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フェーザ シミュレーション法の導入

はじめに

この節では、以下を説明します。

  • 単純な線形回路にフェーザ シミュレーション法を適用する

  • フェーザ シミュレーション法の利点と制約

これまでに、電気回路をシミュレーションするための次の 2 種類の方法を説明してきました。

  • 連続の Simulink® ソルバーを使った可変時間ステップでのシミュレーション

  • 離散化したシステムを使った固定時間ステップでのシミュレーション

この節では、第 3 のシミュレーション法として、フェーザ法について説明します。

フェーザ法を使用する場合

フェーザ法は、主に大規模な発電機やモーターで構成される電力システムの電気機械の振動を調べるために利用されます。この方法の例は、「三相システムとマシン」でのマルチマシン システムのシミュレーションで示します。しかし、この手法は電動機の過渡安定性を調べる場合のみに限られるものではなく、任意の線形システムに適用できます。

線形回路においても、たとえばスイッチの開閉時の電圧や電流の振幅や位相の変化だけに注目したいような場合があります。このような場合には、R、L、C の素子間での相互作用から得られる微分方程式 (状態空間モデル) をすべて解く必要はありません。その代わり、電圧と電流の複素表現を使った簡単な代数方程式系を解くだけでよいのです。これが、フェーザ法です。その名前が示すとおり、この方法では電圧と電流を複素表現で計算します。フェーザは、ある周波数における一定の周期性 (Sin、Cos) をもつ電圧と電流を複素数で表現します。これらは、また直交座標系 (実数部と虚数部) でも、極座標系 (大きさと位相) でも表現することができます。フェーザ法では、電気的な状態は無視されるので、システムの電気部品個々の動作をシミュレーションする必要がなくなります。そのため、このシミュレーションの実行は高速になります。ただし、この高速解決手法は、1 つの特定周波数についてのみ解を与えるものであることを忘れないでください。

連続フェーザ法と離散フェーザ法

Powergui ブロックの [シミュレーション タイプ] パラメーターで、2 つのうちいずれかのシミュレーション方法を選択できます。フェーザは、Simulink の可変ステップ ソルバー (ode23tb など) を使用して連続フェーザ法を指定します。離散フェーザはローカル ソルバーを使用して、指定したサンプル時間でフェーザ モデルの離散化と解決を行います。離散フェーザ シミュレーション法では、Simulink Coder™ を使用してコードを生成し、モデルをリアルタイムでシミュレートできます。

電動機微分方程式の完全なセットを使用して固定子と回転子の過渡状態をモデル化する連続フェーザ ソルバーとは異なり、離散フェーザ ソルバーは、固定子側の微分方程式を代数方程式に置き換えた、簡略化された三相の同期および非同期の電動機モデルを使用します。これら低次の電動機モデルにより、2 つの状態 (phid と phiq の固定子磁束) が排除され、市販の安定性ソフトウェアに類似したシミュレーション結果が生成されます。

この簡略化により、固定子過渡電流の DC 成分による電磁トルクと速度の高周波数変動は無視され、安定性ソフトウェアで得られるものと同一の、より明確な波形となります。電気機械の低周波振動 (通常は 0.1 ~ 2 Hz の範囲) を伴う複数の電動機からなるシステムの安定性を調べるために、離散フェーザ ソルバーは、2 ~ 8 ms の範囲のサンプル時間で正確な周波数および電圧の変動を生成しますが、これは連続フェーザ ソルバーで得られるものとはわずかに異なる場合があります。電動機を含まないモデルの場合は、フェーザ ソルバーと離散フェーザ ソルバーは同一の結果を生成します。

離散フェーザ ソルバーのサンプル時間を大きくすると、離散ソルバーを使用する場合 ([Simulation type] パラメーターが [Discrete] に設定されている場合) よりもずっと大規模なシステムをシミュレートできます。離散フェーザ ソルバーにはその他にもいくつか利点があります。

  • ロバストな解法を使用して電動機の寄生負荷を排除できる。

  • 代数ループ解除のために電動機モデルで使用される時定数が小さいため、故障の解消中に連続フェーザ ソルバーで発生する電圧の急上昇が排除される。

  • 複数の電動機からなるシステムが連続フェーザ ソルバーより短時間でシミュレートされる。

  • Simulink Coder を使用してコードを生成し、モデルをリアルタイムでシミュレートできる。連続フェーザ ソルバーでは、リアルタイムのシミュレーションはモデルに電動機が含まれていない場合にのみ機能します。

回路の過渡状態の連続フェーザ シミュレーション

ここでは、簡単な線形回路にフェーザ法を適用します。Transient Analysis of a Linear Circuit (power_transient) という名前の例を開きます。

この回路は 60 Hz、230 kV の三相電力システムを簡単化したモデルであり、その 1 相分のみを表しています。電源の等価回路は、内部インピーダンス (Rs Ls) を直列接続された電圧源 (230kV RMS / sqrt(3) または 132.8kV RMS、60Hz) でモデル作成されています。電源は、単一のπ型セクション (RL1 分岐と、2 つの分路静電容量 C1 および C2) でモデル化された 150 km の伝送線路を経由して RL 負荷に電力を供給しています。回路ブレーカーは、伝送路の受端で負荷 (75MW、20Mvar) を切り替えます。2 つの測定ブロックは負荷電圧と電流をモニターします。

左隅の Powergui ブロックは、この回路モデルが連続システムであることを示しています。I_load 信号および V_line 信号を選択します。シミュレーション データ インスペクターから、[選択した信号のログ] を選択します。シミュレーションを起動し、0.0333 秒 (2 サイクル) でスイッチをオフにし、再び 0.1167 秒 (7 サイクル) 後にオンにしたときの電圧、電流の波形の変化を観測してください。

Powergui ブロックからのフェーザ法の実行

同じ回路のシミュレーションを、フェーザ シミュレーション法を使って実行します。このオプションには、Powergui ブロックからアクセスできます。Powergui ブロックを開きます。[Simulation type] パラメーターを [Phasor] に設定します。回路網の代数方程式を解くために使用する周波数を指定します。[Frequency (Hz)] フィールドには、既定値の 60 Hz が既に入力されています。Powergui を閉じ、Phasor 60 Hz という言葉が Powergui アイコンの上に表示されていることを確認してください。これは、回路のシミュレーションにフェーザ シミュレーション法が適用されることを示しています。シミュレーションを再び開始する前に、Scope ブロックに送信される 2 つの信号に対して適切な形式を指定します。

フェーザ信号の測定形式の選択

ここで Voltage Measurement ブロックまたは Current Measurement ブロックをダブルクリックすると、[Output Signal] パラメーターが表示され、フェーザ信号を次の 4 種類の異なる形式で出力できます。Complex (既定値)、Real-ImagMagnitude-Angle、または Magnitude のみ。Complex 形式は、複素信号を処理する場合に役立ちます。Scope ブロックは複素信号を受け入れないことに注意してください。Line Voltage ブロックと Load Current Measurement ブロックの両方に対して、Magnitude の形式を選択します。これにより、電圧と電流のフェーザの大きさを観測できます。

再度、シミュレーションを実行してください。シミュレーション データ インスペクターを開きます。次の図は、連続システムのシミュレーションで得られる波形とフェーザ シミュレーションでの波形を重ね合わせて表示します。

連続シミュレーションとフェーザ シミュレーションで得られる波形

連続シミュレーションを使うと、ブレーカーをオフにした後、電流が次にゼロクロッシングするところで、実際に回路ブレーカーがオフになっています。一方、フェーザ シミュレーションでは、これが直ちにオフになることに注意してください。これは、フェーザ シミュレーションにはゼロクロッシングの概念がないためです。

電圧と電流のフェーザの取り扱い

離散フェーザ法を使用するには、powergui ブロックを開き、[シミュレーション タイプ][Discrete phasor] に設定します。[Sample time (s)]1e-3 秒に設定します。シミュレーションを実行します。電圧と電流の大きさの波形は連続フェーザ モデルと同等ですが、ブレーカー切り替え時間の分解能は 1 ms となっています。

Complex 形式により、実数部と虚数部を分離することなく、複素演算やフェーザを取り扱うことができます。たとえば、負荷 (有効電力 P と無効電力 Q) の消費電力を計算する必要があるものとします。その複素電力 S は、電圧と電流の複素表現 (フェーザ) から次のように得られます。

S¯=P+jQ=12VI

ここで、I* は共役複素電流、1/2 は電圧と電流のピーク値を RMS 値に変換するために必要となる係数です。

電流と電圧の両方に対して Complex 形式を選択し、Simulink の Math ライブラリのブロックを使用して、次のように電力測定を構成します。

複素電圧、電流を適用した電力計算

この回路では、Scope ブロックに転送する前に複素フェーザを大きさに変換するために Complex to Magnitude-Angle ブロックが必要です。

[Specialized Power Systems][Control & Measurements][Measurements] ライブラリにある Power (phasor) ブロックは、有効電力 (P) と無効電力 (Q) を測定するために、上記の複素方程式を実装することに注意してください。電圧および電流の測定ブロックの複素数出力を、Power (phasor) ブロックの [V] 入力と [I] 入力に接続します。