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埋込永久磁石同期モーターのベクトル制御

この例では、埋込永久磁石同期モーター (IPMSM) ドライブの広域回転数の動作について説明します。このドライブでは、アンペアあたりの最大トルク (MTPA) を使用するベクトル制御システムと、弱め界磁制御戦略を使用しています。

説明

IPMSM は、鉄の回転子に永久磁石が埋め込まれた AC 同期モーターです。表面磁石型 PMSM モーターと比較して、IPMSM モーターはよりロバストであり、はるかに高い回転数で動作可能です。さらに、IPMSM モーターは比較的高い磁気突極性を示し、これによりモーターは磁気トルク成分とリラクタンス トルク成分の両方のメリットが得られます。

IPMSM モーターの制御には通常、ベクトル制御スキームを使用し、正弦波電流を供給します。この例では、磁束減衰と MTPA の制御スキームも採用しています。

電気モデル

DC 母線は理想的な 550 V DC 電圧源としてモデル化され、三相 2 レベル コンバーターに接続しています。このコンバーターは、50 kW の IPMSM モーターの回転数調整に適切な三相電圧 (振幅と周波数) を生成します。

コンバーターは、空間ベクトル PWM 変調器への電圧指令値を生成するベクトル制御 (FOC) コントローラーで制御されます。

弱め界磁と MTPA を使用するベクトル制御

FOC は、モーター磁束の空間ベクトルに固定されている d-q 座標の基準座標系を使用して、モーター磁束とトルク間の分離を実現する制御スキームです。したがって、これらはそれぞれ固定子の d 軸電流と q 軸電流によって個別に制御できます。

磁石によって発生した磁束が、固定子電流によって発生した固定子磁束と垂直であるときにトルクが最大になります。ベクトル制御スキームでは、最大トルクが発生するように、これら 2 つの磁束がなす角度を 90° に維持します。

モーターによって生ずるトルクは、以下で与えられます。

$$T_e = \frac{3}{2} \: p \:[ \lambda \: i_{q} + (L_{d}-L_{q})\: i_{d}\: i_{q}]$$

ここで、

  • $p$ は極対数。

  • $\lambda$ は固定子巻線内の永久磁石による誘起磁束。

  • $L_{d}$$L_{q}$ は d 軸と q 軸のインダクタンス。

  • $i_{d}$$i_{q}$ は d 軸と q 軸の固定子電流。

式は回転子の基準座標系 (dq 座標系) で表されており、回転子の基準座標系のすべての数量は固定子に関します。

IPMSM モーターをノミナル回転数より高い回転数で動作させるには、インバーターの最大出力電圧を超えないように、得られる逆起電力を削減する必要があります。この削減を実行するには、固定子の d 軸電流を負の値に設定して、回転子の鎖交磁束を削減します。この制御戦略は弱め界磁制御と呼ばれます。

IPMSM モーターは比較的高い磁気突極性を示し、これによりモーターは磁気トルク成分とリラクタンス トルク成分の両方のメリットが得られます。アンペアあたりの最大トルク (MTPA) アルゴリズムは、d 軸と q 軸の電流成分の値を計算して、電流の大きさを最小限に抑えつつ目的のトルクを発生させます。さらに、MTPA はインバーター出力の飽和を確実に防止します。

ベクトル制御システム

FOC システムには次の主要コンポーネントがあります。

  1. 速度調整器 — この調整器は実際のモーター回転数を回転数指令値と比較します。モーターを加速する必要がある場合、より大きいトルクを発生させるために、調整器は指令トルクの大きさ (Tref) を増大します。逆にモーター回転数が指令値より高い場合、調整器は Tref を減少します。この指令トルク値が Torque Limiter ブロックに渡され、モーターの実際の回転数とトルク-回転数特性の関数としての指令トルクが減少されます。

  2. 電流測定値の d-q 変換 — 回転子の位置 (モーターのモデル内では信号 theta で表される) に基づき、測定された三相固定子電流が、回転子の基準座標系の d-q 座標に変換されます。

  3. 電流指令値の計算 — 指令トルク $T_{ref}$、実際のモーター回転数、推定されたモーター パラメーター、および使用可能な電源電圧に基づき、このサブシステムは MTPA アルゴリズムと弱め界磁アルゴリズムを使用して、最適な指令電流 $Id_{ref}$ および Iqref を決定します。

  4. 電流レギュレーター — 指令電流 $Id_{ref}$ および $Iq_{ref}$ が電流レギュレーターに供給されます。このレギュレーターは測定電流と基準電流を処理して、基準電圧$V_{ref}$ を生成します。レギュレーターのダイナミクスは、モーターのパラメーターに基づく IPMSM 電流のフィードフォワード計算のメリットを活用しています。

三相基準信号は、モーター インバーターのパルスを生成する PWM 変調器に接続されています。変調器は、パルス平均化を使用する空間ベクトル PWM メソッドと、8 kHz のスイッチング周波数を使用します。

シミュレーション

Test Number ブロックでテスト回数を指定して、シミュレーションを実行します。テスト 3 には、終了時間に 10 秒を指定します。Scope 1 および Scope 2 の両方でシミュレーション結果を観察できます。

テスト 1: このテストは、通常の回転数 (1200 rpm) および過速度モード (2400 rpm) でのモーターと発電機の動作を示します。

0.4 秒で、負荷トルク 350 N.m がモーターに加えられます。0.7 秒で、モーターの回転数が 2400 rpm に上昇し、負荷トルクが 150 N.m に減少します。速度調整器は両方の回転数設定で良好に動作します。

1.0 秒で、負荷トルクが + 150 N.m から -150 N.m に反転するため、マシンは発電機として動作します。

テスト 2: このテストは、モーターの電流に対する MTPA 制御の影響を示します。0.4 秒で、負荷トルク 350 N.m がモーターに加えられます。0.8 秒で、MTPA 制御がオフ (Idref = 0) になります。MTPA アルゴリズムがないため、同じトルク値を発生しつつ、モーター電流の大きさが増大します。これにより、固定子の損失が増大します。テスト 3: このテストは、0 rpm から 6000 rpm までの、IPMSM モーターの広域回転数動作を示します。モーター回転数が 6000 rpm に上昇すると同時に、モーター定格の超過およびインバーター出力の飽和を防ぐために、トルク指令値が制限されます。

リアルタイム シミュレーション

Simulink Real-Time と Speedgoat ターゲット コンピューターがある場合は、このモデルをリアルタイムで実行できます。

  1. [コンフィギュレーション パラメーター] ウィンドウを開いて (または Ctrl+E キーを押す)、[コード生成] をクリックし、[システムターゲットファイル]slrealtime.tlc に設定します。

  2. ターゲットに接続し、[リアルタイム] タブの [ターゲットで実行] をクリックします。

これにより、ターゲット上で自動的にモデルが作成、展開および実行されます。ターゲットのストリーミング帯域幅に応じて、ターゲットからホスト コンピューターにリアルタイムで転送される信号数を減らさなければならないことがあります。

参考文献

  1. Tremblay, Olivier. Development Report: Parameters estimation and vector control of internal permanent magnet synchronous machine, ETS December 2010.

  2. Jaszczolt, Christopher. "Understanding permanent magnet motors." Control Engineering. January 2017.

  3. Cirrincione, M., M. Pucci, G. Vitale.Power Converters and AC Electrical Drives with Linear Neural Networks.CRC Press, 2012.