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断熱された原油のパイプライン内における熱伝達

原油のパイプライン

原油のパイプラインの設計では温度が重要な役割を果たします。曇り点と呼ばれる温度未満ではパラフィン ワックスが原油から分離し、パイプの壁の内部に沈殿し始めます。沈殿物によって原油の流れが制限されるため、パイプラインで必要な電力が増加します。さらに温度が低くなって原油の流動点を下回ると、これらの結晶が非常に多くなり、流れが不活発になり、原油は半固体の状態になります。

寒冷な地域では、パイプの壁を通じた熱伝導による熱損失が大きくなります。原油を適切な範囲の温度に保つため、パイプラインには温度の抑制措置が含まれています。パイプラインに沿って所々に加熱装置を設けることで、原油を温めることができます。また、パイプの壁内部を断熱材で覆うことで原油の冷却速度を鈍らせることができます。

粘性損失は追加の熱源を与えることになります。原油の隣接する部分が互いにぶつかり合いながら流れるため、エネルギー損失が発生して熱という形で現れます。この加温効果は小規模なものですが、断熱材を通して発生する熱伝導による熱損失を少なくとも部分的に埋め合わせるには十分な規模をもちます。

断熱材を特定の厚さにすると、粘性損失と熱伝導による熱損失のバランスが取れます。原油はパイプラインの長さ全体にわたって理想的な温度を維持し、加熱装置の必要性が低減されます。設計の観点から言えば、この断熱材の厚さが最適であるということです。

この例では、断熱された原油のパイプラインのセグメントをシミュレーションします。その後、最適化スクリプトを実行して最適な断熱材の厚さを決定します。この例は加熱された原油輸送の最適なパイプラインの配置のモデル例に基づいています。

モデル化における考慮事項

この例で扱う物理システムは原油のパイプラインのセグメントです。パイプの壁の内部には断熱材があり、パイプの壁の外部は土壌で覆われて、熱伝導による熱損失が抑えられています。モデルを単純化するために、物理システムはパイプラインの中央の線に対して対称であると仮定します。

また、パイプラインのセグメント内は完全に流れているものと仮定します。つまり、パイプラインの長さにわたって原油の流れの速度プロファイルは一定に保たれています。さらに、原油はニュートン流体に従い、圧縮可能だと仮定します。せん断応力はせん断ひずみに比例し、質量密度は温度と圧力の両方によって変化します。

原油はパイプラインのセグメントに一定の温度 TUpstream と一定の質量流量 Vdot * rho0 で入ります。ここで、

  • Vdot はパイプラインを通じた原油の体積流量です。

  • rho0 はパイプラインのセグメントに入る原油の質量密度です。

パイプラインのセグメントの内部を流れる原油は、粘性損失によって加熱され、パイプの壁を通じた熱伝導によって冷却されます。この 2 つの効果のバランスがパイプラインのセグメントから出ていく原油の温度を抑制します。

粘性損失によって "得られる" 熱量は原油の粘性と質量流量に部分的に依存します。これらの量が多いほど粘性損失による加熱も大きくなり、原油の温度が上がります。一方、熱伝導によって "失われる" 熱量は断熱材、パイプの壁および土壌層の熱抵抗に部分的に依存します。熱抵抗が小さいほど熱伝導による熱損失も大きくなり、原油の温度が下がります。

このシステムを電気回路になぞらえると、直列に配置された 3 つの材質層の連結熱抵抗は個々の熱抵抗の和になります。

Rcombined = Rwall + Rins. + Rsoil

パイプの壁が薄く、熱伝導性の高い材質を使用していると仮定すれば、パイプの壁の熱抵抗は無視しても問題ありません。このため連結熱抵抗は、断熱材の熱抵抗 Rins. と土壌の熱抵抗 Rsoil の単純な和になります。

断熱層の熱抵抗は厚さ (D2-D1)/2 に正比例し、熱伝導率 kInsulant に反比例します。同様に、土壌層の熱抵抗も厚さ z に正比例し、熱伝導性 kSoil に反比例します。

次の図は、パイプラインのセグメントで問題となる大きさを示しています。変数名はモデルで指定されている変数名と一致しています。断熱層の内径 D1 は、パイプラインのセグメントの原油が流れる部分の直径でもあります。

モデルの確認

「加熱された原油輸送の最適なパイプラインの配置」モデルは、地中に埋設された断熱された原油のパイプラインのセグメントを表現しています。このモデルを開くには、MATLAB® コマンド プロンプトで以下を入力します。

openExample('simscape/OptimalPipelineGeometryForHeatedOilTransportationExample')

Pipe (TL) ブロックはこの例で扱う物理システム、つまり原油のパイプラインのセグメントを表現しています。端子 [A] はセグメントの入口を、端子 [B] は出口を表しています。端子 [H] はパイプの壁を通じた熱伝導を表しています。このブロックでは粘性損失による加熱が考慮されます。

Flow Rate Source (TL) ブロックはパイプを通じた流量を与えます。Upstream ブロックはパイプラインの入口の温源の役割を、Downstream ブロックはパイプラインの出口における温度シンクの役割を果たします。

Conduction Insulation-Pipe ブロックと Conduction Soil-Insulation ブロックはそれぞれ断熱層と土壌層を通じた熱伝導を表現しています。これらのブロックは Simscape™ Thermal ライブラリに Conductive Heat Transfer として表示されます。Soil Temperature (Temperature Source) ブロックは土壌表面における温度の境界条件を指定します。

Thermal Liquid Settings (TL) ブロックは原油の物理特性を与え、温度と圧力に対する特性の依存性を含む 2 次元ルックアップ テーブルとして表現されています。次の表にこれらのブロックをまとめます。

ブロック説明
Pipe (TL)パイプラインのセグメント
Conduction Insulation-Pipe断熱材の熱伝導
Conduction Soil-Insulation土壌の熱伝導
Soil Temperature土壌の温度
Upstreamパイプラインの入口における温度シンク
Downstreamパイプラインの出口における温度シンク
Flow Rate Source (TL)原油の質量流量
Thermal Liquid Settings (TL)原油の熱力学特性

シミュレーションの実行

原油のパイプラインのセグメントのパフォーマンスを解析するために、モデルをシミュレーションします。Oil Temperature スコープに入口と出口における原油の温度がプロットされます。このスコープを開きます。断熱層の厚さがほぼ最適な値となり、1000 メートル間における温度の変化はごく小さくなります。最大 0.020 K/km のレートで、原油の温度は 100 キロメートルの間に約 2 K 変化します。

データ ログを使用した物理特性のプロット

センサーやスコープを使用する代わりに、Simscape データ ログを使用して、原油およびその他のシステム変数の物理特性がシミュレーション中にどのように変化するかを確認できます。

  1. Pipe (TL) ブロックを選択します。

  2. モデル ウィンドウ上部の [Simscape ブロック] タブの [結果の確認] で、[結果エクスプローラー] をクリックします。

  3. Simscape 結果エクスプローラー ウィンドウの左側のペインで、Pipe (TL) ノードを展開します。これには Pipe (TL) ブロックのログ データが含まれています。次に、A ノードと B ノードを展開します。これらはそれぞれブロックの [A] 端子と [B] 端子に対応します。

  4. ノード A の下の変数 T (パイプの上流の温度) を選択して、Simscape 結果エクスプローラー ウィンドウの右側のペインにそのプロットを表示します。複数の変数を一度にプロットするには、Ctrl キーを押した状態でノード B の下の変数 T (パイプの下流の温度) を選択します。

    予想どおり、Simscape 結果エクスプローラー ウィンドウの右側のペインのプロットは、Oil Temperature スコープの結果と同じです。

  5. Simscape 結果エクスプローラーを使用して、原油のその他の物理特性をシミュレーション時間の関数としてプロットすることもできます。たとえば、rho_I は原油の密度です。

メモ

Simscape ログについての詳細は、シミュレーション データ ログについてを参照してください。

断熱層の直径の変更による影響のシミュレーション

断熱層の内径をさまざまな値に設定してみます。このパラメーターを変化させることで、原油を加熱する粘性損失と、原油を冷却する熱伝導のバランスが補正されます。

  1. モデル エクスプローラーを開きます。

  2. [モデルの階層構造] ペインで [ベース ワークスペース] を選択します。

  3. [コンテンツ] ペインでパラメーター D1 の値をクリックします。

  4. 0.20」と入力します。

断熱層の内径を 0.20 に下げることで断熱層が厚くなり、熱伝導によるパイプの壁を通じた熱損失が抑えられます。シミュレーションを実行します。その後、Oil Temperature スコープを開き、オートスケールでプロット全体を表示します。

新しいプロットでは、パイプラインの出口における原油の温度 (上の曲線) がパイプラインの入口における温度 (下の直線) をはるかに上回っています。これは、パイプラインのセグメント内での熱エネルギーのバランスで粘性損失が優位になっているためです。断熱材の新しい厚さによって、設計上の問題が発生します。つまり、長いパイプラインで加熱レートが 1.1 K/km の場合、パイプラインの出口における原油の温度は入口での温度よりもかなり高くなってしまいます。

次に、断熱層の内径 D1 を 0.55 にしてみましょう。この値を大きくすることで断熱材は薄くなり、パイプの壁を通じた熱伝導による熱損失が加速します。その後、シミュレーションを実行します。Oil Temperature スコープを開き、オートスケールでプロット全体を表示します。

このプロットでは、パイプラインの出口における原油の温度がパイプラインの入口における温度をはるかに下回っています。パイプラインのセグメント内の熱エネルギー バランスで熱伝導が優位になっていることは明らかです。この断熱材の厚さでも、やはり設計上の問題が発生します。0.25K/km のレートでは、パイプラインが長い場合、原油の温度は大幅に冷却されてしまいます。

最適化スクリプトの実行

このモデルでは最適化スクリプトが提供されており、このスクリプトを実行してパイプラインの断熱層の最適な内径 D1 を決定できます。このスクリプトはモデルのシミュレーションを異なる D1 の値で反復し、粘性損失による加温レートと熱伝導による冷却レートを同時にプロットします。2 つの曲線の交点が、このモデルにおける最適な断熱材の厚さになります。

  1. モデル ウィンドウで、[最適化] をクリックして、パイプラインの断熱層の内径を最適化するスクリプトを実行します。

  2. 表示されるプロットで、2 つの曲線の交点における水平軸の値を視覚的に決定します。

断熱層の最適な内径は 0.37 m です。パラメーター D1 をこの値に更新します。

  1. モデル エクスプローラーを開きます。

  2. [モデルの階層構造] ペインで [ベース ワークスペース] をクリックします。

  3. [コンテンツ] ペインで D1 の値をクリックします。

  4. 0.37」と入力します。

シミュレーションを実行します。Oil Temperature スコープを開き、オートスケールでプロット全体を表示します。入口と出口における温度差はごくわずかになります。

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