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MATLAB と Simulink での誘導システムの設計

この例では、ミサイル機体のモデルの使用方法を説明します。このモデルは、ミサイル自動操縦設計に適用される高度な制御方法の使用に関する多数の発行論文で提示されています。[1]、[2]、および [3] を参照してください。このモデルは、マッハ 2 ~ 4 の速度、高度 10,000 ft (3,050 m) ~ 60,000 ft (18,290 m)、典型的な迎え角度の範囲 +/-20°で飛行する尾翼制御ミサイルを表しています。

機体のダイナミクスのモデル

このモデルの核心要素は、機体の剛体ダイナミクスの非線形表現です。ミサイルのボディにかかる空気力およびモーメントは、入射角とマッハ数両方の非線形関数である係数から生成されます。

Simulink® と Aerospace Blockset™ を使用して、このモデルを作成します。Aerospace Blockset は、機体設定を問わずすべてのモデルに共通する、大気モデルなどの参照コンポーネントを提供します。

モデルを開きます。

Simulink での機体の表現

この機体モデルは、加速要求自動操縦を通じて制御される 4 つの主要サブシステムで構成されています。Atmosphere & Incidence, Airspeed Computation サブシステムは、高度の変化に伴う大気条件の変化を計算します。Fin Actuator サブシステムと Sensors サブシステムは、自動操縦を機体に連結します。Aerodynamics & Equations of Motion サブシステムは、ミサイルのボディにかかる力およびモーメントの大きさを計算し、運動方程式を積分します。

国際標準大気モデル

Atmosphere & Incidence Airspeed Computation サブシステムは国際標準大気 (ISA) を近似しており、2 つの領域に分かれています。対流圏領域は海抜 0 ~ 11 km にあり、高度の上昇に伴って気温が線形に低下します。下部成層圏領域は 11 km ~ 20 km の範囲であり、一定の温度です。

力およびモーメント用の空力係数

Aerodynamics & Equations of Motion サブシステムでは、ミサイルのボディ軸にかかる力とモーメントが生成され、機体の線形運動および回転運動を定義する運動方程式が積分されます。

空力係数はデータセットに保存されます。シミュレーション中、現在の操作条件における値は 2-D Lookup Table ブロックを使用した内挿によって決定されます。

標準的な 3 ループ自動操縦設計

ミサイルの自動操縦は、ミサイルのボディへの法線加速度を制御します。この例での自動操縦構造は、重心の前に置かれた加速度計からの測定値を使用する 3 ループ設計です。レート ジャイロが追加の減衰を提供します。コントローラー ゲインは入射角とマッハ数でスケジュールされ、高度 10,000 ft でロバスト性能が得られるように調整されます。

標準的な設計法で自動操縦を設計するには、機体のピッチのダイナミクスの線形モデルを、平衡化した多くの飛行条件に関して導き出す必要があります。MATLAB® では平衡化条件を判定し、線形状態空間モデルを非線形 Simulink モデルから直接導き出すことができます。この方法は時間を節約し、モデルの検証にも役立ちます。MATLAB Control System Toolbox™ と Simulink® Control Design™ で提供されている関数を使用することにより、機体の開ループ周波数 (または時間) 応答の動作を可視化できます。機体モデルの平衡化および線形化の方法を確認するには、機体の平衡化と線形化 (Simulink)を参照してください。

機体の周波数応答

自動操縦は、予想される飛行エンベロープにおいてさまざまな飛行条件で導き出された多くの線形機体モデルに基づいて設計されます。非線形モデルで自動操縦を実装するには、自動操縦のゲインを 2 次元ルックアップ テーブルに保存し、フィン要求角が上限値を超えた場合の積分器のワインドアップを防ぐためにアンチワインドアップ ゲインを組み込む必要があります。その後、非線形 Simulink モデルで自動操縦をテストして、アクチュエータ フィンやレート制限といった非線形性の存在下で、また飛行条件の変化に伴ってゲインが動的に変動する中で、申し分のない性能を示すことができます。Autopilot サブシステムはゲイン スケジュールを実装します。

ホーミング誘導ループ

ホーミング誘導ループには、ミサイルとターゲットの間の相対的な運動の測定値を返す Seeker/Tracker サブシステムがあります。Guidance サブシステムは、自動操縦に渡される法線加速度の要求を生成します。自動操縦は、ホーミング誘導システム全体における内部ループの一部になります。誘導のさまざまな形態、および誘導ループ性能の定量化に使用される解析手法の背景については、[4] を参照してください。

Guidance サブシステム

Guidance サブシステムは、閉ループ追従中に要求を生成し、初期探索を実行してターゲットの位置を突き止めます。Stateflow® チャートは、これらのさまざまな操作モードの切り替えを制御します。モード間の切り替えは、Simulink 内または Stateflow チャート内で生成されるイベントによってトリガーされます。"Mode" の値を変更することにより、Simulink モデルの動作を制御できます。この変数は、異なる制御要求の切り替えに使用されます。ターゲットの探索中、Stateflow チャートは、シーカーのジンバルに要求を送信して ("Sigma") トラッカーを直接制御します。ターゲットがシーカーのビーム幅の中に入ると、トラッカーによってターゲット捕捉のフラグが設定されます ("Acquire")。短い遅延の後、閉ループによる誘導が開始されます。Stateflow の機能により、システムは迅速にすべての動作モードを定義できます。たとえば、ターゲットが自動追跡されていない場合、またはターゲット探索中にターゲットが捕捉されない場合にとるべき動作などです。

比例航法誘導

シーカーがターゲットを捕捉すると、ミサイルは衝突するまで比例航法誘導 (PNG) 則で誘導されます。この形式の誘導則は 1950 年代から誘導ミサイルに使用されてきましたが、現在では、レーダー誘導ミサイルや赤外線誘導ミサイル、テレビジョン誘導ミサイルに適用可能です。航法則には次のデータが必要です。

  • ミサイルとターゲットとの閉成速度の測定値。レーダー誘導ミサイルではドップラー追跡装置を使用して取得可能

  • 慣性視線角度の変化率推定

Seeker/Tracker サブシステム

Seeker/Tracker サブシステムは、シーカーのジンバルを駆動してシーカーの皿型アンテナの向きをターゲットに合わせ続け、誘導則に視線変化率の推定値を提供します。トラッカーのループ時定数 "tors" は 0.05 秒に設定され、応答速度を最大限にすることとノイズ伝達を許容レベル以下に維持することとの妥協点を表します。照準収束ループはボディの回転率を補正します。ゲイン "Ks" (ループの交差周波数) は、照準収束速度ジャイロの帯域幅制限のもとで、できるだけ高く設定されます。視線変化率の推定値は、照準収束速度ジャイロで測定された皿型アンテナの角度の変化率と、受信機で測定された角度追跡誤差 ("e") の変化率の推定値を合計してフィルター処理した値です。この例では、推定器フィルターの帯域幅を自動操縦の帯域幅の半分に設定しています。

レドーム逸脱

レーダー誘導ミサイルの場合、一般的にモデル化される寄生フィードバックの影響は、レドーム逸脱です。レドーム逸脱は、返ってきた信号がシーカーの保護被覆の形状によって歪められ、ターゲットに対するルック アングルが誤って読み取られたときに発生します。一般的に、歪みの量は現在のジンバル角度の非線形関数です。しかし、モデルでは、Radome Aberration という名前の Gain ブロックを使用して、ジンバル角度と歪みの大きさとの線形関係を近似しています。その他の寄生効果 (法線加速度に対するレート ジャイロの感度など) もモデル化して、ターゲット トラッカーと推定器フィルターのロバスト性をテストできます。

誘導シミュレーションの実行

これで、システム全体のパフォーマンスをテストできます。ターゲットは、ミサイルの初期位置よりも 500 m 上空を、ミサイルの初期機首方位とは逆方向に一定速度 328 m/s で飛行すると定義されています。シミュレーション結果は、開始から 0.69 秒後に捕捉し、閉ループ誘導が 0.89 秒後に開始されたことを示しています。3.46 秒後にターゲットと衝突し、最接近地点での距離は 0.265 m です。

aero_guid_plot.m スクリプトによりパフォーマンス解析が実行されます。

アニメーション ブロックがシミュレーションの視覚的リファレンスを提供します。