LDM、CVSD、および ADPCM の比較
この例では、3 つの異なるデルタ変調 (DM) 波形の量子化または符号化の手法を比較します。
DM、LDM、CVSD、ADPCM とは
デルタ変調 (DM) とは、差分波形の量子化に基づくアナログ デジタル符号化手法です。各 DM エンコーダーの中核となるのは次の誤差信号です。
これは、コーディングされる入力信号 とデコードされた信号の前のサンプル の差です。この誤差信号の符号 は、差分量子化データ ストリームの作成に使用されます。このデータ ストリームは、データ圧縮と低いデータ伝送速度を実現するために、受信側の一致したデコーダーでデコードできる低ビット率信号です。
この例では、線形デルタ変調 (LDM)、継続変数勾配デルタ変調 (CVSD)、および適応的差分パルス符号変調 (ADPCM) という 3 つの差分波形の符号化手法を確認します。各手法は 2 レベル (1 ビット) のエンコーダーを使用し、異なるサンプリング レートまたはデータ レートで実行できます。エンコードされたビット レートは通常、入力信号サンプルレートに正比例します。たとえば、LDM および CVSD の両方の場合は、サンプルごとに 1 ビットを使用して、エンコード データ ストリームを計算します。
"LDM" では、一定のステップ サイズを使用して、信号サンプルごとに 1 ビットで入力信号を近似します。エンコード ビット ストリームでは、各 1 ビットで、以前にデコードした信号サンプルと比べて、ステップサイズ分だけ振幅が増幅します。各 0 ビットでは、振幅はステップサイズ分だけ減衰します。LDM を使用すると、エンコーダーの性能が低下する場合があります。これは、高周波数成分が含まれる時などに入力信号勾配が急速に変化し、エンコーダーがそれを正確に追跡できなくなる「勾配オーバーロード」と呼ばれる状態が発生するためです。
"CVSD" は適応ステップサイズが追加された LDM です。ステップサイズを入力信号の勾配の変化に調整または適応させることで、エンコーダーは高周波数での勾配オーバーロードによる大幅な性能低下を抑えながら、優れた精度で低周波数信号を表すことができます。入力信号の勾配が急速に変化し、エンコーダーがそれに対応できない場合、ステップサイズは増大します。逆に、入力信号の勾配がゆっくりと変化する場合は、ステップサイズは減少します。勾配オーバーロード検出器とシラビック フィルターは位相振幅変調器 (PAM) と共に使用して、ステップサイズ適応を実現します。CVSD は商用通信および軍事用通信に使用されます。この場合、"通話品質" または "通信品質" は必須ですが、計算の複雑さとメモリ要件も低いことが望まれます。この手法の 2 つの例として、米国 MIL-STD-188-113 (16 kbs および 32kbs CVSD) と米国連邦規格 1023 (12 kbs CVSD) が挙げられます。さらに、CVSD エンコード データを暗号化してセキュリティを増強できます。これは、音声や汎用オーディオ符号化など、多数の無線通信アプリケーションに適しています。
"ADPCM" は CVSD に似ていますが、より高い精度を実現するため、周波数帯域幅が維持されます。ただし、適応ステップサイズを計算するのに必要な他の計算要件は満たされません。
Simulink のエンコーダーとデコーダーの実装
付属のライブラリ dspwvfmcdlib.slx
には、3 つの符号化手法 LDM、CVSD、および ADPCM をすべて実装する Simulink 実装が用意されています。
Simulink の符号化手法の比較
これらの符号化手法はモデル dspdltmd.slx
で比較されます。3 つとも同じ共通のアナログ入力を使用します。
デコードされた信号を入力およびエンコードされた信号と比較します。モデルのスコープは、3 つの符号化手法の動作を示します。各スコープの最初の画面には、元の信号が黄色で、エンコードされた後でデコードされて復元された信号がマゼンタでそれぞれ表示されます。一定信号と急激に変化する信号の両領域に対する各手法の応答を観測することができます。
LCM は一定のステップ サイズを使用するため、信号が急激に変化している間は勾配オーバーロード、信号が一定の場合は粒状ノイズが現れます。CVSD と ADPCM は共に、可変ステップ サイズを使用してこれらの問題を緩和します。
CVSD と ADPCM の両方では、可変ステップ サイズは中央の画面に表示されます。3 つのすべての手法で、1 ビット エンコード伝送信号が下部の画面に表示されます。
参照
[1] Proakis, J. G. Digital Communications. Third Ed. Sec. 3 ("Source Coding"). McGraw Hill. 1995.
[2] Taylor, D. S. "Design of Continuously Variable Slope Delta Modulation Communication Systems." Application Note AN1544/D. Motorola®, Inc. 1996.
[3] "Continuously Variable Slope Delta Modulation: A Tutorial." Application Doc. #20830070.001. MX-COM, Inc., Winston-Salem, North Carolina, 1997.
[4] Conahan, S., Alva, C., and Norris, J. "Implementation of a Real-time 16 kbps CVSD Digital Voice Codec on a Fixed-point DSP." International Conference on Signal Processing Applications and Technology (ICSPAT) Proceedings, Vol. 1. 1998. pp. 282-286.