pu 単位系
pu 単位系とは
pu 単位系は電力業界で広く使用されており、さまざまな電力設備の電圧、電流、電力およびインピーダンスの値を表すことができます。これは一般に変圧器や AC マシンで使用されます。
所定の数量 (電圧、電流、電力、インピーダンス、トルクなど) の pu 値は、ベース数量に対する相対的な値です。
通常、以下の 2 つのベース値が選択されます。
ベース電力 = 設備の定格電力
ベース電圧 = 設備の定格電圧
その他すべてのベース数量はこの 2 つのベース数量から導出されます。ベース電力とベース電圧を選択すると、ベース電流とベース インピーダンスが電気回路の自然法則により決まります。
定格電圧が異なる複数の巻線をもつ変圧器の場合でも、すべての巻線に同じベース電力 (変圧器の定格電力) が使用されます。ただし、定義上、電圧、電流およびインピーダンスのベース値は巻線と同じ数だけ存在することになります。
可飽和変圧器の飽和特性は、瞬時鎖交磁束に対する瞬時電流の曲線という形式 ([i1 phi1; i2 phi2; ..., in phin]) で与えられます。
pu 単位系を使用して変圧器の R L パラメーターを指定する場合には、飽和特性の鎖交磁束と電流も pu で指定しなければなりません。対応するベース値は以下のとおりです。
電流、電圧および鎖交磁束はそれぞれボルト、アンペアおよびボルト秒で表されます。
AC マシンの場合、トルクと速度は pu 単位で表すこともできます。以下のベース数量が選択されます。
ベース速度 = 同期速度
ベース トルク = ベース電力と同期速度に対応するトルク
通常、回転子の慣性は、kg*m2 で指定せずに、次の式で定義される慣性定数 H を指定します。
慣性定数は秒単位で表されます。大きなマシンの場合、この定数は約 3 ~ 5 秒です。慣性定数が 3 秒であるということは、回転子部分に蓄えられたエネルギーが 3 秒間定格負荷を供給できるということです。小さなマシンの場合、H はこれより小さくなります。たとえば、3 HP のモーターでは 0.5 ~ 0.7 秒になることがあります。
例 1: 三相変圧器
たとえば、次のようなメーカー提供の典型的パラメーターをもつ三相 2 巻線変圧器を考えます。
定格電力 = 三相で合計 300 kVA
定格周波数 = 60 Hz
巻線 1: Y 結線、定格電圧 = 25 kV RMS (線間)
抵抗 0.01 pu、漏れリアクタンス = 0.02 pu
巻線 2: Δ接続、定格電圧 = 600 V RMS (線間)
抵抗 0.01 pu、漏れリアクタンス = 0.02 pu
定格電圧での磁化損失の定常電流における割合 (%):
抵抗性電流 1%、誘導性電流 1%
各単相変圧器のベース値が最初に計算されます。
巻線 1:
ベース電力
300 kVA/3 = 100e3 VA/相
ベース電圧
25 kV/sqrt(3) = 14434 V RMS
ベース電流
100e3/14434 = 6.928 A RMS
ベース インピーダンス
14434/6.928 = 2083 Ω
ベース抵抗
14434/6.928 = 2083 Ω
ベース インダクタンス
2083/(2π*60)= 5.525 H
巻線 2:
ベース電力
300 kVA/3 = 100e3 VA
ベース電圧
600 V RMS
ベース電流
100e3/600 = 166.7 A RMS
ベース インピーダンス
600/166.7 = 3.60 Ω
ベース抵抗
600/166.7 = 3.60 Ω
ベース インダクタンス
3.60/(2π*60)= 0.009549 H
したがって、SI 単位で表される巻線抵抗および漏れインダクタンスの値は、以下のようになります。
巻線 1: R1= 0.01 * 2083 = 20.83 Ω、L1= 0.02*5.525 = 0.1105 H
巻線 2: R2= 0.01 * 3.60 = 0.0360 Ω、L2= 0.02 * 0.009549 = 0.191 mH
励磁回路の場合、抵抗性電流 1%、誘導性電流 1% の磁化損失とは、磁化抵抗 Rm が 100 pu 、磁化インダクタンス Lm が 100 pu であることを意味します。このため、巻線 1 に関連する値を SI 単位で表すと、以下のようになります。
Rm = 100*2083 = 208.3 kΩ
Lm = 100*5.525 = 552.5 H
例 2: Asynchronous Machine
次に、SI 単位で表された三相 4 極の Asynchronous Machine ブロックを考えます。定格は 3 HP、220 V RMS (線間)、60 Hz です。
固定子に関連する、固定子および回転子の抵抗およびインダクタンスは、以下のとおりです。
Rs = 0.435 Ω、Ls = 2 mH
Rr = 0.816 Ω、Lr = 2 mH
相互インダクタンスは Lm = 69.31 mH です。回転子の慣性は J = 0.089 kg.m2 です。
1 つの相のベース数量は以下のように計算されます。
ベース電力 | 3 HP*746VA/3 = 746 VA/相 |
ベース電圧 | 220 V/sqrt(3) = 127.0 V RMS |
ベース電流 | 746/127.0 = 5.874 A RMS |
ベース インピーダンス | 127.0/5.874 = 21.62 Ω |
ベース抵抗 | 127.0/5.874 = 21.62 Ω |
ベース インダクタンス | 21.62/(2π*60)= 0.05735 H = 57.35 mH |
ベース速度 | 1800 rpm = 1800*(2π)/60 = 188.5 ラジアン/秒 |
ベース トルク (三相) | 746*3/188.5 = 11.87 ニュートンメートル |
ベース値を使用して、pu 単位での値を計算することができます。
Rs = 0.435 / 21.62 = 0.0201 pu Ls = 2 / 57.35 = 0.0349 pu
Rr = 0.816 / 21.62 = 0.0377 pu Lr = 2 / 57.35 = 0.0349 pu
Lm = 69.31/57.35 = 1.208 pu
慣性は、慣性 J、同期速度および定格電力から計算されます。
Simscape™ Electrical™ Specialized Power Systems Fundamental Blocks ライブラリの Machines ライブラリで提供されている、pu 単位の Asynchronous Machine ブロックのダイアログ ボックスを開くと、計算されているものは pu 単位のパラメーターであることがわかります。
瞬時電圧および電流波形のベース値
グラフまたはオシロスコープで瞬時電圧および電流波形を表示する場合は、定格正弦波電圧のピーク値を通常 1 pu と考えます。つまり、電圧と電流に使用されるベース値は、RMS 値に を乗算したものです。
標準 SI 単位でなく pu 単位系を使用する理由
pu 単位系を使用する主な理由は、以下のとおりです。
値を pu 単位系で表すと、電気的数量を定格値と簡単に比較できるようになります。
たとえば、過渡電圧が最大値 1.42 pu に達したと表せば、この電圧が定格値を 42% 超過していることがすぐにわかります。
pu で表されたインピーダンス値は、電力や電圧の評価の影響を受けず、ほぼ一定しています。
たとえば、3 ~ 300 kVA の電力範囲にあるすべての変圧器の場合、定格電圧に関係なく、漏れリアクタンスはほぼ 0.01 ~ 0.03 pu の間を変動し、巻線抵抗は 0.01 ~ 0.005 pu の間を変動します。300 kVA ~ 300 MVA の範囲にある変圧器の場合、漏れリアクタンスはほぼ 0.03 ~ 0.12 pu の間を変動し、巻線抵抗は 0.005 ~ 0.002 pu の間を変動します。
同様に、突極同期機の場合、同期リアクタンス Xd は通常 0.60 ~ 1.50 pu で、初期過渡リアクタンス X'd は通常 0.20 ~ 0.50 pu です。
これは、10 kVA 変圧器のパラメーターがわからない場合に、漏れリアクタンス 0.02 pu、巻線抵抗 0.0075 pu という平均値を想定しても、大きな間違いにはならないということです。
pu 単位系を使用した計算は簡単です。多電圧電力システムのすべてのインピーダンスを共通の電力基準とサブネットワークごとの定格電圧で表現する場合、1 つの母線で観察される pu 単位のインピーダンスの合計値は、pu 単位のインピーダンスの値をすべて加算するだけで得られ、変圧比を考慮する必要はありません。