技術情報

バーチャルな実験授業を活用した反応工学の授業

著者 Michaël Grimsberg, Lund University


ルンド大学化学工学科の 3 年生は、反応工学の授業で、反応器の解析、サイジング、設計の原理を学んでいます。反応工学のコースでも従来は、その他の類似したコースと同様に、理論や数式の導出に重点を置いた指導が行われていました。学生は数多くの演習を行いましたが、工業用反応器で発生する物理プロセスと化学反応の複合効果について直感的に理解する機会はほとんどありませんでした。

その現状に気づいた私たちは、理論だけでなくコンピューターによる数値実験に焦点を当てる方法に切り替えました。私は、学生が主要な反応パラメーターを対話的に変更し、その変更内容が結果に及ぼす影響を確認できる一連の MATLAB® アプリを作成しました (図 1)。また、コースでは MATLAB Grader™ の使用を開始しました。私のティーチング アシスタント (TA) は、単純なコード修正のために取られていた時間が大幅に減り、学生がモデル構造を理解するためのサポートに時間を割けるようになりました。これは、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミック下で、コースをオンライン化した際に特に役立ちました。大学の学習管理システム (LMS) は、MATLAB アプリと MATLAB Grader の両方と連携しています。

図 1. 反応工学で使用される MATLAB Web アプリ。

図 1. 反応工学で使用される MATLAB Web アプリ。

MATLAB アプリの作成およびホスティング

反応工学アプリは、バッチ反応器および連続攪拌タンク反応器 (CSTR) で行われる処理が反応性能に与える影響について、学生が多角的な視点で考えることができるように設計されています。ある授業では、CSTR 冷却システムが故障した場合に何が発生するかを学生に考えてもらいました。学生は、何もしなかった場合には反応器が爆発するまで温度と圧力が上昇することを理解します。次に、反応器の容積流量を制御できる場合、反応器を守るために流量を増やすか、または減らすかを学生に質問します。

この質問に対する回答は直観的には理解しにくいため、ほとんどの学生が流量を減らすことを提案しますが、これは正しくありません。私は流量を増やすとシステム全体のエネルギーが減少するということを示すために、学生に MATLAB アプリを使用した実験を行わせて、流量を制御し反応器内の温度の経時変化を追跡できるようにしました (図 2)。このアプリのおかげで、学生は反応器のエネルギーバランスについて、暗記した数値計算で学ぶよりもはるかに理解を深めることができます。

図 2. 冷却システムが故障した CSTR の温度を可視化するための MATLAB アプリ。

図 2. 冷却システムが故障した CSTR の温度を可視化するための MATLAB アプリ。

ルンド大学は Campus-Wide License を保有しているため、学生は私が開発したアプリをダウンロードして、自分のコンピューターで実行できます。しかし、私は MATLAB Web App Server™ を介して、対話的な Web アプリとして利用できるようにしました。それにより、アプリの画面上で課題の指示を出すことができるようになりました。また、MATLAB Web App Server を使用することで、LMS である Canvas とアプリの連携が可能になり、アプリを簡単に利用できるようになりました (図 3)。

図 3. Canvas で Web アプリとして実行中の CSTR 冷却アプリ。

図 3. Canvas で Web アプリとして実行中の CSTR 冷却アプリ。

MATLAB Grader の導入

COVID-19 のパンデミックによりオンライン授業を開始する必要が生じたとき、同僚と私は約 100 人の学生をどのように管理し、積極的に授業に参加させるかを考える必要がありました。そして授業が始まる 2 週間ほど前に、バーチャルな実験授業の課題に MATLAB Grader を使用することに決めました。コース用に以前作成した MATLAB で微分方程式や非線形方程式を解くためのテンプレートから始め、MATLAB Grader を使用して対話形式の実験演習を作成し、テストを行うのにかかった時間はたったの数日でした (図 4)。

図 4. MATLAB Grader を使用して作成したバーチャルな実験授業の課題。

図 4. MATLAB Grader を使用して作成したバーチャルな実験授業の課題。

MATLAB Grader の追加は重要なことでした。学生の回答へのフィードバックを即座に提供できるためです。たとえば、2 つ目の実験授業では、学生は化学反応のシミュレーションを行い、MATLAB で 8 つの微分方程式を解く必要があります。通常であれば、実験授業では 25 人から 30 人の学生が 2 人の TA と一緒に取り組みます。その学生数でも、TA が簡単なコーディングエラーを中心とした質問に回答し、各学生の回答を確認するには、かなりの時間がかかります。MATLAB Grader を使用すると、100 人の学生全員の回答を自動的に確認し、リアルタイムでフィードバックできます。TA は、コードに関する特別なサポートが必要な学生に注意を向けることができます。

学生からのフィードバックと来年度の計画

MATLAB Grader とアプリの使用に関する正式なコースアンケートは実施しませんでしたが、学生からは「アプリが新しい概念の学習に役立った」という感想が寄せられました。また、MATLAB Grader で即時に得られるフィードバックが気に入っているという意見もありました。

反応工学の授業で私たちが行った改革は、ルンド大学以外でも注目を集めています。スウェーデンの別の大学からは、MATLAB Grader と MATLAB Web App Server を使用して、同じようにカリキュラムを充実させることに興味があると連絡がありました。

ルンド大学は、世界に 1,500 以上ある、MATLAB と Simulink を全学で利用可能な大学の 1 つです。Campus-Wide License を使用すると、研究者、教員、および学生は、教室、自宅、研究室、現場など、どこでも最新もしくはそれに準じたリリースを共通の製品構成で使用できます。

著者について

Michaël Grimsberg 氏は、ルンド大学化学工学部の講師です。

公開年 2021

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