ホワイトペーパー

はじめに

ハイブリッド電気自動車 (HEV)、プラグイン ハイブリッド電気自動車 (PHEV)、バッテリー電気自動車 (BEV) などの電動車両 (EV) を開発するエンジニアは、AI を使用して、センサーで直接測定できない物理量を推定するモデルの構築、制御手法の最適化、およびシミュレーションの高速化を行っています。これらの技術はモデルベースデザイン (MBD、モデルベース開発) のワークフローに直接統合され、チームが既に使用している物理ベースモデル、制御アルゴリズム、および検証プロセスを強化しています。

チームでは、MATLAB® および Simulink® 内でこれらの AI モデルに直接学習させるか、PyTorch などのオープンソースのフレームワークで学習させたモデルをインポートしてから、展開前にシミュレーションと検証を実行できます。

この移行は、量産車両プログラムにおいて既に進行中です。Hyundai、Cummins、SUBARU、Schaeffler、Yanmar、Mercedes-Benz などの自動車企業では、AI を EV 開発ワークフローに組み込んでいます。このホワイトペーパーのケーススタディは、これらの企業のエンジニアリング チームによる取り組みに基づいて、AI ベースの自動車エンジニアリングが将来の可能性ではなく、既に実用化されているということを示します。従来の手法だけに依存している組織では、短縮された車両開発サイクルについていくことが困難になるおそれがあります。

継続的なテスト層を備えた、5 つの開発段階にわたる AI 統合型のモデルベースデザインのワークフローを示す図。プラントモデリング、制御設計、および展開/検証という 3 つの AI の用途領域が強調表示されています。

モデルベースデザインのコンテキストにおける、プラントモデリング、制御設計、展開、および検証のための AI ベースの手法。

AI は、次のように電動車両開発ワークフローの異なる段階に組み込まれます。

  • プラントモデリング: システム同定は、測定データから動的モデルを直接作成します。一方、低次元化モデリング (ROM) は、サードパーティ製ツールでの低速なコシミュレーションを含む、計算負荷の高いコンポーネントモデルを、高速かつ正確なサロゲートに置き換えます。これらの手法を組み合わせることで、制御開発、最適化、トレードスタディ、およびハードウェアインザループ (HIL) テスト向けの効率的なシミュレーションとリアルタイム実行が可能になります。
  • 制御設計: バーチャルセンサーは、コントローラーが必要とする物理量を、車両バス上で既に利用可能な信号から推定します。強化学習、モデル予測制御、およびその他の高度な制御手法は、制御手法とキャリブレーションの最適化に役立ちます。
  • 展開および検証: AI モデルを自動車の ECU に展開し、セーフティクリティカルなシステムでその動作を検証するには、圧縮、コード生成、ロバスト性テスト、および実行時監視のような、学習だけにとどまらないワークフローが必要になります。

車両の運用開始後、AI ベースの異常検出により、故障が発生する前にバッテリーやハードウェアの劣化を検出します。運用データから、故障の早期警告や残存耐用時間の推定が得られます。

以降のセクションでは、EV 開発ワークフロー全体にわたって AI 技術がこれらのエンジニアリングの課題にどのように対処するかを示します。

低次元化モデリング、バーチャルセンサー、制御向けの強化学習、異常検出と予知保全、および組み込み AI と AI 検証という 5 つの AI 機能領域と、各領域が対処に役立つそれぞれのエンジニアリングの課題。

EV 開発ワークフロー全体にわたるエンジニアリングの課題に対処するための AI の応用。

生成 AI とエージェント型 AI も、アーティファクトの迅速な生成から、エンジニアが定義した目標に基づくタスクの実行まで、エンジニアリング ワークフローにも影響を与え始めています。このホワイトペーパーでは、これらのユースケースについては説明しません。代わりに、エンジニアがモデルベースデザイン内で構築および検証してから、量産ハードウェアに展開する AI モデルの活用に焦点を当てています。

MATLAB と Simulink の生成 AI とエージェント型 AI 機能の概要をご覧ください。

低次元化モデリングとシステム同定

コンポーネント設計向けに構築された高忠実度物理モデル (サードパーティ製ツールによるものを含む) は、制御、アーキテクチャの選択、およびシステムレベルの相互作用の評価に必要となる詳細なコンポーネントの動作を提供するため、Simulink でコシミュレーションされることがよくあります。これらのコンポーネントモデルは、システムレベルのシミュレーションや制御設計最適化に必要な迅速な反復試行を行うには計算負荷が高すぎる場合があり、また、HIL テストやオンライン推定に必要なリアルタイム実行に対応できない場合もあります。これらのモデルは、元々の設計目的は十分に果たしますが、より広範なエンジニアリング ワークフローには適していません。

AI ベースのプラントモデリングは、システム同定と低次元化モデリングという 2 つの関連する手法によって、この課題に対処します。システム同定では、物理的なコンポーネントは利用可能であるが適切なシミュレーション モデルがない場合に、測定された研究室データ、動力計データ、またはフィールドデータを使用して動的モデルを構築します。たとえば、エンジニアリング チームがサプライヤーからコンポーネントを受け取り、システムレベルのシミュレーションや制御設計用のモデルを作成する必要がある場合があります。低次元化モデリングでは、高忠実度モデルからのデータを使用して、周囲のシステムで必要とされる入出力動作を維持する、より高速なサロゲートの学習を行います。

MATLAB および Simulink では、両方のワークフローをサポートしています。エンジニアは、非線形 ARX やニューラル状態空間モデルなどのシステム同定手法を使用して、測定データから AI ベースの動的モデルを作成できます。また、実験計画法 (DOE) に基づく検討を高忠実度モデルに対して行い、ルックアップテーブルや、ディープラーニングまたは機械学習手法を用いて構築された AI ベースのサロゲートを含む、低次元化モデル用の学習データを生成することもできます。

モデリング手法を 4 つのタイプに分類した分岐図: AI ベースのデータ駆動、物理ベース (Simulink/Simscape)、線形化 (LPV)、およびモデルベース (FEA 状態空間)。

MATLAB および Simulink における AI ベースおよび非 AI ベースの ROM 作成手法。

Hyundai America Technical Center: EV 熱マネジメント向けのニューラル状態空間サロゲート

Hyundai America Technical Center (HATCI) では、IONIQ 5 AWD での熱制御開発向けに、固定時間ステップソルバーを使用してリアルタイムよりも高速に実行できるシミュレーション環境を必要としていました。既存の GT-SUITE リファレンスモデルは、反復的な制御設計を行うには遅すぎ、また他のシミュレーション環境に展開することもできませんでした。

チームでは、車両全体を MATLAB および Simulink で再構築しました。具体的には、Simulink でマップベースのパワートレインモデルを、Simscape® でパワー エレクトロニクスおよびバッテリー クーラント ループと冷媒ループを含む完全な熱システムを構築しました。標準的な動力計サイクルおよび計測器が取り付けられた IONIQ 5 からのオンロードデータに照らしてモデルを検証し、エネルギー消費量が測定値の 1.3% 以内であることを確認しました。

冷媒ループにおけるコンプレッサーの切り替え過渡特性と膨張弁のダイナミクスにより、数値的なスティッフ性が生じ、固定時間ステップソルバーを使用した際にシミュレーションが失敗していました。これを解決するため、チームは冷媒ループ全体を、Reduced Order Modeler アプリで学習させたニューラル状態空間モデルに置き換えました。ROM は、システム温度、弁の位置、およびポンプ速度を入力として受け取り、冷媒ループと冷却システムの他の部分との相互作用点である水凝縮器における冷媒温度を予測します。学習データは周囲温度が摂氏 -20 から 35 度の範囲で行われた 35 回のオンロード走行セッションから取得され、学習は 1 時間未満で完了しました。

バッテリーおよび PE クーラントループを示す車両熱マネジメントシステムの Simscape モデル。DD-ROM および水凝縮器サブシステムが強調表示されています。

パワー エレクトロニクスおよびバッテリー クーラント ループが Simscape で保持されていることを示す熱モデルアーキテクチャ。冷媒ループが水凝縮器の温度を出力するデータ駆動型 ROM に置き換えられています。(画像著作権: Hyundai America Technical Center, Inc.)

この ROM を実装すると、IONIQ 5 のモデルは、0.1 秒の固定時間ステップソルバーを使用してリアルタイムの最大 5 倍の速さで実行されます。A/C モード (摂氏 30 度) とヒーターモード (摂氏 -5 度) の両方におけるテストデータに対する検証により、全動作範囲にわたる精度が確認されました。 

モーター、インバーター、オイルパン、バッテリー、冷媒の温度など、車両熱システムにおける熱パラメーターについてテスト結果とシミュレーション結果を比較した 8 つの検証プロット。

周囲温度摂氏 30 度における A/C モードでの主要な熱コンポーネント (モーター、バッテリー、オイルループ、パワー エレクトロニクス クーラント、および冷媒) のシミュレーション温度と測定温度の比較。(画像著作権: Hyundai America Technical Center, Inc.)

Cummins: エンジン性能予測のためのニューラル ネットワーク サロゲート

Cummins では、エンジン サイクル シミュレーション中に、流量、温度、圧力、トルク、および NOx 排出量など、26 個のエンジン応答パラメーターを予測する必要がありました。サードパーティ製ツールを使用した既存の 3D から 1D へのシミュレーションは、リアルタイムの 20 倍を超える時間がかかり、反復的な開発やキャリブレーションを行うには遅すぎました。

Cummins India のチームは、Deep Learning Toolbox™ を使用して 2 つの手法を評価しました。標準的なフィードフォワード ニューラル ネットワーク (6 個の隠れ層、層あたり 5 個のニューロン) は、リアルタイムより 1,500 倍高速に実行されましたが、温度予測において許容できない精度となり、決定係数値が最低 0.85 にとどまりました。ドロップアウト層を備えた長・短期記憶 (LSTM) 拡張アーキテクチャにより、リアルタイムより 800 倍高速に実行しながら、26 個すべての応答で 0.95 を超える決定係数値を達成しました。

6 つのエンジン出力変数において 0.95 付近またはそれを超える決定係数値を示している棒グラフ。排気流量、ターボ速度、温度、圧力、トルク、および NOx に対するサロゲートモデルの高い精度が示されています。

LSTM モデルでの 6 つのエンジン応答パラメーター (排気流量、ターボ速度、排気温度、ピーク気筒圧力、制動トルク、およびエンジンからの NOx 排出量) における決定係数値を比較した棒グラフ。すべて 0.95 を超えています。(画像著作権: Cummins)

学習済みのモデルでは、実際の走行排出量のモデル化、燃焼ノック検出、マルチモードエンジンにおける燃焼モード遷移、およびエンジン キャリブレーションなど、エンジン開発ワークフロー全体にわたる用途がサポートされます。Cummins では、Deep Learning Toolbox に加えて Statistics and Machine Learning Toolbox™ も使用し、Parallel Computing Toolbox™ および MATLAB Parallel Server™ によって学習プロセスを加速させました。

SUBARU: トランスミッション解析のためのニューラル ODE サロゲート

SUBARU では、Deep Learning Toolbox を使用して、自動トランスミッション制御解析用の油圧波形を再現するニューラル常微分方程式 (ODE) サロゲートモデルを構築しました。このサロゲートは、元圧、油温、および電流を入力として受け取り、計算負荷の高いサードパーティ製の 1D 物理シミュレーションを置き換えます。

ニューラル ODE モデルにより、波形精度を維持しながら計算時間が 99% 削減されました。これにはモデルに学習させなかった油温範囲も含まれており、元の学習データを超えた汎化が示されています。

重要なポイント

  • 計算速度の遅い高忠実度物理モデルを、DOE ベースのルックアップテーブルまたは LSTM やニューラル状態空間などの AI アーキテクチャを用いて構築された高速なサロゲートモデルに置き換える。コンポーネントモデルが存在しない場合は、測定データから動的モデルを直接同定する。
  • このようなサロゲートをシステムレベルのシミュレーションやリアルタイムの HIL テストのために Simscape および Simulink に統合して、元のモデルに含まれる知的財産を公開することなくチーム間で共有する。

バーチャルセンサー: 測定困難な物理量の推定

物理センサーは、測定が最も必要とされる場所に常に配置できるとは限りません。電気モーターの巻線ホットスポットは、積層スタックの奥深くに位置しています。大型バッテリーパック内のすべての位置に計測器を設置して個々のセル温度を測定することは現実的ではありません。排気ガスの組成は、後処理システムに沿って変化します。AI ベースのバーチャルセンサーでは、学習済みモデルを使用して、車両バス上で既に利用可能な信号 (モーター速度、トルクコマンド、クーラント温度、周囲の条件) からこれらの物理量を推定します。これにより、ハードウェアを追加することなく、可観測性と冗長性を高める計算された測定値で物理的な計測器を拡張できます。

AI ベースのバーチャルセンサーの設計空間は、決定木やサポート ベクター マシンなどの軽量な機械学習モデルから、LSTM や全結合ネットワークなどのディープラーニング アーキテクチャ、さらにはドメイン知識を組み込んだ Physics Informed Neural Network (PINN) まで多岐にわたります。バーチャルセンサーは、カルマンフィルター、スライディング モード オブサーバー、拡張状態オブザーバーなどの確立されたオブザーバーベースの手法を使用して構築することもできます。実際には、最適な選択肢が動作範囲全体で変化する可能性があるため、AI ベースのバーチャルセンサーをこれらの従来の手法と比較して評価する必要があります。ハイブリッド設計も可能です。たとえば、ニューラル状態空間モデルなどの AI モデルを、拡張カルマンフィルターまたはアンセンテッド カルマンフィルターの内部の予測モデルとして機能させることができます。

物理法則に基づくモデルは、既知の支配方程式に矛盾しない動作を行うよう AI に制約を課します。これにより、堅牢性と解釈可能性が向上しますが、関連する物理法則を定義するための事前作業が必要になります。純粋なデータ駆動型モデルは、ドメイン固有の設定にかかる手間は少なくて済みますが、予測結果の根拠を把握しにくく、学習データの範囲外にある有効な動作条件に対する堅牢性が低くなります。

Schaeffler: 電気モーター向けの物理法則に基づく温度推定

Schaeffler では、新しい直接巻線冷却方式を採用した電気モーターのプロトタイプ向けにバーチャルセンサーを開発しました。この場合、永久磁石の減磁を防ぐために、内部の複数の位置で正確に温度を把握することが極めて重要です。チームでは、すべての熱ホットスポットに物理センサーを取り付けるのではなく、集中定数熱ネットワークに基づく、物理法則を考慮した AI 手法である熱ニューラル ネットワーク (TNN) を構築しました。

TNN には、工学上の基本原理、すなわち任意のノードにおける温度は局所的な電力損失 (発生する熱) によって変化し、熱はノード間の温度差に比例して流れるという原理が組み込まれています。ニューラル ネットワークでは、各時間ステップにおける電力損失と熱コンダクタンスを推定します。これらの推定値は、温度状態を更新する物理ベースの更新方程式に入力されます。結果として、ハイブリッドモデルが得られます。ニューラル ネットワークが非線形パラメーターの推定を担い、更新方程式が熱力学的に整合した動作を保証します。

センサーの測定点がラベル付けされた DISC-O 電気モーター、集中定数熱ノード方程式、およびモーターの断面の色分けされた熱ネットワークマップを示す合成画像。

学習データを収集するためにプロトタイプに PT100 温度センサーが組み込まれた、測定点の例を示す Schaeffler の DISC-O 電気モーター (左)、および物理ベースの温度状態更新に入力されるニューラル ネットワークを介して推定された電力損失 (P) とコンダクタンス (C) を使用する更新方程式の例 (右)。(画像著作権: Schaeffler)

Schaeffler では、Deep Learning Toolbox とカスタムネットワーク定義を使用して、プロトタイプ上の 12 個の温度センサーから記録された 300 時間のドライブ サイクル データに基づき TNN の学習を行いました。学習は約 1 時間半で完了しました。学習済みのモデルは、摂氏 ±5 度という要件を十分に満たす精度で、12 箇所すべてのセンサー位置における温度を予測します。同じデータにおいて、TNN は純粋な LSTM や多層パーセプトロン手法を上回る性能を示しました。

TNN は、精度の高さだけでなく、量産展開において次の 3 つの実用的な利点をもたらします。

  • 説明可能性: エンジニアは、学習によって得られた電力損失とコンダクタンスの時間変化を確認し、熱流量パターンや発熱源が物理的な直感と一致しているか検証できます。
  • 堅牢性の高い初期化: 実際の温度から摂氏 20 度ずれた状態で初期化された場合でも、モデルは約 300 秒以内に真の温度に収束します。これは、初期条件が不明な車両の始動時において極めて重要です。
  • 可変推論レート: 1 秒のサンプリングで学習させたモデルは、5 秒または 10 秒の間隔でも正確に動作するため、再学習を行うことなく異なる ECU のスケジューリング制約に対応できます。
複数のモデル予測値と真値を経時的に示す機械学習の温度予測検証プロット、および 2 つのモデルバリアントを比較した残差誤差プロット。

TNN が初期化エラー (左) と可変サンプル時間 (右) の両方に対して堅牢性を備えていることを示す温度の結果。(画像著作権: Schaeffler)

Renault: 排出量推定のためのディープラーニング

Renault は、WLTC、NEDC、RDE ドライブサイクルなどの動作条件にわたってエンジンからの NOx 排出量を推定する LSTM ベースのバーチャルセンサーを開発しました。既存のルックアップテーブル手法では、わずか 60 から 70% の精度しか達成できませんでした。物理ベースの燃焼モデルを使用すると、精度を向上させることはできますが、ECU でリアルタイム実行するには複雑すぎました。

最終的なアーキテクチャ (1 つの LSTM 層、3 つの ReLU 層、3 つの全結合層、および回帰出力) では、エンジントルク、速度、クーラント温度、およびギア数を入力として受け取ります。チームでは Deep Learning Toolbox を使用して、ネットワークの深さと ECU のメモリ制約のバランスを繰り返し検討し、85 から 90% の精度で NOx を予測する設計に到達しました。

Renault では、MATLAB Coder™ および Simulink Coder™ を使用し、ECU への展開に向けた概念実証として、学習済みネットワークから C コードを生成しました。

重要なポイント

  • 車両バス上で既に利用可能な信号から、直接測定できない物理量を推定する。物理法則が十分にわかっている場合は物理法則に基づくネットワークを、そうでない場合はデータ駆動型アーキテクチャを選択する。また、これらをカルマンフィルターなどのオブザーバーベースの手法やハイブリッド手法と比較しながら検討する。
  • バーチャルセンサーを展開前に動作範囲全体にわたって物理的な測定値と照らして検証する。

強化学習と高度な制御

モデル予測制御 (MPC) などの高度な制御手法では、制約や動作条件が大きく変化し、かつ制約が重要となる EV の制御問題に対応できます。MPC は、バッテリーの熱マネジメント、ヒートポンプとクーラントループの調整、回生ブレーキとトルクブレンディング、および監視型エネルギー マネジメントなど、制約を伴う多入力多出力 (MIMO) の制御に非常に適しています。AI 対応のワークフローでは、学習済みの予測モデルを MPC コントローラーの内部で使用できます。MATLAB および Simulink では、その他の学習ベースの手法や適応手法も実装可能であり、特定の EV 開発ワークフローをサポートするのに非常に適しています。

EV 開発ワークフローにおける高度な制御手法の利点とユースケース

  Virtual Reference Feedback Tuning (VRFT) モデル規範適応制御 (MRAC) 能動的外乱抑制制御 (ADRC) 反復学習制御 (ILC)
定義 入出力データからの固定 PI または PID コントローラーの直接調整 プラントの動作の変化に合わせて、目的の応答に一致させるためのオンライン適応 外乱を抑制し、未知の負荷変動を補償する制御 追従性能を高めるために反復的な実行から学習
利点 プラントモデルを再構築するのではなく、測定データから迅速に再キャリブレーション 変化する動作条件全体にわたって制御性能を維持 外乱の予測が困難な場合における堅牢性を向上 反復テストや動作プロファイル全体にわたって制御精度を向上
使用例
  • トラクションモーター速度ループ
  • DC-DC 電圧ループ
  • 電気ポンプまたは電気コンプレッサーの熱アクチュエータ
  • トラクショントルク追従
  • HEV におけるエンジン始動制御
  • SOC や温度などの変化を伴うコンバーター制御
  • 電気ドライブの速度制御
  • 昇圧または双方向コンバーターループ
  • 発進または登坂イベントの調整
  • バッテリーのプレコンディショニング シーケンス
  • 反復的なドライブサイクルまたは動力計の最適化

このセクションの残りの部分では、強化学習 (RL) に焦点を当てます。強化学習は、制御問題に非常に多くの結合パラメーターが含まれていて、エンジニアが最適な手法を手動で導き出すことができない場合に特に有用です。ハイブリッドおよびバッテリー電気パワートレインにおけるエネルギー マネジメントでは、予測不可能なドライビング プロファイル全体にわたって、バッテリーの充電状態、エネルギー消費量、および運転性のバランスを取る必要があります。排出ガスの後処理のキャリブレーションでは、NOx、アンモニアスリップ、および還元剤のコストを同時に最小化するために、20 以上の相互に依存する投与マップを調整する必要があります。これらは多目的最適化問題であり、パラメーター間の相互作用のため、手動による手法では効果的な制御手法や最適なキャリブレーションを導き出すことが困難です。

強化学習では、制御エージェントをシミュレーション環境と相互作用させ、望ましい動作に対して報酬を与えながら、方策を反復的に改善します。その環境が Simulink プラントモデルである場合、エンジニアはハードウェアのリスクを負うことなく、検証済みのシステムダイナミクスに対して強化学習エージェントに学習させることができます。その後、ターゲット コントローラーに展開する前に、デスクトップ シミュレーションやソフトウェアインザループ テストで学習済みの方策を評価できます。Reinforcement Learning Toolbox™ には、深層 Q ネットワーク (DQN) などの価値ベースのアルゴリズム、近接方策最適化 (PPO) などの方策ベースの手法、および深層決定論的方策勾配法 (DDPG) や soft actor-critic (SAC) などの actor-critic アルゴリズムが用意されています。また、プラントモデルを使用した学習のために Simulink と直接統合できます。

強化学習エージェントでは、物理的なシステムではなくプラントのモデルに対して学習を行うため、学習済みの方策は、シミュレーションと実環境のダイナミクスの違いに対して堅牢でなければなりません。学習エピソードごとにプラントパラメーターを変化させるドメインランダム化などの手法は、モデル化の不確かさや現実世界の変動性があっても汎化できる方策を生成するのに役立ちます。検証された学習済みの方策は、Embedded Coder® を使用して、生成された C/C++ コードとして組み込みターゲットに展開できます。

Yanmar America: 排出ガス キャリブレーション向け深層強化学習

Yanmar America では、従来の水準から NOx を 90% 削減することが求められる CARB Tier 5 排出ガス基準を満たす必要がありました。選択的触媒還元 (SCR) 後処理システムのキャリブレーションには、相互に依存する 20 を超えるマップが含まれており、それぞれが NOx 変換効率、アンモニアスリップ、および還元剤の消費量に影響を与えます。このシステムの手動キャリブレーションには 240 時間を超えるエンジニアリング工数が必要でした。また、結果が最適であるかどうかを判別する体系的な手法もありませんでした。

Yanmar America は MathWorks Consulting Services と協力し、サードパーティ製の触媒シミュレーション ソフトウェアと結合された Simulink モデルに対して深層 Q ネットワーク エージェントの学習を行いました。エージェントは、還元剤の使用量を最小化しながら、NOx の排出とアンモニアスリップにペナルティを課す報酬関数を最大化することで、動作範囲全体にわたって尿素投与プロファイルを最適化することを学習しました。各学習は約 30 分で完了しました。

システムの既定 (黄色) と AI 最適化 (青色) の性能を比較した周波数領域プロット。AI ソリューションでは、特定の周波数帯域でピークが大幅に低減されていることが示されています。

Yanmar America のシステム既定値 (黄色の線) とこのプロジェクトで開発された深層強化学習モデル (青色の線) でのシミュレーション時における NOx 排出量を示す Simulink スコープのスクリーンショット。(画像著作権: Yanmar America)

強化学習エージェントにより、NOx 排出量がベースラインのキャリブレーションから 60% 削減されました。また、エンジニアリング チームが手動による方法では特定できなかった投与戦略も見つかりました。手動によるキャリブレーション プロセスと比較して、合計キャリブレーション時間は半分に短縮され、プロジェクトの総工数は 30% 削減され、コストは 41% 低くなりました。プロジェクトは 6 か月で完了しました。

Schaeffler: パワートレイン制御向け深層強化学習

Vitesco Technologies (現在は Schaeffler の一部) では、排気ガス後処理システムの制御手法を開発するために強化学習を適用しました。チームでは、エンジンと排気ガスシステムから構成されるプラントの詳細な Simulink モデルを作成した後、Reinforcement Learning Toolbox を使用して、現在のシステム状態に基づいてリアルタイムで制御判断を行う強化学習エージェントのプロトタイピングと最適化を行いました。

重要なポイント

  • 制御問題において制約、反復シナリオ、または変化する動作条件が支配的な場合は、高度な制御手法を選択する。排出ガスのキャリブレーションやエネルギー マネジメントのように、結合パラメーターのため、最適な手法を解析的に導き出すことが非現実的な場合は、強化学習を選択する。
  • 検証済みの Simulink プラントモデルに対して強化学習エージェントの学習を行い、デスクトップ シミュレーションやソフトウェアインザループ シミュレーションで学習済みの方策を評価してから、ハードウェアに実装する。

異常検出と予知保全

電気自動車では、バッテリー、モーター、インバーター、および熱システムから大量の運用データが生成されます。これらの各サブシステムは経時的に劣化します。たとえば、バッテリーセルは容量を失ったり、バッテリーの経年劣化や熱暴走につながる状態を生じさせたりします。モーターのベアリングは摩耗し、パワー エレクトロニクスは熱疲労を起こします。劣化パターンは、コンポーネントが故障するかなり前の段階で、センサーデータから検出できることがよくあります。AI ベースの異常検出では、個々のセンサーだけでは検出できない、予期される動作からの逸脱を特定します。これは多くの場合、温度、セル電圧、電流など、相関する信号間の多変量パターンとして現れます。残存耐用時間 (RUL) の推定では、メンテナンスが必要になる時期を予測します。これにより、固定間隔の点検ではなく、状態に基づいてメンテナンス時期を設定できます。

このような機能は、データパイプラインのさまざまなポイントに展開できます。エッジベースのモデルは、車載コンピューター上で直接実行され、リアルタイムの故障検出のためにセンサーデータをローカルで処理します。クラウドベースのモデルは、より詳細な解析、トレンド検出、およびモデルの再学習のためにフリートデータを集約します。一部のシステムでは両方を組み合わせています。たとえば、エッジモデルにより、車両上で異常を検出して特徴量を抽出し、圧縮した特徴量データをクラウドに送信して、フリートレベルの解析や RUL の推定を行います。クラウド上でホストされるモデルでは、フリートの経年劣化に合わせて段階的に適応することも可能であり、システムが耐用年数にわたって徐々に劣化していく中で「正常」の定義を更新できます。

ほとんどの異常検出モデルは、正常な運用データのみで学習させます。つまり、考えられる各故障モードのラベル付きサンプルを必要とせずに、健全な動作がどのようなものであるかを学習し、逸脱を検出します。この教師なし学習手法では、車両は故障しないように設計されているため、現実世界の故障データセットは小さく不均衡であるという根強い課題を回避します。RUL の推定や故障分類のためにラベル付きの故障データが必要な場合、Simscape で構築されたデジタルツインにより、劣化シナリオや故障状態をシミュレーションし、限られた実環境での観測データを補完する合成学習データを生成できます。

Tata Consultancy Services: SDV (ソフトウェア・ディファインド・ビークル) のための分散型予知保全

Tata Consultancy Services (TCS) では、車両の予知保全のための分散型機械学習アーキテクチャを開発し、車載エッジコンピューターと Microsoft Azure 上のクラウド インフラストラクチャの両方に AI モデルを展開しました。このシステムでは、複数のパワートレイン サブシステムからのデータを処理し、センサーの時系列データから異常の検出、故障タイプの分類、診断特徴量の抽出を行います。

TCS のチームは、Predictive Maintenance Toolbox™ の診断特徴デザイナーアプリを使用して生のセンサー信号から特徴量を抽出してランク付けし、その後 Statistics and Machine Learning Toolbox を使用して分類モデルおよび回帰モデルの学習を行いました。エッジに展開されたモデルは、車両上で一次異常検出を行い、クラウドに送信されるデータ量を削減します。クラウドにホストされたモデルは、フリートレベルのデータ集約と、より計算負荷の高い解析を行います。

車両アセットデータから、エッジ処理、MATLAB Production Server、Docker コンテナーを経て、残存耐用時間 (RUL) の推定用の OT/IT ダッシュボードに至るパイプラインを示す、予知保全のシステム アーキテクチャ。

TCS が MATLAB と Simulink を使用してアーカイブデータからモデルとアルゴリズムを作成し、Docker を使用してエッジシステムとクラウドホスト型モデルの両方に展開するまでのワークフローを示した図。(画像著作権: Tata Consultancy Services)

このアーキテクチャでは、クラウドでフリート全体にわたるパターン認識を実行する能力を維持しながら、可能な限りデータをローカルで処理することでクラウド コンピューティング コストを削減しています。TCS では、Azure 上の MATLAB Production Server™ を使用してクラウド コンポーネントを展開しました。Web インターフェイスは、MATLAB Web App Server™ を使用して構築しました。

HL Mando: 自律型車両コンポーネント向けの予知保全

HL Mando では、X-by-wire のステアリングおよびブレーキシステムなどの自律型車両コンポーネントのテスト装置向けに、接続されたテストベンチおよび IoT 監視と、AI 駆動型の予知保全を組み合わせた「Smart Lab」システムを開発しました。実際の車両から寿命データや劣化データを収集するには何年もかかるため、チームではカスタムの社内テストベンチで加速寿命試験を実施しました。その際、現実世界の走行距離と相関性のある制御されたデューティサイクルでコンポーネントへの負荷の印加と解除を行いました。

テスト ベンチ コンポーネントの Simscape デジタルツインにより、制御アルゴリズムの開発がサポートされ、実際のテストデータと並行してシミュレーションや調整を行うための並行バーチャルデータパスが提供されました。エッジコンピューターがライブベンチデータから特徴量を抽出して AI モデルの学習を行います。一方、MATLAB Production Server で構築された Web ベースのプラットフォームでリアルタイムの状態監視と RUL の推定を表示します。チームでは、類似度モデルや劣化モデルに対しては AI ベースの解析を適用し、疲労メカニズムに関する工学的知見が利用可能な生存モデルに対しては故障物理手法 (マイナー則) を適用しました。

タイロッドの RUL 推定向けの 5 段階の機械学習パイプライン。データ取得、前処理、特徴抽出、モデル学習、RUL 推定の展開、および予測劣化の出力プロットを含みます。

Predictive Maintenance Toolbox を使用した AI 駆動型 RUL 推定を開発するための HL Mando のワークフロー。(画像著作権: HL Mando)

重要なポイント

  • 生のセンサーデータから特徴量を自動的に抽出するために診断特徴デザイナーアプリを使用し、リアルタイムの故障検出の場合はエッジで、フリートレベルの解析や残存耐用時間の推定の場合はクラウドで異常検出を実行する。
  • 実際の故障データが少ない場合は、物理ベースの Simscape モデルから得られる合成データで補完し、構築したモデルを MATLAB Production Server および MATLAB Web App Server を用いて本番運用にスケーリングする。

組み込み AI: AI の検証および量産 ECU への展開

ワークステーション上で優れた性能を発揮するニューラル ネットワークの学習を行っても、それが自動車の組み込みハードウェア上で動作することや、すべての動作条件下で正しく動作することが保証されるわけではありません。学習済みネットワークを組み込み環境に展開するには、圧縮、検証、およびコード生成が必要であり、各段階で繰り返し検証を行います。

組み込み展開ワークフローは、量子化、射影、枝刈りなどの手法を用いた AI モデルの圧縮から始まり、メモリフットプリントを削減し、推論性能を向上させます。次に、ハードウェアに実装する前に、Simulink システムモデル内で圧縮された AI アルゴリズムをシミュレーションし、周辺コンポーネントとの統合をテストします。

その後、コード生成により、ターゲット ハードウェア向けに最適化された C/C++ コードを生成します。このプロセス全体を通じて、検証により、圧縮や量子化によってモデルの動作に許容範囲を超える影響が生じていないことを確認します。Deep Learning Toolbox、Fixed-Point Designer™、Embedded Coder が、MATLAB と Simulink におけるこのワークフローをサポートします。

多くの自動車チームでは、PyTorch などのオープンソースのフレームワークで学習させたモデルから開始することもあります。これらのモデルは、圧縮、Simulink への統合、検証、および展開のために、MATLAB および Deep Learning Toolbox にインポートできます。インポートが現実的ではない大規模なモデルや、非標準的な層を持つモデルの場合、コード生成ワークフローにより、PyTorch で学習させたモデルから展開可能な C/C++ コードを生成する別の方法を利用できます。

AI 検証

AI モデルがバッテリー管理やモーター制御などのセーフティクリティカルな自動車システムに組み込まれるようになるにつれ、検証は、テストデータに対する精度評価だけにとどまりません。ニューラル ネットワークは、敵対的入力、分布外の動作条件、学習セットに含まれていないエッジケースに対して正しく動作することが保証されません。ISO/PAS 8800 などの自動車規格は、エンジニアがこれらのリスクに対処する安全性保証に関する主張を構築するのに役立ちます。

W 字型開発プロセスは、機械学習に固有の検証作業を追加することで、従来の V 字モデルを AI コンポーネント向けに適応させたものです。入力の摂動に対するロバスト性テスト、分布外検出、ネットワーク特性の検証、説明可能性解析などの作業により、モデルの動作が設計意図と一致していることを検証できます。このプロセスは、初期のモデル学習から、モデル圧縮、コード生成、展開に至る AI のライフサイクルの各段階で適用されます。

このワークフローは AI Verification Library for Deep Learning Toolbox でサポートされ、次の機能が用意されています。

  • ロバスト性検証: 入力の摂動や敵対的サンプルに対する AI モデルの感度をテストします。出力境界を推定し、小さな入力の変化で予期しない大きな予測誤差が生じないことを確認します。
  • 実行時監視: 展開されたモデルが学習分布外の入力を受けたことを検出する分布ディスクリミネーターを作成します。これにより、システムは不確実な予測を検出したり、従来のアルゴリズムにフォールバックしたりできます。
  • 説明可能性: Grad-CAM や D-RISE などの手法を使用して、どの入力がモデルの予測に影響しているかを可視化します。
  • 制約付きディープラーニング: 学習後の検証だけに頼るのではなく、ネットワークの学習にドメイン固有の制約を統合することで、設計段階から物理的制約や安全上の制約を満たすようにします。

Mercedes-Benz Research & Development India: キャビンの快適性のためのニューラル ネットワークの圧縮と量子化

Mercedes-Benz Research & Development India (MBRDI) では、温熱快適性、湿度調整、および空気質制御のために、キャビン内の空気質量流量をリアルタイムで推定する車載バーチャルセンサーを開発しました。以前のクラウドベースの手法では、レイテンシ、帯域幅コスト、およびプライバシーに関する懸念が生じていました。チームでは、AI モデルを車両の ECU 上で直接実行する必要がありました。

元の学習済みネットワークは、ターゲット ハードウェアに対して大きすぎました。MBRDI では、ネットワークの予測精度を維持しながら冗長なニューロンを特定して削除する圧縮手法であるニューラル ネットワーク射影を適用しました。圧縮後、チームでは Fixed-Point Designer を使用して 8 ビットの量子化を適用し、残りの重みと活性化値を 32 ビットの浮動小数点から 8 ビットの整数に変換しました。その後、Embedded Coder により、圧縮および量子化されたモデルから ECU への展開用の C/C++ コードを生成しました。

従来の MBD ワークフローと対比させた、4 つのフェーズ (データ収集と NN の学習、最適化と量子化、コード生成、および ECU 性能検証) にわたる、MATLAB ツールを使用した組み込み AI 開発ワークフロー。

学習済みのニューラル ネットワークから、ニューラル ネットワーク射影 (圧縮)、8 ビットの量子化 (Fixed-Point Designer)、C/C++ コード生成 (Embedded Coder)、ECU への展開に至る進行を示す、Mercedes-Benz の組み込み AI ワークフロー。(画像著作権: Mercedes-Benz Research & Development India)

結果として、バーチャルセンサーにより、以前の物理ベースモデルと比較して、平均絶対誤差を 50% 削減しました。一方、ターゲット ECU 上の RAM 使用量はわずか 1% 増加しただけでした。このモデルは完全に車両上で実行され、クラウドへの接続は必要ありません。

Mercedes-Benz: パワートレイン バーチャル センサーのための自動固定小数点変換

Mercedes-Benz では、気筒内圧力を推定する深層ニューラル ネットワークを量産パワートレイン ECU (浮動小数点演算や標準的なディープラーニング フレームワークをサポートしていないマイクロコントローラー) 上に直接展開しました。チームでは Python の QKeras ライブラリを使用して量子化 LSTM を学習させてから、Deep Learning Toolbox を使用してそのネットワークを MATLAB にインポートしました。Fixed-Point Designer によってモデルを浮動小数点から固定小数点表現に変換し、チームは ECU への統合に進む前に Simulink で精度を検証しました。

自動化されたワークフローにより、開発スピードは以前の手動による固定小数点変換プロセスと比較して 600% 高速化しました。以前のプロセスでは、数週間の労力が必要であり、転記ミスが発生しがちでした。このパイプラインは 2 つの異なるパワートレイン コントローラーに適応され、GRU や全結合ネットワークを含む追加のニューラル ネットワーク アーキテクチャへと拡張されています。

重要なポイント

  • MATLAB または外部フレームワーク (Python、QKeras、TensorFlow™) からネットワークをインポートし、射影や枝刈りによってネットワークを圧縮し、8 ビットまたは固定小数点の表現に量子化してメモリ使用量の低減および実行時間の短縮を行うことで、学習済みの AI モデルを組み込み展開に向けて準備する。
  • Simulink で圧縮および量子化されたモデルを元のモデルと比較し、敵対的入力や分布外の条件下での動作を評価し、さらに実行時監視を適用することでモデルを検証してから、Embedded Coder を使用して量産 C/C++ コードを生成する。

まとめ

このホワイトペーパーで説明した手法 (低次元化モデル、システム同定、バーチャルセンサー、強化学習、および異常検出) は、プラントモデリングから制御設計、展開に至るまで、モデルベースデザインの各段階に統合できます。エンジニアは、MATLAB および Simulink 内で AI モデルに直接学習させることも、TensorFlow や PyTorch などのオープンソースのフレームワークで学習させたネットワークをインポートすることも可能です。モデルがどこで作成されたかにかかわらず、MATLAB および Simulink には、量産 ECU に向けたモデルの圧縮、検証、およびコード生成のための統一されたワークフローが用意されています。

このホワイトペーパーにおけるケーススタディは、電動車両開発向け AI が既に量産プログラムで実用化されていることを示しています。各チームは、800 倍のシミュレーション高速化、展開ワークフローの 600% の高速化、手動によるキャリブレーションを上回る制御手法を達成しています。モデルベースデザインを使用するエンジニアは、既存のワークフローの中でこうした成果を実現できます。また、学習済みモデルから、検証済みの展開済みコードに至る明確なワークフローが用意されています。