ネットワークシミュレーション

ネットワークシミュレーションとは、物理的なハードウェアを設置することなく、ソフトウェアツールを用いて無線通信ネットワークの仮想モデルを作成し、ネットワークの挙動を解析して予測するプロセスです。さまざまな条件下で、無線ノード (デバイス) が電波を介してどのように通信するかに焦点を当て、研究者やエンジニアが制御された柔軟な環境でネットワークの性能を調査できるようにします。

ネットワークシミュレーションの利点

物理的なハードウェアを導入する前にネットワークシミュレーションを実施することには、いくつかの利点があります。

  • コスト効率: 高額なハードウェアや大規模な物理的セットアップが不要になります。
  • 安全性の高いテスト環境: 高負荷のシナリオ、障害、セキュリティ上の脅威などを、実際のリスクを伴わずにテストできます。
  • 迅速な実験: プロトコル、移動、トラフィックといったモデルのパラメーターを素早く調整できます。
  • 拡張性: 物理的に展開が難しい数千個のノードや複雑なトポロジなどにも対応できます。
  • 性能評価: さまざまな条件下で、スループット、レイテンシ、ジッター、パケット損失などの主要なメトリクスを測定します。
  • 現実的なモデリング: 3GPP 仕様に準拠した無線チャネル効果や干渉を取り込み、精度の高い解析を可能にします。
  • 市場投入までの時間短縮: 開発の初期段階で、ネットワーク設計とプロトコルの最適化を可能にします。

ネットワークシミュレーションの構成要素

ネットワークシミュレーションの基本ブロックには、次のようなものがあります。

  • ノード: 携帯電話、基地局、アクセスポイント、エッジデバイス (例: IoT センサー、Bluetooth スピーカー)
  • 通信リンク: 送信機、受信機、RF/アンテナ構成
  • プロトコル: 5G、WLAN、Bluetooth、カスタム アドホック ネットワーク
  • プロトコル層: 物理層、データリンク層、TCP/IP スタック
  • トラフィックモデル: 音声、ビデオ、FTP (ファイル転送プロトコル) トラフィックなど、さまざまな負荷条件下でネットワーク動作を評価するための要素
  • 移動モデル: モバイルデバイス、人工衛星、航空機、自動車、船舶、歩行者など
  • チャネル条件: フェージング、パス損失、シャドウイング、干渉の影響など、接続性やサービス品質 (QoS) を評価するための要素

ネットワークシミュレーションのワークフロー

ネットワークシミュレーションには、次のステップが含まれます。

  • 初期化: シミュレーション エンジン、ビジュアライザー、ロガーを起動します。エンジンは無線ネットワーク向けの離散イベント シミュレーターとして機能し、ビジュアライザーはリアルタイムの動作を表示し、ロガーは性能データを取得します。
  • ノードと層の構成: ネットワーク要素 (例: 基地局、アクセスポイント、モバイルデバイス、センサー) を定義し、物理層 (PHY)、データリンク層 (DLL)、上位層などのプロトコル層のパラメーターを設定します。
  • 現実世界の要因の追加: チャネルモデル、トラフィックパターン、デバイスの移動などを組み込み、現実の動作条件を再現します。
  • 実行と可視化: シミュレーションを実行し、パケットの生成や送信、チャネル影響の適用を行いながら、レイテンシ、スループット、チャネル品質などの性能指標をリアルタイムで監視します。
  • 結果の解析: 記録された統計情報、パケットトレース、信号サンプルを確認してネットワーク性能を評価します。
ネットワークシミュレーションのワークフローは、初期化、構成、追加、実行、可視化、解析のステップで構成されます。

6 ステップのネットワークシミュレーション ワークフロー。

MATLAB を使用したネットワークシミュレーションの実行方法

MATLAB® は、物理層、データリンク層、アプリケーション層など、複数の層にわたるエンドツーエンド通信システム設計をサポートし、上位層プロトコルを開発して解析する機能を提供します。

  • 離散イベント シミュレーション: スケジューリング、キューイング、再送、リソース割り当てなどの処理を、パケットレベルのイベント駆動型モデルとして作成できます。
  • 柔軟性: 通信ノードのネットワーク構成要素や上位層をカスタマイズすることで、3GPP や IEEE 802.11 などの標準的な無線通信プロトコルや、新しい研究設計を再現できます。
  • 層間統合: 上位層モデルと詳細な PHY シミュレーションを組み合わせ、包括的な性能解析を行います。
  • パフォーマンス メトリクスと KPI: レイテンシ、スループット、パケット損失、QoS など、層をまたぐ主要なメトリクスを評価する組み込みツールを備えています。
  • ラピッド プロトタイピング: 高水準のプログラミング、デバッグ、可視化機能により、新しいアルゴリズムやシステム設計のテストを加速します。

MATLAB、Communications Toolbox™、MATLAB ベースのその他の無線通信ツールを活用することで、5GWLANBluetooth などの無線ネットワークをモデル化してシミュレーションできます。WLAN や Bluetooth といった異種ネットワークが共存する環境をモデル化し、シミュレーションすることもできます。通信ノード、ノード配置、無線チャネル、ノードの移動性、ユーザー データ トラフィック、ログなど、無線ネットワーク モデリングに必要な基本ブロックを作成できます。データレート、レイテンシ、スループット、パケット損失、サービス品質 (QoS) などの KPI を可視化することで、無線ネットワークの主要なパフォーマンス メトリクスを評価できます。ノード密度や配置などのネットワーク パラメーターも評価し、ネットワーク性能を包括的に把握できます。

5G ネットワーク シミュレーション

5G ネットワーク向けに、MATLAB を使用して以下を行うことができます。

複数の六角形セルを示す 5G セルラー ネットワークのシミュレーション シナリオのスクリーンショット。

5G Toolbox を使用して作成された、ネットワークシミュレーション用の、基地局 (オレンジ色の三角形) とユーザー端末 (青色の点) がセル全体にわたり分布する六角形マルチセル 5G ネットワーク レイアウト。(コードを参照)

WLAN ネットワークシミュレーション

WLAN ネットワーク向けに、MATLAB を使用して以下を行うことができます。

重複 BSS パケット検出 (OBSS PD) のしきい値 (各 AP の周囲にある小さな円) と、クリア チャネル アセスメント/キャリア センス (CCA/CS) のしきい値 (各 BSS を示す大きな円) も表示されています。

アクセスポイント (AP) とステーション (STA) で構成される 2 つのベーシック サービス セット (BSS) を示した WLAN ネットワーク トポロジ。(WLAN Toolbox のコードを参照)

Bluetooth ネットワークシミュレーション

Bluetooth ネットワーク向けに、MATLAB を使用して以下を行うことができます。

Auracast™ 送信機、4 台の受信機、干渉する WLAN 信号を示した図。

WLAN 信号の干渉下で、送信機が複数の Auracast 受信機に音声ストリームを送信する Bluetooth LE Auracast オーディオ共有シナリオ。(Bluetooth Toolbox のコードを参照)