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カスタム慣性の指定
主要な慣性の規則
Simscape Multibody ソフトウェアでは、慣性の定義においていくつかの規則を採用しています。計算を手動で行う場合には慣性計算に影響する可能性があるため、これらに注意を払ってください。この規則は、たとえば、CAD アプリケーションや他のサードパーティ製ソフトウェアをソースとする場合、慣性データにどんな追加処理が必要であるかにも影響する可能性があります。具体的には、以下のような内容です。
慣性乗積は、質量積分に明示的にマイナス符号を挿入する符号反転規則を使用して定義される。質量積分にマイナス符号が付かない別の規則も存在します。慣性乗積は慣性行列の非対角要素であることを思い出してください。
重心は、ブロックのローカル基準座標系に対して定義される。インポートされた CAD 形状をもつ固体では、通常、この座標系は CAD アプリケーションがその慣性計算で前提としたものになります。ただし、固体ジオメトリ ファイルを変更して、2 つの座標系が一致しなくなるようにすることは可能です。
慣性行列の定義
慣性行列は、ここでは解決の慣性座標系と呼ばれる、ローカル座標系周辺の物質の空間分布を捉えます。次の図では、この座標系に I というラベルが付けられています。その座標軸は、座標系端子 R に関連付けられていることに応じて R のラベルが付いた、ローカル基準座標系の座標軸と平行です。ただし、原点はローカルの重心と一致しています。
慣性行列は、慣性モーメントと慣性乗積で構成されます。慣性モーメントは行列の対角位置を占め、解決の慣性座標系の軸を中心とした質量分布のばらつき、または広がりを評価します。軸を中心とした広がりが大きいほど、その軸に対応する慣性モーメントが大きくなります。
慣性乗積は非対角位置を占め、解決の慣性座標系の平面に対する質量分布の非対称性を計測します。平面に対する非対称性が大きいほど、その平面内の任意の軸に関連付けられている慣性乗積が大きくなります。次の図は、これらの関係を示しています。
慣性方程式
行列は、主対角線に対して対称です。インデックスが互いの逆である非対角要素は同じ値を共有します。この制約によって、一意の慣性乗積の数が、元の 6 つ (非対角位置にあるすべて) からブロックで指定しなければならない 3 つ (インデックスの一意の組み合わせをもつもの) に減少します。
慣性乗積 Iij は、多くの CAD アプリケーションで採用されている一般的な符号反転規則を使用して、次のように定義されます。
ここで、ρ は質量密度、v は体積、V は積分の総体積です。x、y、z の座標は、重心から質量の無限小要素 ρdv までの距離ベクトルの直交座標成分です。慣性モーメント Iii も同様に定義されます。
円筒シェルや長方形ビームなどの単純な形状にこれらの定義を適用すると、標準的な工学表でしばしば公開される、よく知られた代数方程式が生成されます。慣性パラメーターを明示的に指定する場合には、このような表を参照することができます。Simscape Multibody の規則に従った完全な慣性行列は次のようになります。
慣性の主軸
慣性モーメントは定義により正の数値となります。しかし、慣性乗積は正、負、ゼロのいずれにもなり得ます。解決の慣性座標系の軸が慣性の主軸と一致した場合にはゼロになります。このような場合、慣性モーメントは主慣性モーメントと呼ばれ、慣性行列は "対角" 行列であると言われます。
この場合、指定しなければならない非ゼロの慣性行列要素の数は、主慣性モーメントの 3 個に減少します。このため、慣性の主軸は、慣性行列の要素を指定するのに便利な座標系となり得ます。これは、極めて対称的な事前設定形状の固体ブロックで想定される、解決の慣性座標系です。
ただし、これは通常、Extruded Solid や Revolved Solid の固体形状、あるいは STEP ファイルや STL ファイルを介してインポートされた固体形状には当てはまりません。Extruded Solid と Revolved Solid の形状では、座標系の配置は、幾何学的断面がどう定義されるかに大きく左右されます。インポートされた形状では、ローカルのゼロ座標に対して、パーツのジオメトリがどうモデル化されているかに左右されます。
ベスト プラクティスとして、慣性行列の要素を明示的に指定する場合、特に固体ブロックを使用するときには常に解決の慣性座標系の配置を考慮してください。座標系の位置は常に重心の位置ですが、固体ブロックを使用する場合、固体ジオメトリを基準とした座標系の向きが常に慣性の主軸と一致しているとは限りません。
実践: [Custom]
慣性の指定
次の図に示されている長方形ビームについて考えます。その質量、重心、慣性モーメント、および慣性乗積を求めます。[Custom]
の慣性パラメーター表現を使用して、計算されたパラメーターを Brick Solid ブロックで明示的に指定します。
材料および寸法. アルミニウム製であるとして、対応する質量密度 0.09754 lbm/in^3 を仮定します。以下のビーム寸法を使用します。
幅 x = 3 in
高さ y = 4 in
長さ z = 10 in
ビーム モデルの準備. Brick Solid ブロックを Simscape Multibody モデルに追加します。Brick Solid ブロックのダイアログ ボックスで、[Geometry] 、 [Dimensions] パラメーターを [3 4 10] in
に設定することによって、ビームのジオメトリを指定します。この配列は、ビームの寸法 [x y z] に対応しています。
ジオメトリのタイプはローカル基準座標系 (R) の配置に影響し、したがって、慣性の計算自体に影響します。可視化ツールストリップで、[Toggle visibility of frames] ボタンをクリックします。座標系 R は重心に位置し、その座標軸はビームの寸法 (x、y、および z) と平行です。
慣性パラメーターの指定. ビームの密度と寸法から慣性パラメーターを計算します。次に、Brick Solid ブロック パラメーターの [Inertia] セクションで、計算値を指定します。
Mass — 質量密度 (ρ) と体積 (x · y · z) の積:
Center of Mass — ローカル基準座標系 (R) を基準とした重心座標:
Moments of Inertia — 解決の慣性座標系 (I) に対する標準式から:
Products of Inertia — 解決の慣性座標系 (I) に対する対称性から:
慣性データ ソースとしての CAD
CAD アプリケーションは、多くの場合、パーツ モデルの慣性データを備えています。たとえば、SolidWorks ソフトウェアでは質量特性ツール、Onshape ソフトウェアでは同じツールの同ソフトウェア版によって、これを利用できます。このデータを参照し、Simscape Multibody 環境内で手動により指定することができます。
別の慣性規則
SolidWorks のような一部の CAD アプリケーションでは、慣性行列の要素の定義に別の慣性規則が使用されています。この規則では、慣性乗積の定義からマイナス符号が取り除かれています。たとえば、慣性乗積 Iyz は次のようになります。
慣性データのソースでこの規則が採用されている場合は、Simscape Multibody 環境で値を指定する前に、慣性乗積の符号を明示的に反転しなければなりません。例として、次のように与えられている SolidWorks の慣性行列を考えます。
Simscape Multibody 環境で行列の要素を正しく指定するには、次のように処理しなければなりません。
代替方法としての CAD インポート
CAD アセンブリ モデルの慣性データを参照する代わりに、そのモデルを Simscape Multibody 環境にインポートすることができます。CAD インポートは関数 smimport に基づいています。この関数は XML 形式のマルチボディ記述ファイルを解析し、慣性パラメーターを含むすべてのブロック パラメーターが事前に指定された、等価のブロック線図を生成します。
CAD モデルをインポートする前に、有効な XML 形式、すなわち Simscape Multibody の XML スキーマに準拠した形式でそのモデルをエクスポートしなければなりません。このオプションは、完全な CAD アセンブリ モデルがある場合のみに適しています。個々の CAD パーツの場合は、固体ブロックの STEP ファイル インポート機能を使用して、[Inertia] 、 [Type] パラメーターを [Calculate from Geometry]
に設定します。
詳細については、CAD 変換を参照してください。
実践: SolidWorks モデルの参照
次の図に示されている L 字ビームの形状の慣性パラメーターを求めます。その後、慣性のパラメーター表現を [Custom]
に設定して、慣性パラメーターを固体ブロックで明示的に指定します。この例でビームの SolidWorks モデル用に用意されている質量特性データを使用します。
固体のモデルを開く. MATLAB コマンド プロンプトで、「smdoc_lbeam_inertia
」と入力します。単純なモデルが開き、L 字ビームの固体を表す File Solid ブロックが表示されます。File Solid ブロックを開き、[Geometry] パラメーターを確認します。ビームのジオメトリは、事前に SolidWorks モデルからエクスポートされている STEP ファイルからインポートされています。次の図に、このジオメトリを示します。
可視化ペインで、[Toggle visibility of frames] ボタンをクリックします。可視化ペインに 2 つの座標系が表示されます。一方には R、もう一方には I のラベルが付けられています。
座標系 R は、固体のローカル基準座標系です。これは、SolidWorks のユーザーがパーツ モデルの "出力座標系" と呼ぶものと一致しています。この座標系は、ビームの長手方向の 2 つの端の一方にある L 字型の下の角に位置しています。重心は、この座標系を基準に指定しなければなりません。
座標系 I は、便宜のため追加されたカスタムの固体座標系です。この座標系は、解決の慣性座標系と一致しています。その原点は重心にあり、座標軸はローカル基準座標系の座標軸と平行です。慣性モーメントと慣性乗積は、この座標系に対して指定しなければなりません。
SolidWorks データの確認. SolidWorks モデルでは、L 字ビームのパーツに以下の質量特性データが用意されています。
Mass properties of l_beam_solid Configuration: Default Coordinate system: -- default -- Density = 0.10 pounds per cubic inch Mass = 2.19 pounds Volume = 22.41 cubic inches Surface area = 101.91 square inches Center of mass: ( inches ) X = 0.58 Y = 1.08 Z = 5.00 Principal axes of inertia and principal moments of inertia: ( pounds * square inches ) Taken at the center of mass. Ix = ( 0.00, 0.00, 1.00) Px = 2.49 Iy = ( 0.38, -0.92, 0.00) Py = 18.65 Iz = ( 0.92, 0.38, 0.00) Pz = 20.35 Moments of inertia: ( pounds * square inches ) Taken at the center of mass and aligned with the output coordinate system. Lxx = 20.10 Lxy = -0.60 Lxz = 0.00 Lyx = -0.60 Lyy = 18.89 Lyz = 0.00 Lzx = 0.00 Lzy = 0.00 Lzz = 2.49 Moments of inertia: ( pounds * square inches ) Taken at the output coordinate system. Ixx = 77.40 Ixy = 0.76 Ixz = 6.33 Iyx = 0.76 Iyy = 74.39 Iyz = 11.79 Izx = 6.33 Izy = 11.79 Izz = 5.76
データには、"出力座標系" に対する重心の座標が含まれています。この座標系は、対応する Simscape Multibody の固体のローカル基準座標系 (R) と一致しています。
データには、"重心で取得され、出力座標系に位置合わせされた" 慣性モーメントと慣性乗積をもつ行列も含まれています。この座標系は、Simscape Multibody の固体の解決の慣性座標系 (I) と一致しています。
慣性パラメーターの指定. File Solid ブロックのダイアログ ボックスの [Inertia] パラメーター セクションを展開します。次に、[Inertia] 、 [Type] パラメーターを [Custom]
に設定して、慣性パラメーター表現を変更します。指定ができるように、慣性パラメーター一式が表示されます。
[Mass] パラメーターを
2.19 lb
に設定します。これはアルミニウムの密度に応じた質量です。[Center of Mass] パラメーターを
[0.58 1.08 5.00] in
に設定します。これらは、SolidWorks のレポートに示されている重心の座標 [x y z] です。[Moments of Inertia] パラメーターを
[20.10 18.89 2.49] lbm*in^2
に設定します。これらは、SolidWorks のレポートに示されている慣性モーメント [Lxx Lyy Lzz] です。[Products of Inertia] パラメーターを
[0 0 0.6] lbm*in^2
に設定します。これらは、SolidWorks のレポートに示されている慣性乗積 [Lyz Lzx Lxy] の符号を反転したものです。
自動慣性計算
固体ブロックには、与えられた固体ジオメトリの慣性パラメーターの大部分を自動計算するオプションがあります。このオプションは、[Inertia] 、 [Type] ドロップダウン リストから使用でき、既定でオンになっています。指定が必要なのは、ジオメトリ パラメーターと、質量または質量密度のどちらか一方のみです。
ブロックは、ジオメトリ パラメーターと質量パラメーターを使用して、残りの慣性パラメーター (重心、慣性モーメント、慣性乗積) を適切な座標系を基準にして計算します。計算は、質量密度が一定かつ均一であるという仮定を基に行われます。
計算結果は、固体ブロック内の [Display Inertia] という名前の展開可能なセクションで表示できます。重心はローカル基準座標系 (R) を基準に与えられ、慣性モーメントと慣性乗積は解決の慣性座標系 (I) を基準に与えられます。これらは、これらのパラメーターの指定基準とされる可能性のある座標系と同じです。
実践: 慣性の計算結果の表示
固体のジオメトリとその質量密度から慣性パラメーターを計算するように、 smdoc_lbeam_inertia
モデルの File Solid ブロックを設定します。その後、計算されたパラメーターを表示します。
File Solid ブロックのダイアログ ボックスで、[Inertia] 、 [Type] パラメーターを
[Calculate from Geometry]
に切り替えます。[Display Inertia] ノードが [Density] パラメーターの下に表示されます。[Density] パラメーターを
0.09754 lbm/in^2
に設定します。この値はアルミニウム構造の固体に対応しており、SolidWorks データの確認で提供された SolidWorks のデータで前提とした値と同じです。[Display Inertia] ノードを展開して、[Update] ボタンをクリックします。[Display Inertia] の慣性パラメーターに、計算された値が入力されます。それらを SolidWorks の質量特性データに示されている値と比較します。