可変慣性の指定
可変慣性のモデル化
"可変慣性" は、時間の経過によって変化する可能性のある、質量、重心、または慣性テンソルをもつ質量要素です。可変慣性には、バックホー バケットですくった内容物、ブーム式昇降機で移動する乗員、減速するタンク ローリーの流体のスロッシング荷重などがあります。[Body Elements] 、 [Variable Mass] ライブラリの General Variable Mass ブロックを使用して、可変慣性をモデル化します。このブロックは、さまざまな慣性特性を定数または変数として受け入れます。物理量信号端子によって、可変特性を指定する手段が提供されます。
可変慣性としての流体負荷
可変入力の指定
Simscape™ ブロックまたは Simulink® ブロックを使用して可変入力を指定することができます。Simulink 信号は、Simulink-PS Converter ブロックを使用して物理量信号に変換しなければなりません。モデルの剛性が増大し、シミュレーション速度が低下する可能性があるため、急激な変化は避けるようにします。信号の次元が端子と一致していることを確認してください。
質量にはスカラー (端子 [m])
重心には 3 要素ベクトル (端子 [com])
慣性テンソルには 9 要素行列 (端子 [I])
可変慣性の可視化
General Variable Mass ブロックと関連付けられた可変慣性にはジオメトリがありません。これらの慣性は、グラフィカル マーカーまたは等価の慣性楕円体として可視化しなければなりません。楕円体の寸法とジオメトリの中心は、質量、重心、慣性テンソルによって変化するため、楕円体によってモデルの可視化がより有益なものとなります。慣性のマーカーは、モデルの更新時およびシミュレーション中に表示されます。可変慣性の楕円体はシミュレーション中にのみ表示されます。次の図は、タンク ローリーで運ばれる流体の負荷を表す慣性の可視化を示しています。
等価の慣性楕円体の可視化
ボディの相互作用のモデル化
General Variable Mass ブロックは慣性の効果のみを捉えます。可変慣性と他のモデル コンポーネント間の相互作用は、明示的にモデル化しなければなりません。相互作用の例には、タンク ローリーの流体負荷と容器内面との接触力などがあります。また、海上船舶や宇宙船などで、推進装置の燃焼生成物が放出されることによって得られる運動量の変化なども挙げられます。他の Simscape Multibody™ ブロック、Simscape ブロック、Simulink ブロックを使用して、このような相互作用を捉えます。
可変質量振動子のモデル化
ばね質量系の単純なモデルを作成し、一定質量と可変質量のそれぞれの条件下でシミュレーションを行います。モデルでは、General Variable Mass ブロックを使用して、徐々に落下する砂の荷重を受けるコンテナーを表現します。Cartesian Joint ブロックは可変質量ボディに 3 つの並進自由度を与えますが、シミュレーション中に関係するのは垂直の z 軸に沿った 1 つのみです。Spring and Damper Force ブロックはバネ要素を表し、可変質量ボディをワールド座標系に接続します。
ブロック線図の作成
MATLAB® コマンド プロンプトで「
smnew
」と入力します。このコマンドによって、よく使用される Simscape Multibody ブロックを含むモデル テンプレートが開かれます。次のブロックをモデル キャンバスに追加します。
General Variable Mass ([Body Elements] 、 [Variable Mass])
Cartesian Joint ([Joints])
Spring and Damper Force ([Forces and Torques])
次の図のようにブロックを接続し、残りのブロックを削除します。base 座標系端子が World Frame ブロックと向き合うように、ジョイント ブロックの向きが図示どおりになっていることを確認します。
Spring and Damper Force ブロックのダイアログ ボックスで、[Natural Length] パラメーターを
0.2
m に、[Spring Stiffness] パラメーターを10
N/m に設定します。Cartesian Joint ブロックのダイアログ ボックスで、[Z Prismatic Primitive (Pz)] 領域を展開し、[State Targets] 、 [Specify Position Target] チェック ボックスをオンにして [Value] パラメーターを
0.1
m に設定します。
位置検出の追加
Cartesian Joint ブロックのダイアログ ボックスで、[Z Prismatic Primitive (Pz)] 領域を展開し、[Sensing] 、 [Position] チェック ボックスをオンにします。ブロックに振動子の座標系の位置をもつ物理量信号出力端子が表示されます。
次のブロックをモデル キャンバスに追加します。
PS-Simulink Converter ([Simscape] 、 [Foundation Library] 、 [Utilities])
Scope ([Simulink] 、 [Sinks])
次の図のようにブロックを接続します。
一定質量によるシミュレーション
General Variable Mass ブロックのダイアログ ボックスで、[Type] パラメーターを
[Custom]
に設定します。このオプションを使用すると、回転慣性をもつ可変質量の分布をモデル化できます。[Mass]、[Center of Mass]、[Inertia Matrix] の各パラメーターを
[Constant]
に、[Mass] 、 [Value] パラメーターを0.2
kg に設定します。シミュレーションを実行し、Scope ブロックを開きます。プロットに可変質量の基準座標系の位置が表示されます。振動の周波数および振幅はシミュレーション全体を通じて一定に保たれることに注意してください。
Mechanics Explorer が開き、モデルの 3D アニメーションが表示されます。可視化は、慣性楕円体のみで構成されます。モデルで使用された既定の慣性テンソルの対称性によって、ここでは球体になります。メニュー バーで [View] 、 [Show Frames] を選択し、モデル内のすべての座標系を表示します。楕円体の寸法は、モデルで指定された一定の慣性特性を反映して、シミュレーションの間一定に保たれることに注意してください。
可変質量によるシミュレーション
General Variable Mass ブロックのダイアログ ボックスで、[Center of Mass] パラメーターと [Inertia Matrix] パラメーターをそれぞれ
[Constant]
に設定します。シミュレーション中にこれらの値を変化させるために使用されていた物理量信号端子が非表示になり、固体の質量のみが変数として残ります。次のブロックをモデル キャンバスに追加します。
Simulink-PS Converter ([Simscape] 、 [Foundation Library] 、 [Utilities])
Ramp ([Simulink] 、 [Sources])
次の図のようにブロックを接続します。
Ramp ブロックのダイアログ ボックスで、[Slope] パラメーターを
0.1
に、[Initial output] パラメーターを0.2
に設定します。Ramp の信号は、Simscape の既定の質量単位 kg で General Variable Mass ブロックに渡されます。信号は、定常的に増加する質量に対応します。これは、0.2
kg で始まり、10 秒間のシミュレーションの後に1.2
kg で終了します。シミュレーションを実行し、Scope ブロックを開きます。位置のプロットに可変振動の周波数および振幅が表示されます。質量の増加によって振動の周波数は増加し、振幅は減少します。
Mechanics Explorer により可視化の結果が更新されます。楕円体の寸法は、可変質量に反比例することを反映し、シミュレーションが進むにつれて減少することに注意してください。