービンと調速機 (HTG)、励磁システム、および電力系統安定化装置 (PSS) を備えています。
このシステムは、power_svc_pss
モデルに提供されています。このモデルを読み込み、このモデルにさらに変更を加えることができるように case1
という名前で作業ディレクトリに保存してください。
はじめに、2 つの Turbine and Regulators サブシステム内部を参照して、HTG と励磁システムがどのように実装されているかを見てみます。2 種類の安定器を、励磁システムに接続できます。これら 2 種類の安定器は、加速力 (Pa= 機械動力 Pm と出力電力 Peo の差) を使用する一般的な安定器と、速度偏差 (dw) を使用するマルチバンド安定化装置です。これら 2 つの安定器は、[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Specialized Power Systems] 、 [Electrical Machines] ライブラリの標準モデルです。青いゾーンで囲まれた Manual Switch ブロックにより、両方のマシンに使用できる安定器の種類を選択したり、PSS を非稼動の状態にすることができます。
SVC ブロックを開き、Power データ パラメーターにおいて、SVC の定格が +/- 200 Mvar であることを確認します。Control パラメーターでは、電圧調整または Var 制御 (固定値のサセプタンス Bref) モードを選択できます。はじめに、SVC はサセプタンス Bref=0 として、Var 制御モードに設定されます。これは、SVC が稼動していないことと同じです。
Fault Breaker ブロックは、母線 B1 で接続されています。このブロックを使用して 500kV システムでさまざまなタイプの障害をプログラムし、システムの安定性に対する PSS と SVC の影響を観測します。
定常状態でシミュレーションを開始するために、Powergui ブロックの Machine Initialization ユーティリティで電動機と制御器が既に初期化されています。PV Generation Bus (V=13800 V、P=950 MW) として定義されるマシン M1 と Swing Bus (V=13800 V、0 度) として定義されるマシン M2 で、電力潮流が実行されます。電力潮流が実行された後、2 つのマシンに対する基準の機械動力と基準電圧は、HTG と励磁システムの入力に接続された 2 つの定数ブロックで、自動的に次の値に更新されます。Pref1=0.95pu (950MW)、Vref1=1.0pu。Pref2=0.8091pu (4046MW)、Vref2=1.0pu。
単相故障 - PSS の影響 - SVC がない場合
PSS (一般の Pa タイプ) が稼動していることと、6 サイクル単相故障が Fault Breaker ブロックでプログラムされていること (Phase A がチェックされ、t=0.1 秒に障害が適用されて、t=0.2 秒に解消されます) を確認します。
シミュレーションを開始し、Machines Scope ブロックで信号を観測します。このタイプの障害では、システムは SVC なしで安定です。障害除去後、0.6Hz の振動が迅速に減衰します。この振動モードは、大規模な電力システムの標準的な地域間動揺です。Machines Scope ブロックの第一表示は、2 つのマシン間のローターの角度の差 d_theta1_2 を示します。電力伝送は、この角度が 90 度に達するときに最大になります。この信号は、システムの安定性についての適切な目安です。d_theta1_2 が 90 度を超える期間が長くなりすぎると、マシンは同期を失い、システムは不安定になります。第二表示は、マシンの速度を示します。障害の期間に、マシン 1 の電力は機械動力よりも低いので、マシン 1 の速度が増加することに注意してください。たとえば、50 秒間という長い時間シミュレーションすることにより、障害除去後に低周波数 (0.025Hz) で 2 つのマシンの速度が振動することも観測できます。2 つの PSS (Pa タイプ) は、0.6Hz モードを減衰させますが、これらは 0.025Hz モードの減衰に対して効率的ではありません。その代わりに、Multi-Band PSS を選択すると、このタイプの安定化装置は 0.6 Hz モードと 0.025 Hz モードの両方を減衰させることが観測できます。
ここで、非稼動中の 2 つの PSS でテストを繰り返します。シミュレーションを再実行してください。システムは、PSS なしでは不安定であることに注意してください。“Show impact of PSS for 1-phase fault” とラベルされた右側の青いブロックをダブルクリックすると、PSS がある場合とない場合の結果を比較できます。以下に、表示される波形を生成します。
単相故障への PSS の影響
メモ:
PSS がない場合、このシステムは本来は不安定です。Fault Breaker の A 相を非選択にすることにより障害を除去すると、数秒後におよそ 1 Hz でゆっくりと不安定になる様子が観測されます。
三相故障 - SVC の影響 - PSS が稼動中の場合
ここでは三相故障を適用し、重大な故障が起きているときに SVC がどのようにネットワークを安定化するかを観測します。
最初に、2 つの PSS (Generic Pa type) を稼動します。Fault Breaker ブロックのプログラムを変更して、三相地絡故障を適用します。SVC が、Bref = 0 としてサセプタンスが一定のモードであることを確かめます。シミュレーションを開始します。信号 d_theta1_2 を見ると、2 つのマシンが障害除去後に、すぐに同期がとれなくなることが観測されます。不必要なシミュレーションを続けないように、角度差が 3*360 度に到達すると、シミュレーションを停止するために Simulink® Stop ブロックが使用されます。
SVC ブロックのメニューを開き、SVC の動作を電圧調整モードに変更します。ここでは、電圧が基準電圧 (1.009pu) よりも低いときに、ラインに無効電力を供給することによって SVC が電圧を供給します。選択された SVC の基準電圧は、稼動していない SVC が存在する母線電圧に対応します。したがって、定常状態において、電圧が基準点から外れると、SVC は電圧補償のためにフローティングの状態になり待機します。
シミュレーションを再実行し、システムが三相故障に対して安定していることを観測できます。“Show impact of SVC for 3-phase fault” というラベルが付けられた青いブロックをダブルクリックすると、SVC がある場合とない場合の結果を比較できます。以下に、表示される波形を生成します。
三相故障への SVC の影響