ホワイトペーパー

はじめに

電力系統の大規模シミュレーションで現実に近いものを作成したい場合、一般的にはその電力系統の代表的なモデルを個別にキャリブレーションする必要があります。このプロセス、つまり、電力プラントモデルの検証 (PPMV) は、オフラインでのステップテストと電力系統イベントのオンラインによる性能監視の両方で実行できます。さらに、現代の電力系統では、風力、太陽光、エネルギー貯蔵の割合が増加しているため、従来の発電に加え、これらの再生可能エネルギーシステムの正確なモデルがますます重要になっています。PPMV の主な目標は、以下のとおりです。

  • モデルの潜在的なエラーや修正の検出
  • モデル改良案に対するパラメーターの感度の把握

このタスクは、特に NERC MOD-026 や MOD-027 標準などの技術的な規制を満たす要件となる場合に困難となる可能性があります。このホワイトペーパーでは、MATLAB® と Simulink® を使用した PPMV のワークフローを、オフラインでのステップテストのデータと、再生可能エネルギーおよび従来の発電の両方のフェーザ測定ユニット (PMU) データを使用した電力系統イベントのオンラインによる性能監視に重点を置いて説明します。手動による調整と自動化された技術の両方を含むワークフローを検討します。太陽光発電所のケーススタディを通して、以下の内容を説明します。

  1. シミュレーションを使用した測定データの再生
  2. フィールドデータの再生を使用した応答不一致に関する洞察
  3. 工学的判断と自動化されたパラメーター感度を使用した、システムパラメーターがシステム応答に与える影響の評価とランク付け
  4. 手動調整と自動パラメーター推定の両方を使用したシステム応答の微調整

以下の従来の発電テストに使用する追加のテンプレートについても解説します。

  1. ゼロ力率負荷遮断テスト
  2. 開回路電圧ステップテスト
  3. オンライン ステップ テスト
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シミュレーションを使用した測定データの再生

実データを用いて標準化された電力系統モデルのキャリブレーションでは、シミュレーションの応答と現場の測定データの両方を重ね合わせて比較する必要があります。その 1 つが、測定したフィールドデータをシミュレーション モデルを通して再生し、応答を観察することで比較する手法です。再生可能エネルギーの電力系統への流入に伴い、従来の発電向けの IEEE 標準モデルと類似した、プラント性能向けの標準化モデルが開発されています。図 1 (下図) は、実用規模の太陽光発電所を大まかに表現したものです。

図 1. 複数のベンダーに対応する実用規模の太陽光発電所の標準モデル。

図 1. 複数のベンダーに対応する実用規模の太陽光発電所の標準モデル。

PPMV の特徴は、シミュレーション モデルを使用して測定データを再生することです。オフラインのステップテストでは、制御信号の測定値を使用してプラントモデルを励起するデータ再生を行います。オンラインによる性能監視の場合、データ再生では、電力系統の接続点での電圧または電流の物理的な測定値を使用してプラントモデルを励起します。PPMV の実行に必要な測定値として、電圧 (V)、周波数 (F)、有効電力 (P)、および無効電力 (Q) の 4 つを考慮するのが一般的です。従来の発電では、記録されている場合は、界磁電圧または界磁電流をテスト手順で使用することもできます。

下の図 2 では、太陽光発電施設のモデル (REEC_A、REPC_A、および REGC_A を使用) に、フィールドデータを再生してプラント性能を確認するための VF 再生ブロックがあります。

図 2. 有効電力および無効電力を一致させるための電圧および周波数フィールドデータの再生。

図 2. 有効電力および無効電力を一致させるための電圧および周波数フィールドデータの再生。

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フィールドデータの再生を使用した応答不一致に関する洞察

PPMV の最初の段階は、パラメーターの手動調整を通して応答の不一致に関する洞察を得ることです。以前の経験に基づき、調整すべき "定番の" パラメーターリストを持っている可能性があります。また、応答の不一致の属性を観察することで、調整が必要な特定のパラメーターを示すさらなる洞察を得ることもできます。図 3 は、再生可能エネルギープラントの例における VF 再生の結果を示しています。シミュレーションした PQ 応答が測定した PQ 応答と一致しないため、モデルパラメーターは不正確であり、パラメーター調整が必要です。P と Q の応答は動的な応答差があるため、電圧フィードバック ループ パラメーターが応答差の原因であると考えられ、手動で調整することが可能です。

図 3. 太陽光発電所のモデルパラメーターを現場の性能に合わせて調整する必要があることを示す VF 再生の結果。

図 3. 太陽光発電所のモデルパラメーターを現場の性能に合わせて調整する必要があることを示す VF 再生の結果。

工学的判断と自動化されたパラメーター感度を使用した、システムパラメーターがシステム応答に与える影響の評価とランク付け

手動でパラメーターを調整することも可能ですが、太陽光発電所のモデルには、調整可能なパラメーターが 50 以上あります。この電圧ステップテストで注目すべきパラメーターを見つけるために、自動化されたパラメーター感度を適用して、追加のシステムパラメーターがシステム応答に及ぼす影響を評価し、ランク付けすることができます。図 4 に示すように、感度解析では、パラメーターに小さな摂動を与えて多くのシミュレーションを行い、結果に最も改善が見られるパラメーターを特定します。この方法によって、最も重視すべきパラメーターを特定できます。

図 4. VF 再生太陽光発電所モデルに接続する感度解析インターフェイス。

図 4. VF 再生太陽光発電所モデルに接続する感度解析インターフェイス。

感度解析の結果は、図 5 に示すとおりです。このプロットは,今回テストした 4 つのパラメーターを示しており、repc_Ki ゲインパラメーターが電圧ステップ応答性能の向上に最も大きな影響を与えることがわかります。

図 5. 調整すべき最も重要なコントローラーのパラメーターを特定する感度解析の結果。

図 5. 調整すべき最も重要なコントローラーのパラメーターを特定する感度解析の結果。

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手動調整と自動パラメーター推定の両方を使用したシステム応答の微調整

手動調整と自動パラメーター感度に続き、自動パラメーター推定を適用して応答を微調整できます。パラメーターの自動推定タスクで、パラメーター値の範囲に制約を設けることができるほか、複数のテストを追加することで、特定したパラメーターが太陽光発電所の幅広い運転範囲に対して正確であることを確認できます。図 6 に示すように、パラメーター推定は、プラントパラメーターの自動調整により、最適化手法を用いてシミュレーションデータとフィールドデータの差を最小化するものです。

図 6. P と Q のフィールドデータに一致させるための太陽光発電所のパラメーター推定。

図 6. P と Q のフィールドデータに一致させるための太陽光発電所のパラメーター推定。

自動微調整が終わっても PPMV タスクは終了しないことに注意してください。結果を評価し、さらに手動で調整できるかどうかを判断する必要があります。たとえば、大きな変更がないパラメーターを元の値に戻し、反応を比較します。結果が同等であれば、最小限のパラメーター変更に集中する方が適切な場合もあります。

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従来型発電の再生例

再生可能エネルギーモデルの検証に加え、一般的な従来型発電設備のフィールドデータを再生できます。PMU データも利用できますが、プラント機器の特定のオフラインテスト用の再生を構成できます。複数の独立したテストや検証研究を行う利点は、各コンポーネントを分離してテストできるため、調整すべきパラメーターの数を最小化できることです。以下の構成例では、太陽光発電施設の例で示したような感度解析とパラメーター推定の両方を実行できます。

ゼロ力率負荷遮断テストでは、PQ 再生を使用して発電機を分離してシミュレーションできます (図 7 参照)。P と Q の再生に加え、周波数や測定した界磁電圧 (Efd) など、他の測定値も再生できます。この場合、データマッチングでは発電機の端子電圧に焦点を合わせることができます。

図 7. ゼロ力率負荷遮断テスト構成の例。

図 7. ゼロ力率負荷遮断テスト構成の例。

検証済みの発電機モデルを使用して、励磁システムの電圧ステップテストなど、追加のオフラインテストでコンポーネントを追加することができます。図 8 では、ST1A 励磁システムが含まれています。基準電圧が再生され、発電機の端子電圧が一致することを確認できます。このモデルはオフラインテストであるため、有効電力と無効電力の電力再生はゼロです。

図 8. オフライン電圧ステップテスト構成の例。

図 8. オフライン電圧ステップテスト構成の例。

最後に、電力系統安定化装置などのコンポーネントを追加できます。図 9 では、モデルに PSS2C を追加し、PQ 再生を用いてグリッド接続データを使用するすべてのコンポーネントの検証を行っています。この例には直接追加されていませんが、調速機モデルを周波数再生に含めることもできます。プラントテストのテンプレートを作成しておくと、同様のテストを実施する複数の電力プラントに対して同じテンプレートを使用できます。発電機や励磁システムが異なるイベントでは、これらのブロックを交換するだけで異なるプラント構成にすることができます。

図 9. フィールドデータの PQ 再生を用いたオンライン ステップテストのテンプレート例。

図 9. フィールドデータの PQ 再生を用いたオンライン ステップテストのテンプレート例。

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まとめ

このホワイトペーパーでは、PMU データを用いた電力系統イベントのオンライン性能監視に適用する PPMV を、手動による調整と自動化された技術の両方を含むワークフローを用いて検討しました。実用規模の太陽光発電所のケーススタディでは、以下のようなワークフローの手順が示されました。

  1. シミュレーションを使用した測定データの再生
  2. フィールドデータの再生を使用した応答不一致に関する洞察
  3. 工学的判断と自動化されたパラメーター感度を使用した、システムパラメーターがシステム応答に与える影響の評価とランク付け
  4. 手動調整と自動パラメーター推定の両方を使用したシステム応答の微調整

MATLAB および Simulink を使用すると、自動化された技術により、電力プラントモデルの検証を効率的に実行できます。このワークフローでは、NERC MOD-26 標準などの技術的な規制に対応する際の洞察と柔軟性を得ることができます。