MUSIC 超解像 DOA 推定
"多重信号分類" (MUSIC) は、アレイで観測されたセンサー共分散行列の固有値分解に基づく高分解能の方向探知アルゴリズムです。MUSIC は、部分空間に基づく方向探知アルゴリズムの一種です。
信号モデル
信号モデルは、受信されたセンサー データと、ソースから発信される信号との関係を表します。相関がない、または部分的に相関する D 個の信号ソース sd(t) が存在すると仮定します。センサー データ xm(t) は、アレイで受信された信号、そしてノイズ nm(t) から構成されます。センサー データのスナップショットは、単一の時刻 t においてアレイの M 個の素子で受信されるセンサー データ ベクトルです。
x(t) は、信号と加法性ノイズから構成される受信センサー データのスナップショットである M 行 1 列のベクトルです。
A は到来ベクトルを含む M 行 D 列の行列です。到来ベクトルは、1 つのソースからの平面波のアレイ素子における相対位相シフトから構成されます。A の各列は、ソースのいずれかからの到来ベクトルを表し、到来方向 θd に依存します。θd は d 番目のソースの到来方向の角度であり、線形アレイではブロードサイド角度、平面アレイまたは 3 次元アレイでは方位角と仰角を表します。
s(t) は、D 個のソースからのソース信号値から成る D 行 1 列のベクトルです。
n(t) は、センサー ノイズ値から成る M 行 1 列のベクトルです。
任意の部分空間法において重要な量の 1 つは、受信信号データから導出される "センサー共分散行列" Rx です。信号がノイズと無相関である場合、センサー共分散行列は "信号共分散行列" と "ノイズ共分散行列" の 2 つの成分をもちます。
ここで、Rs は "ソース共分散行列" です。ソース共分散行列の対角要素はソースのパワーを表し、非対角要素はソースの相関を表します。
無相関のソース、または部分的に相関するソースの場合でも、Rs は正定値のエルミート行列であり、ソース数に等しいフル ランク D です。
信号共分散行列 ARsAH は M 行 M 列の行列であり、ランクは D < M です。
MUSIC アルゴリズムの仮定の 1 つは、ノイズ パワーがすべてのセンサーで等しく、かつセンサー間で無相関であることです。この仮定の下で、ノイズ共分散行列は、対角上の値が等しい M 行 M 列の対角行列になります。
真のセンサー共分散行列は既知ではないため、MUSIC は "サンプル" センサー共分散行列からセンサー共分散行列 Rx を推定します。サンプル センサー共分散行列は、センサー データの複数のスナップショットの平均です。
ここで、T はスナップショットの数です。
信号部分空間とノイズ部分空間
ARsAH はランク D であるため、D 個の正の実固有値と M – D 個のゼロ固有値をもちます。正の固有値に対応する固有ベクトルは、"信号部分空間" Us= [v1,...,vD] を張ります。ゼロ固有値に対応する固有ベクトルは信号空間に直交し、"ヌル部分空間" Un= [uD+1,...,uN] を張ります。到来ベクトルも信号部分空間に属しますが、固有ベクトルです。ヌル部分空間の固有ベクトルは信号部分空間の固有ベクトルに直交します。ヌル部分空間の固有ベクトル ui は、次の方程式を満たします。
したがって、到来ベクトルはヌル部分空間に直交します。
ノイズが追加される場合、ノイズを含むセンサー共分散行列の固有ベクトルは、ノイズを含まないセンサー共分散行列と同じです。固有値はノイズ パワー分だけ増加します。vi を、ノイズを含まない元の信号空間の固有ベクトルの 1 つとします。このとき、以下は信号空間の固有値が σ02 だけ増加することを示します。
ヌル部分空間の固有ベクトルも Rx の固有ベクトルです。ui をヌル固有ベクトルの 1 つとします。このとき、以下になります。
固有値はゼロではなく σ02 です。ヌル部分空間は "ノイズ部分空間" になります。
MUSIC は、ノイズ部分空間に直交するすべての到来ベクトルを検索することで動作します。検索を行うために、MUSIC は到来角に依存するパワー表現 (MUSIC 擬似スペクトルと呼ばれる) を構成します。
到来ベクトルがノイズ部分空間に直交する場合、擬似スペクトルのピークは無限大になります。実際には、ノイズが存在すること、および真の共分散行列がサンプル共分散行列によって推定されることにより、到来ベクトルがノイズ部分空間に正確に直交することはありません。このとき、有限のピークをもつ PMUSIC での角度が、目的の到来方向です。擬似スペクトルにはソース数よりも多くのピークが存在する可能性があるため、アルゴリズムではソース数 D をパラメーターとして指定しなければなりません。このとき、アルゴリズムは最大のピークを D 個選択します。等間隔直線アレイ (ULA) の場合、サーチ スペースはブロードサイド角度の 1 次元グリッドです。平面アレイと 3 次元アレイの場合、サーチ スペースは方位角と仰角の 2 次元グリッドです。
Root-MUSIC
ULA の場合、擬似スペクトルの分母は の多項式ですが、複素平面上の多項式と見なすこともできます。この場合、求根手法を使用して根 zi を求めることができます。これらの根は必ずしも単位円上に存在するとは限りません。ただし、Root-MUSIC では単位円に最も近い D 個の根が真のソース方向に対応すると仮定します。このとき、複素根の位相からソース方向を計算できます。
相関するソースの空間の平滑化
D 個のソース信号の一部が相関する場合、Rs はランク落ちとなり、非ゼロ固有値の数は D 未満になります。したがって、ARsAH のゼロ固有値の数は、無相関のソースの場合のゼロ固有値の数 M – D を上回ります。信号が相関する場合、マルチパス伝搬環境で生じるように、MUSIC のパフォーマンスは低下します。相関を補償する方法の 1 つは、空間の平滑化を使用することです。
"空間の平滑化" は、等間隔アレイの平行移動特性を利用します。相関する 2 つの信号が L 素子の ULA に到達する場合を考えてみましょう。ソース共分散行列 Rs は特異な 2 行 2 列の行列です。到来ベクトル行列は、ブロードサイド角度 φ1 および φ2 から到達する信号に対する L 行 2 列の行列です。
量 k は信号の波数です。a(φ) は角度 φ における到来ベクトルを表します。
最初のアレイをその軸に沿って 1 素子分の距離 d だけ平行移動することで、2 番目のアレイを作成できます。2 番目のアレイの到来行列は次のとおりです。
ここで、到来ベクトルは元の到来ベクトルに等しいものの、方向に依存する位相シフトが乗じられています。元のアレイをさらに J –1 回平行移動すると、アレイのコピーを J 個取得できます。これらすべてのコピーから 1 つのアレイを構成すると、その 1 つのアレイの長さは M = L + (J – 1) になります。
実際には、M 素子のアレイから開始し、J 個の重なり合うサブアレイを形成します。各サブアレイの素子数は L = M – J + 1 です。次の図は、アレイの全体の長さ M、サブアレイの数 J、および各サブアレイの長さ L の関係を示しています。

p 番目のサブアレイに対するソース信号の到来行列は次のとおりです。
元の到来ベクトル行列は、対角位相行列で右から乗算されます。
最後のステップとして、J 個すべてのサブアレイにわたって信号共分散行列を平均し、平均信号共分散行列 Ravgs を形成します。平均信号共分散行列は平滑化されたソース共分散行列 Rsmooth に依存します。
平滑化されたソース共分散行列の対角要素は元のソース共分散行列の対角要素と同じであることを示すことができます。
ただし、非対角要素は低減されます。低減係数は J 素子のアレイのビーム パターンです。
まとめると、サブアレイを形成し、平滑化された共分散行列を MUSIC アルゴリズムへの入力として使用することで、ソース相関による劣化の影響を低減できます。ビーム パターンにより、ソースの角度間隔が大きくなるほど、相関は小さくなります。
線形アレイに対する空間の平滑化は、2 次元と 3 次元の等間隔アレイにも容易に拡張できます。