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トラック間フュージョンの概要

トラック間フュージョンと中央集約型追跡

複数センサー追跡システムを使用すると、単一センサー システムよりもカバレッジが広く可視性も高いため、より優れた性能が得られます。さらに、各種センサーからの検出を融合することで、ターゲット推定の品質と正確性を高めることもできます。複数センサー追跡システムでは、一般に 2 つのタイプのアーキテクチャが使用されます。1 つ目のアーキテクチャのタイプは中央集約型追跡です。このアーキテクチャでは、すべてのセンサーからの検出が、すべての検出に基づくトラックを維持する追跡システムに直接送られます。理論的には、検出に含まれるすべての情報を最大限に使用できるため、中央集約型追跡アーキテクチャを使用すると最高の性能が得られます。一方、センサーレベルの追跡とトラックレベルの融合を組み合わせた複数センサー システムで階層構造を適用することもできます。次の図に、典型的な中央集約型追跡システムと、センサーレベルの追跡とトラックレベルの融合に基づく典型的なトラック間フュージョン システムを示します。

トラック間フュージョン システムの各要素の表現として、フューザーにトラックを出力する追跡システムをソースと呼び、ソースから出力されるトラックをソース トラックまたはローカル トラックと呼びます。フューザーで維持されているトラックを中心トラックと呼びます。

トラック間フュージョンの利点と課題

場合によっては、中央集約型追跡アーキテクチャよりもトラック間フュージョン アーキテクチャの方が望ましいことがあります。以下のような場合が該当します。

  • 多くの用途では、追跡システムには、その環境内でセルフナビゲーション用にターゲットを追跡するだけでなく、全体のナビゲーション性能を高めるために、維持しているトラックを周辺の追跡システムに伝達することも求められます。たとえば、独自の状況的環境を追跡する自律型車両では、維持しているトラックを他の車両と共有してナビゲーションを円滑にすることができます。

  • 実際には、多くのセンサーは検出ではなくトラックを直接出力します。そのため、トラックを出力するセンサーからの情報を組み合わせるためにトラックレベルの融合が必要になります。

  • 通信帯域幅が限られている場合、一連の検出を送信するよりもトラック リストを送信した方が効率的なことがよくあります。スキャン レートと比べて低い速度でトラック リストが提供される場合は、これが特に重要になることがあります。

  • センサーや検出の数が多い場合、集中型の追跡システムでは、特に検出の割り当てについて、計算の複雑度が高くなることがあります。トラック間フュージョン アーキテクチャでは、一部の割り当てと推定の作業負荷をセンサーレベルの追跡に分散させることにより、フューザーの計算の複雑度を軽減できます。

トラック間フュージョン アーキテクチャにはこのような利点がある一方で、追跡システムに複雑度が増すなどの課題も生じます。条件付きで独立していると仮定できる検出とは異なり、各ソースからのトラックの推定は、共通のプロセス モデルから生じる共通の予測誤差を共有するため互いに相関します。そのため、融合したトラックを標準のフィルター処理手法を使用して計算すると正しくない結果になることがあります。以下の影響を考慮する必要があります。

  • 共通のプロセス ノイズ — センサーは同じターゲットを観測して追跡するため、一部の共通のダイナミクスを共有します。その結果、ターゲットの操縦によって、すべてのセンサーに共通する平均誤差が生じることがあります。

  • 時間相関のある測定ノイズ — トラックの融合が経時的に繰り返されると、センサーレベルの追跡の状態推定誤差が経時的に相関するため、測定に経時的な相関がないとする標準のカルマン フィルターの前提に違反することになります。

トラック フューザーと追跡アーキテクチャ

Sensor Fusion and Tracking Toolbox™ の trackFuser をトラック間フュージョンの目的に使用できます。trackFuser System object™ には、さまざまなトラック間の補正の効果を考慮してソース トラックを組み合わせるためのアルゴリズムが 2 つ用意されています。trackFuserStateFusion プロパティを次のように指定してアルゴリズムを選択できます。

  • 'Cross' — 相互共分散フュージョン アルゴリズムを使用します。

  • 'Intersection' — 共分散交差フュージョン アルゴリズムを使用します。

独自のフュージョン アルゴリズムをカスタマイズすることもできます。

前の図に示されている標準のトラック間フュージョン アーキテクチャ以外に、trackFuser では他のタイプのアーキテクチャも使用できます。たとえば、次の図は 2 台のビークルから成る追跡システムを示しています。

各ビークルに、関連付けられたトラッカーで近くのターゲットを追跡する 2 つのセンサーがあります。さらに、各ビークルに 2 つのトラッカーからのソース トラックを融合するフューザーがあります。フューザー 6 で維持されている中心トラックをフューザー 3 に送ることができます。このアーキテクチャにより、ビークル 1 で、独自のセンサーの視野には含まれないターゲット (図のターゲット 2) を識別できる可能性があります。

流言伝播を低減するために、フューザー 6 からフューザー 3 へのソース トラックを外部として扱うことができます。そのためには、TrackFuserSourceConfigurations プロパティを設定するときに fuserSourceConfigurationIsInternalSource プロパティを false として指定します。

さまざまなトラッカーによって報告されるトラックをさまざまな座標系で表現できるため、fuserSourceConfiguration プロパティを指定することで、ソースとフューザーの間の座標変換を指定する必要があります。

参考

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参照

[1] Chong, C. Y., S. Mori, W. H. Barker, and K. C. Chang. "Architectures and Algorithms for Track Association and Fusion." IEEE Aerospace and Electronic Systems Magazine, Vol. 15, No. 1, 2000, pp. 5 – 13.