電気駆動装置の調整
この例では、カスケード制御構造を使用した電気駆動装置の調整方法を説明します。
カスケード制御構造
次の図は、カスケード制御構造を使用するフィードバック制御ループを示しています。外側の速度制御ループの動作は、内側の電流制御ループより遅くなっています。
極配置法を使用した PI 調整の方程式
単純な離散プラント モデル Gf (z-1) に必要な制御性能を満たすには、閉ループ PI 制御システム GPI(z-1) を使用します。過渡特性はオーバーシュートで表すことができます。オーバーシュートは減衰係数に応じて減少します。
ここで、
σ はオーバーシュート。
ξ は減衰係数。
応答時間 tr は、減衰および固有振動数 ωn に次のように依存します。
ξ < 0.7 の場合
ξ ≥ 0.7 の場合
1 次システムのための PI コントローラー設計の一般的なワークフローは次のとおりです。
ゼロ次ホールド (ZOH) 離散化メソッドを使用してプラント モデルを離散化します。すなわち、プラントを表す 1 次方程式が以下であるとします。
ここで、
Km は 1 次ゲイン。
Tm は 1 次システムの時定数。
次のように設定します。
これにより、次の離散プラント モデルが生成されます。
ここで、Ts は離散時間コントローラーのサンプル時間です。
同じ変換を使用して PI コントローラーの離散時間表現を記述します。次の
に対して以下のように設定します。
これにより、次の離散コントローラー モデルが生成されます。
プラントとコントローラーの離散方程式を組み合わせることで、次のシステムの閉ループ伝達関数が生成されます。
伝達関数の分母は特性多項式です。つまり、次のようになります。
必要な性能を達成するための特性多項式は、次のように定義されます。
ここで、
コントローラーのパラメーターを決定するには、システムの特性多項式を、必要な性能の特性多項式と等価に設定します。
の場合、
および
となります。q0 および q1 を求めると、
および
となります。したがって、1 次システムの比例制御パラメーターと積分制御パラメーターの一般方程式は、
および
となります。
DC モーター コントローラー調整の方程式
モデル例のシステムについて、Kb = Kt と仮定すると、DC モーターの電圧およびトルクの単純化された数式は次のようになります。
および
ここで、
va は電機子電圧。
ia は電機子電流。
La は電機子インダクタンス。
Ra は電機子抵抗。
ω は回転子角速度。
Te はモーターのトルク。
Tload は負荷トルク。
Jm ローターの慣性モーメント。
Bm は粘性摩擦係数。
Kb は比例定数。
電流コントローラーを調整するために、モデルが線形であること、つまり、Kbω で表される逆起電力が無視できる大きさであることを仮定します。この仮定によって、次の 1 次ラプラス方程式を使用したプラント モデルの近似が可能になります。
システム要件を与えると、KP および KI を解くことができます。モデル例の電流コントローラーの要件は次のとおりです。
サンプル時間、Ts= 1 ミリ秒。
オーバーシュート、σ = 5%。
応答時間、tr = 0.11 秒。
したがって、電流コントローラーの比例パラメーターと積分パラメーターは次のようになります。
速度コントローラーを調整するには、単純なモデルによってプラント モデルを近似します。まず、内側のループが外側のループより大幅に高速であると仮定します。また、定常偏差がないと仮定します。これらの仮定から、内側の電流ループに対し伝達関数が 1 であると見なすことで、1 次システムの使用が可能になります。
回転速度を 1 分あたりの回転数で出力するには、伝達関数に係数 30/π を乗算します。モーター トルクの代わりに電機子電流を制御入力として使用するには、伝達関数に比例定数 Kb を乗算します。その結果、外側のループのプラント モデルの近似は次のようになります。
次のように、速度コントローラーのサンプル時間とオーバーシュートの要件は電流コントローラーと同じですが、応答時間は遅くなっています。
サンプル時間、Ts= 1 ミリ秒。
オーバーシュート、σ = 5%。
応答時間、 tr = 0.50 秒。
したがって、速度コントローラーの比例パラメーターと積分パラメーターは次のようになります。
モデル例の電気駆動装置の調整
DC モーターとカスケード コントローラーのコンポーネントを調べます。
モデルを開きます。MATLAB® コマンド プロンプトで、次のように入力します。
openExample("simscapeelectrical/DCMotorControlExample")
[コントロール] サブシステムには、Simulink® ライブラリのブロックを使用して作成されたカスケード制御システムのモデルが含まれています。
Four Quadrant Chopper ブロックは、2 つのブリッジ アームを含む 4 象限 DC-DC チョッパーを表します。その各ブリッジ アームに 2 つの IGBT (Ideal, Switching) ブロックがあります。入力電圧が
0.5
V のしきい値を超えると、IGBT (Ideal, Switching) ブロックは、順電圧0.8 V
、抵抗1e-4
Ω の線形ダイオードのように動作します。しきい値電圧を超えていないときの IGBT (Ideal, Switching) ブロックは、オフ状態のコンダクタンスが1e-5
1/Ω の線形抵抗器のように動作します。
モデルのシミュレーションを実行します。
sim("DCMotorControl")
結果を表示します。[Scope] ブロックを開きます。
1.5 秒の時点で、定常偏差になる負荷トルクが発生しています。
DC モーター コントローラーを調整します。関数
ee_getDCMotorFirstOrderPIParams
は、この例の 1 次システムの比例ゲイン KP と積分ゲイン KI を計算します。関数の構文は
[Kp, Ki] = getParamPI(Km,Tm,Ts,sigma,tr)
です。関数の入力引数は、コントローラーの次のようなシステム パラメーターと要件です。
Km
は 1 次ゲイン。Tm
は 1 次システムの時定数。Ts
は離散時間コントローラーのサンプル時間。sigma
は目的の最大オーバーシュート σ。tr
は目的の応答時間。
♣
関数内の方程式を調べるには、次のように入力します。
edit ee_getDCMotorFirstOrderPIParams
関数を使用してコントローラーのパラメーターを計算するために、次のシステム パラメーターをワークスペースに保存します。
Ra=4.67; % [Ohm] La=170e-3; % [H] Bm=47.3e-6; % [N*m/(rad/s)] Jm=42.6e-6; % [Kg*m^2] Kb=14.7e-3; % [V/(rad/s)] Tsc=1e-3; % [s]
電流コントローラーを調整するためのパラメーターを、内側のコントローラーのパラメーターおよび要件の関数として計算します。
Km
=1/Ra
Tm
=La/Ra
Ts
=Tsc
sigma
=0.05
Tr
=0.11
[Kp_i, Ki_i] = ee_getDCMotorFirstOrderPIParams(1/Ra,La/Ra,Tsc,0.05,0.11)
Kp_i = 7.7099 Ki_i = 455.1491
電流コントローラーのゲイン パラメーターがワークスペースに保存されます。
速度コントローラーを調整するためのパラメーターを、外側のコントローラーのパラメーターと要件に基づいて計算します。
Km
=Kb*(30/pi)
Tm
=Jm/Ra
Ts
=Tsc
sigma
=0.05
Tr
=0.5
[Kp_n, Ki_n] = ee_getDCMotorFirstOrderPIParams((Kb*(30/pi))/Bm,Jm/Bm,Tsc,0.05,0.5)
Kp_n = 0.0045 Ki_n = 0.0405
速度コントローラーのゲイン パラメーターがワークスペースに保存されます。
保存された、速度とコントローラーのゲイン パラメーターを使用して、モデルをシミュレートします。
sim("DCMotorControl")
結果を表示します。[Scope] ブロックを開きます。
オーバーシュートはやや増加していますが、コントローラーは負荷トルクの変化にずっと速く応答しています。
参考
Rotational Electromechanical Converter | Inertia | Rotational Friction