Main Content

バッテリー パックの DC 高速充電

この例では、電気自動車のバッテリー パックを DC 高速充電タスク向けにモデル化する方法を説明します。バッテリー パックは、セルを直列および並列に組み合わせた複数のバッテリー モジュールで構成されています。各バッテリー セルは、Simscape Electrical の Battery (Table-Based) ブロックを使用してモデル化されています。この例では、初期温度と SOC はすべてのセルで同一です。セルの容量は、製造上の公差や不確実性によって変わります。3 つのバッテリー モジュール (2 つは類似し、1 つは他の 2 つと異なる) を直列接続して、バッテリー パックをシミュレートします。この例の結果では、初期周囲温度を摂氏 0 度と仮定しています。Controls サブシステムによって、バッテリー パックの充電時間と電流を決定するロジックが定義されます。

モデルの概要

この例では、冷却水循環装置、冷却器、または他の EV 付属品からの補助電力負荷に接続されたバッテリー パックをモデル化します。Controls サブシステムは、セルの SOC、温度、所定の温度でのセルの最大 C レートに基づいて、充電器からバッテリー パックに流すことができる電流の量を定義します。BEV DC charging port サブシステムの Controlled Current Source ブロックは、充電器をモデル化します。Controls サブシステムで定義されたロジックにより、電流の値が決まります。抵抗器は HV ケーブルをモデル化し、充電ポートをバッテリー パックに接続するために使用されます。バッテリー パックは直列接続された 3 つのバッテリー モジュールで構成され、全部で 130 個のバッテリー セルがあります。

バッテリー セルの概要

バッテリー セルは、等価回路メソッドを使用してモデル化されています。各セルで使用されている等価回路パラメーターは参考文献 [1] に記載されています。リチウムイオン電池を特徴付けるため、この例では既定のパラメーター値を指定した 2-RC モデルを使用しています。Battery Module カスタム コンポーネントで定義された [Cell Ahr rating variation] パラメーターを使用すると、セル間でセル容量を変動させることができます。この例では、セル容量の劣化や電荷漏洩は考慮されません。

バッテリー モジュールの概要

このモジュールを使用して独自のバッテリー モジュールを作成するには、まず直列接続するセルと並列接続するセルの数を指定します。次に、Battery Module ブロックの [Choose cell type] パラメーターで次のいずれかのオプションを選択し、個々のセルすべてについてセルのタイプを指定します。

  • Pouch

  • Can

  • Compact cylindrical

  • Regular cylindrical

この例では、パウチタイプのセルを使用します。Module A と Module B は、それぞれが 20 個の直列接続セルと 2 個の並列接続セルで構成されています。モジュール C は、25 個の直列接続セルと 2 個の並列接続セルで構成されています。

2 つの出力端子 SOCTemp は、モジュール内の各セルの SOC と温度に関する情報を提供します。熱端子 Amb は、シミュレーション中の周囲温度を定義するために使用されます。電気端子 posneg は、それぞれ電気的な正極端子と負極端子を定義します。2 つの入力端子 FlwRFlwT は、モジュールに入るバッテリー冷却液の流量制御値とモジュール入口温度を定義します。

以下の図は、Pouch および Can のバッテリー セルの構成例を示しています。

以下の図は、Compact cylindrical および Regular cylindrical のバッテリー セルの構成例を示しています。

バッテリー モジュールのパラメーターは次のとおりです。

  • 温度のベクトル、T — 温度変化するプロパティを表形式にしたときに、セルまたはモジュールのデータに対応する温度。ベクトルとして指定します。

  • Single cell Ahr rating, baseline[温度のベクトル、T] パラメーターで定義された温度におけるセル容量。ベクトルとして指定します。

  • Vector of state of charge values, SOC — セルの電気パラメーターが定義される 0 ~ 1 の値の範囲。ベクトルとして指定します。

  • Vector of coolant flowrates, L — セル冷却のルックアップ テーブルが定義されている冷却液の質量流量値。このパラメーターは、着目する流量範囲の複数の点に対応する必要があります。このパラメーターは [Effective rate of coolant heat transfer] パラメーターのサイズを定義するもので、ベクトルとして指定します。

  • No load voltage, V0[Vector of state of charge values, SOC] および [温度のベクトル、T] のさまざまな点におけるセルの開回路電位値。行列として指定します。

  • Terminal resistance, R0[Vector of state of charge values, SOC] および [温度のベクトル、T] のさまざまな点におけるセルのオーム抵抗値。行列として指定します。

  • Polarization resistance[Vector of state of charge values, SOC] および [温度のベクトル、T] のさまざまな点における分極抵抗値。行列として指定します。

  • 時定数[Vector of state of charge values, SOC] および [温度のベクトル、T] のさまざまな点における時定数。行列として指定します。

  • Cell thermal mass — 単一セルの熱質量。スカラーとして指定します。

  • Cell thermal conductivity — パウチ セルとユニット セルの場合はセルの面に垂直方向の伝導率、円筒型セルの場合は半径方向の伝導率。スカラーとして指定します。

  • Heat transfer coefficient to ambient — 熱伝達係数の値。スカラーとして指定します。

  • Number of series connected cells Ns — 直列のストリング数。整数として指定します。

  • Number of parallel connected cells Np — ストリング内の並列セルの数。整数として指定します。

  • Choose cell type — セルのタイプ。PouchCanCompact cylindrical または Regular cylindrical のいずれかとして指定します。

  • Cell height — セルの高さ。スカラーとして指定します。

  • Cell widthPouch および Can のセルの幅。スカラーとして指定します。

  • Cell thicknessPouch または Can のセルの厚さ。スカラーとして指定します。

  • Cell diameterCompact cylindrical または Regular cylindrical のセルの直径。スカラーとして指定します。

  • Number of cylindrical cells in a straight line — パッケージ化の目的で直線状に配置した円筒セルの数。整数として指定します。

  • Accessory total resistance — モジュール内のすべてのインライン抵抗を合わせた抵抗。スカラーとして指定します。この抵抗は、セル タブ、母線、ケーブルおよび/または溶接抵抗の合計です。スカラーとして指定します。

  • Cell balancing — セル バランス メソッド。none または passive のいずれかとして指定します。この例では、このパラメーターが none に設定されています。

  • Effective rate of coolant heat transfer from each cell — バッテリー セルから冷却液への熱伝達の熱抵抗の推定値 (W/K)。スカラー値の 3 次元行列として指定します。3 次元行列のサイズは、[温度のベクトル、T][Vector of coolant flowrates, L] および [NsxNp] のパラメーターによって決まります。[NsxNp] パラメーターは、モジュール内のセルの合計数です。バッテリー冷却はサイズ [T,L,Ns*Np] のルックアップ テーブルまたは 3 次元行列として表され、その値は数値流体力学などの詳細な 3 次元手法を使用して計算されます。行列の値は、モジュール内の冷却システムまたは冷却板の実際のハードウェア設計によって決まります。冷却板のパフォーマンスの制御には、入力値 FlwR および FlwT が使用されます。

  • External heat — モジュール近くにある高温コンポーネントによる、モジュール内の各セルへの外部熱入力。ベクトルとして指定します。

  • Vector of initial cell temperature — セルの初期温度。ベクトルとして指定します。

  • Vector of initial cell state of charge — セルの初期 SOC。ベクトルとして指定します。

  • Cell Ahr rating variation — 各セルのすべての [温度のベクトル、T] 点におけるセル容量のセル間変動。スカラー値のベクトルとして指定します。この配列を 1 に設定すると、すべてのセル容量が同一になります。あるセルの配列の値に、[Single cell Ahr rating, baseline] パラメーターに指定された値を乗算すると、セルの実際の容量または定格のアンペア時が計算されます。

バッテリー冷却液の流量と温度を定義するには、次の入力を指定します。

  • FlwR — 0 ~ 1 の値。スカラーとして指定します。シミュレーション中は、[FlwR] の入力値を使用して、正しい流量値が動的に選択されます。[FlwR] の入力値は、モジュール内の実際の流量を定義します。[Vector of coolant flowrates L] パラメーターの [FlwR] が 0 に等しいことは流量ゼロを意味します。一方、[FlwR] が 1 に等しいことは最大流量値を意味します。

  • FlwT — 正値または負値であり、周囲温度に加算した値が冷却液の入口温度に等しくなります。[FlwT] の入力値が +15 で、端子 Amb が 273.15 K の場合、冷却液の入口温度は 273.15 + 15 = 288.15 K に等しくなります。[FlwT] の入力値が -15 で、Amb が 273.15 K の場合、冷却液の入口温度は 273.15 - 15 = 258.15 K に等しくなります。

バッテリー パックの作成

この例では、3 つのバッテリー モジュールを直列接続して、バッテリー パックを作成します。抵抗によって、個々のモジュール間のケーブル接続がモデル化されます。DC 電流源は充電器電流をモデル化し、抵抗としてモデル化されたケーブルを使用してバッテリー パックに接続されます。バッテリー端子間にかかる電力負荷は、冷却水回路の冷却器や加熱器による電力消費をモデル化します。[Effective rate of coolant heat transfer from each cell] パラメーターは、バッテリー冷却水の熱伝達率をモデル化します。この例では、同一モジュールのすべてのセルで熱除去率 (W/K) が同じになっていますが、モジュールごとにこの値は異なります。詳細データがない場合は、すべての温度と流量について、すべてのセルで熱除去率の値が同じであると定義することができます。以下の図は 3 次元配列ルックアップ テーブルを示しています。ここで、i = 1:size(T) と j = 1:size(L) とする Qij は、各セルの熱除去率を W/K 単位で定義し、温度の値は i、冷却水の流量は j で示される値と等しくなります。これらの値は、[Vector of coolant flowrates, L] および [温度のベクトル、T] の各パラメーターで指定する数値の間で線形内挿されます。以下の図では、Qij のような冷却システムの実装とパラメーターが定義されています。

バッテリー制御の定義

高速充電を可能にするため、低温のバッテリー パックが加熱され、より大きな電流を流せるようにします。DC current profile サブシステムは、バッテリー パックのセル最低温度の関数として DC 電流を推定します。冷却水入口温度は 288.15 K で一定で、FlwT を定数入力値の 15、Amb 端子を 273.15 K に設定することで定義されます。セル間の温度勾配が摂氏 5 度を超えると、Flow Control サブシステムにより冷却水の流量が減らされます。

シミュレーション結果

この例では、ee_lithium_pack_DCFC_ini.m ファイルで定義されたパラメーターを使用します。セルのパラメーターはすべてのモジュールで同じです。Module C には、その周囲の高温コンポーネントをモデル化するために外部熱源が追加されています。周囲温度は摂氏 0 度に設定され、モデルは適切な DC 電流プロファイルを決定し、パックの充電率は変化します。パックの初期条件は、20% の SOC です。充電可能な時間は 15 分です。以下の 3 つのケースを考察します。

  • ケース 1 — 車両が長時間にわたり駐車場に駐車しています。セルの初期温度は周囲温度と同じです。充電中はバッテリーが加熱され、バッテリーの初期 SOC は 20% です。

  • ケース 2 — 車両は走行中で、ただちに充電されます。バッテリー セルの初期温度は 285 K です。充電中はバッテリーが加熱され、バッテリーの初期 SOC は 20% です。ee_lithium_pack_DCFC_ini.m ファイルで定義されたワークスペース変数 cellInitialTemp は、Amb 端子の値に 15 を加算した値に変更されます。

  • ケース 3 — 車両は走行中で、ただちに充電されます。バッテリー セルの初期温度は 285 K です。充電中にバッテリーは加熱されず (補助電力の消費なし)、バッテリーの初期 SOC は 20% です。ee_lithium_pack_DCFC_ini.m file ファイルで定義されたワークスペース変数 cellInitialTemp は、Amb 端子の値に 15 を加算した値に変更され、auxLoad は 1e-4 という低い値に設定されます。Controls/Flow Control サブシステム内で冷却水の流れをオフにし、NoFlow を 0 に設定することにより、冷却水の流量 FlwR は 0 に設定されます。

以下の図は、3 つのケースのシミュレーション結果を示しています。

最初のケースでは、バッテリーの温度上昇に時間がかかります。バッテリーの温度が低いため、充電器から安全に受容できる電流量も小さくなります。バッテリー パックの正味 SOC は、15 分の充電過程で 20% から約 42% に上昇します。

2 番目のケースでは、バッテリーの初期温度がより高いため、制御モジュールはより大きな電流をバッテリー パックに送ることができます。バッテリーの温度は熱のためさらに上昇します。これにより、制御モジュールは充電電流をさらに多くバッテリーに送れるようになります。その結果、バッテリー パックの正味 SOC は、15 分の充電時間で 20% から約 66% に上昇します。

3 番目のケースは最良のシナリオです。冷却システムや加熱システムは使用されないため、補助電力負荷がなく、バッテリーが 80% まで充電されることにつながります。15 分の充電時間の後、正味電荷の約 60% (80% – 20%) が回復しています。

参考文献

  1. T. Huria, M. Ceraolo, J. Gazzarri,R. Jackey. "High Fidelity Electrical Model with Thermal Dependence for Characterization and Simulation of High Power Lithium Battery Cells", IEEE International Electric Vehicle Conference, March 2012