技術情報

インピーダンス制御によるロボット操作の進化

著者 Tadele Shiferaw, MathWorks


ロボット マニピュレーターは、多様な用途に利用されてきており、製造、医療、農業、物流などの分野で作業効率と精度を高めています。 動的な環境下での安全で効果的な作業を実現するためには、マニピュレーターにコンプライアンス特性を持たせることが不可欠です。これにより、運用時の適応性や精密な動作、安全性が強化されます。 インピーダンス制御は、ロボットが人間のように柔軟な操作動作を再現できるようにする最先端の制御手法です。 本稿では、モデリングとシミュレーションを活用したインピーダンス制御手法の設計と実装を解説します。

インピーダンス制御の概要

インピーダンス制御とは、ロボット工学において、ロボットと外界との相互作用力を調整するために、ロボットのインピーダンス (外力や変位に対する応答特性) を動的に変化させる制御戦略です[1]

ここでは、1 自由度 (DOF) の単純なロボットモデルを例に取ります。このロボットは、位置 \( X_m \) にある質量として定義されており、目標位置 \( X_d \) まで移動させることを目的とします。このような場合、古典的な比例-微分 (PD) 制御器を用いることで、以下の数式で簡単に制御することができます。

\( F_{controller} = k(X_d - X_m) - d {\dot{X_m}} \)

この式を詳しく見ると、PD 制御器の制御動作は、比例項がバネ、微分項がダンパーとして機能するバネ-ダンパー系として物理的に解釈できます。 これは単純なインピーダンス制御器として機能し、質量を目標位置に移動させるだけでなく、外力が作用した時に感じられる目標インピーダンスをシステムに注入します (図 1 参照)。

自由度 1 インピーダンス制御システムのモデル。

図 1. 単純な自由度 1 インピーダンス制御システム。

単純なインピーダンス制御システムのモデリング

この簡略化された自由度 1 システムは、物理モデリング言語である Simscape™ を用いることで容易にモデリングできます。Simscape™ は、ライブラリ ブロックを双方向のエネルギーフローで接続することが可能です (図 2 参照)。

図 2. 単純な自由度 1 インピーダンス制御システムの Simscape モデル。

ここで、剛性定数や減衰係数といった制御器のパラメーターを調整することで、システム全体が目標位置を追従する際の目標コンプライアンス特性 (柔軟な動作) を定義することができます。 図 3 には、コンプライアンス特性が適切な場合と高い場合のインピーダンス制御システムの動作の違いを示しています。

図 3. 制御器のコンプライアンス特性の調整により、移動質量の運動特性が変化します。

多自由度マニピュレーターのインピーダンス制御

先に述べたインピーダンス制御器の概念は、多自由度 (N-DOF) ロボット マニピュレーターにも拡張可能です。この場合、多次元幾何学的バネを用いてロボットのエンドエフェクタの姿勢 \( {H^0}_t \) を目標姿勢 \( {H^0}_d \) に合わせ、各自由度ごとに関節空間ダンパーを通じてシステムに減衰を注入します (図 4 参照)。

多自由度ロボット マニピュレーターの図。多次元幾何学的バネを用いてエンドエフェクタの姿勢を調整し、各自由度ごとに関節空間ダンパーを通じて減衰を注入しています。

図 4. 多自由度ロボット マニピュレーターのインピーダンス制御。 コンプライアンス特性は空間バネ定数 \( K \) に起因し、関節には減衰係数 \( b_n \) が付加されます。

対称な並進・回転・結合剛性行列 \( K_t \)、\( K_c \)、\( K_o \) を与えた場合、行列 \( K∈R^{6×6} \) で定義される空間幾何学的バネは、マニピュレーターに対して相対姿勢 \( {H^d}_t\) の関数として力を発生させます。

\( K = \begin{pmatrix} K_o & K_c \\ {K^T}_c & K_t \end{pmatrix} \)

力は、エンドエフェクタ座標系で 6 次元のレンチベクトル \( W^t=[m^t f^t] \) として、次のように計算されます。[2]

\( \widetilde{m^t} = -2as({G_o}{{R^d}_t}) - as ({G_o}{{R^t}_d}{\widetilde{{p^d}_t}}{\widetilde{{p^d}_t}}{{R^d}_t}) - 2as({G_c}{\widetilde{{p^d}_t}}{{R^d}_t}) \)

\( \widetilde{f^t} = -{{R^t}_d}as({G_o}{\widetilde{{p^d}_t}}){{R^d}_t} - as ({G_o}{{R^t}_d}{\widetilde{{p^d}_t}}{{R^d}_t}) - 2as({G_c}{{R^d}_t}) \)

ここで、

  • \( as(⋅) \) は正方行列の歪対称部分を与える演算子です。
  • \( G_t \)、\( G_c \)、\( G_o \) は、空間バネの共剛性行列で、\( G_x = \frac{1}{2}tr(K_x)I−K_x \) として計算されます。
  • \( tr (.) \) はテンソルトレース演算子です。
  • ~ はベクトルのクロス積行列形式を表すチルダ演算子です。

レンチ \( W^t \) を慣性基準座標系 \( Ψ_0 \) に座標変換した後、マニピュレーター上で目標エンドエフェクタ レンチを再現するための関節トルク \( τ \) は、次のように計算されます。

\( (W^o)^T = A{d^T}_{{H^t}_o} (W^t)^T \)

\( τ = {J^T}(q){W^o} \)

ここで、

  • \( Ad (⋅) \) は、同次変換行列の随伴行列です。
  • \( J(q) \) はロボット マニピュレーターのヤコビアン行列です。

インピーダンス制御によるロボット マニピュレーターのモデリング

制御アルゴリズムをロボット マニピュレーター上で評価するために、Simscape Multibody™ を使用して、自由度 7 の Kinova® Gen3 マニピュレーター の動的モデルを作成しました。 マニピュレーターの CAD モデルが URDF 形式で利用可能な場合、以下のコマンドを使用することで、動的シミュレーションに利用可能な詳細なマルチボディモデルを自動生成できます。

smimport('kinovaGen3.urdf')

以下の図 5 に示されているシステムの全体モデルは、目標姿勢生成器、環境障害物、外界との相互作用が組み込まれており、シミュレーションで制御器の性能を多角的に評価しています。

図 5. インピーダンス制御された自由度 7 ロボット マニピュレーターが、さまざまな環境と相互に作用するシステムの全体モデル。

Robotics System Toolbox™ は、重力補償アルゴリズムによってマニピュレーターのインピーダンス制御器をさらに強化し、操作性能を向上させます。 その結果、図 6 に示すとおり、最終的な制御出力は、空間バネ、重力補償、減衰注入のトルクを合計した関節空間トルクとなります。

自由度 7 ロボット マニピュレーターのインピーダンス制御器のモデル。

図 6. 自由度 7 ロボット マニピュレーターのインピーダンス制御器の詳細。

シミュレーション結果

シミュレーションにより、時刻 \( t = 16 \) \(sec \) に外力が X 方向に加えられ、さらに約 \( t = 30\) \(sec \) に障害物が x 軸上を移動し、マニピュレーターと相互に作用する状況が検証されました (図 7 参照)。 期待どおり、直交空間での並進剛性 \(K_t =400 \) \(N/m \) に設定されたインピーダンス制御マニピュレーターに外力 \( F_{ext} = 40N \) を印加した場合、変位 \( x_{def} = 0.1m \) が生じました。 また、Mechanics Explorer で生成された動画アニメーション (図 8) からも分かるように、システムは移動障害物と相互に作用している間にも安定した現実的な動作を示しました。

シミュレーション結果を示す 4 つのグラフ。x 軸、y 軸、z 軸に沿って目標と実際のエンドエフェクタ位置を示しています。

図 7. シミュレーション結果は、x 軸、y 軸、z 軸に沿って目標と実際のエンドエフェクタ位置を示しています。

ビデオの長さ 0:50

図 8. ロボットの動作と障害物との相互作用を示す 3D アニメーション。

シミュレーション結果で検証されているように、直交インピーダンス制御器は、柔軟な相互作用機能を実現するために目標コンプライアンス特性を注入するだけでなく、マニピュレーター制御に向けた計算集約的な逆運動学計算の必要性も回避します。 また、これは物理的に説明できる直感的な制御設計アプローチであり、実装には関節レベルのトルク制御器が必要となります。

参考文献

[1] Hogan, Neville. “Impedance Control: An Approach to Manipulation: Part I—Theory; Part II—Implementation; Part III—Applications.” Journal of Dynamic Systems, Measurement, and Control, vol. 107, no. 1, March 1985, pp. 1–24.

[2] Stramigioli, Stefano. Modeling and IPC control of Interactive Mechanical Systems — A Coordinate-Free Approach, Lecture Notes in Control and Information Sciences (Springer London, 2001).

公開年 2025