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六角形のデルタ結線を使用する位相シフト変圧器

この例では、負荷時タップ切換装置 (OLTC) を使用する六角形のデルタ結線を使用する位相シフト変圧器 (PST) の 2 つのモデルの動作を示します。

Gilbert Sybille (Hydro-Quebec)

説明

2 つの 120 kV 1000 MVA ネットワークが、位相シフト変圧器 (PST) によって相互に接続されています。位相シフトは、負荷時タップ切換装置 (OLTC) を用いて、負荷に対し変更することができます。

シミュレーション

電力伝送の開ループ制御

位相シフトが電力伝送に及ぼす影響を観察するために、位相シフトは 0°から 32°の遅れへと増加し (タップ +5)、続いて 0°に減少して再び 32.2°の進みへと増加します。これは、5 つのパルスを "Up" 入力に送り、次に 10 のパルスを "Down" 入力に送って実行します。タップ選択は比較的遅い機械的プロセスなので (ブロック メニューの [Tap selection time] パラメーターでタップあたり 3 秒と指定)、シミュレーションの終了時間は 50 秒に設定されています。

シミュレーションを開始し、PST の動作を Scope ブロックで観察します。2 つのモデルで得られる結果は、5 つのトレースで重ね合わされています。

  • トレース 1 はタップの位置を示します。

  • トレース 2 は、母線 B1 (黄色) および母線 B3 (赤紫色) で測定された正相電圧を重ね合わせて示します。

  • トレース 3 は、入力端子 (ABC) に対する、出力端子 (abc) で測定された正相電圧の位相シフトを示します。

  • トレース 4 は、母線 B1 (黄色) および母線 B3 (赤紫色) で測定された有効電力を比較します。

  • トレース 5 は、母線 B1 (黄色) および母線 B3 (赤紫色) での相電流を比較します。

シミュレーションの開始時点で、OLTC は位置 0 (ゼロ位相シフト) にあります。2 つのネットワークは両方の内部角度が 0°に設定されて対称であるため、電流は流れません。その後、位相シフトが増加して、母線 B2 (または B4) は母線 B1 (または B3) より遅れます。B2 は右側に配置された電源の内部電圧より遅れるため、電力は右から左へと流れます。したがって、左から右へと測定した電力は、正のタップ位置に対して負の値となります。最大電力は、タップ +5 または -5 で、位相シフトがそれぞれ -32.2°および +32.2°のときに得られます。有効電力は、P= V1.V2*sin(psi)/ (X1 +X2 + Xpst) から計算できますが、ここで、V1=V2= 内部電圧 = 1.0 pu、X1= X2 = ネットワーク リアクタンス = 1pu /1000 MVA、Xpst= タップ 5 での PST 漏れリアクタンスです。PST 漏れリアクタンスはタップ位置によって変動します (タップ 0 での 0 pu から最大のタップ (10) での 0.15 pu まで)。フェーザ モデルの正相インピーダンスは、測定出力 "m" での信号として入手できます。タップ 5 で得られるリアクタンスは Xpst=0.1067 pu/ 300 MVA です。pu/100 MVA 単位で表される合計リアクタンスは、X= 0.1 +0.1 + 0.1067/3 =0.2356 pu/100 MVA となります。タップ 5 で予想される有効電力は P= 1*sin(32.2deg)/0.2356 = 2.26 pu/100 MVA すなわち 226 MW で、これはトレース 4 での測定値 (224 MW) とよく一致します。PST 漏れリアクタンス全体に対し生じた電圧のため、PST の入力電圧と出力電圧間で測定される位相シフト (トレース 3) は予想値より低くなります。たとえば、タップ 5 の値は負荷なしで計算された理論値の 32.2°ではなく、27.2°となります。位相シフトの変動は、負荷電流によって変わります。

フェーザ モデルの初期化

フェーザ モデルを t=0 で初期化して開始するには、モデルで使用される電流源を、定常状態に対応する電流値で初期化しなければなりません。初期タップ位置 5 で開始するとします。まず、2 つのブロック メニューで [set Initial tap] パラメーターを 5 に設定します。次に、2 つのモデルの "Up" 入力と "Down" 入力に接続されている信号を切断し、タップが位置 5 に留まるようにします。シミュレーションを開始すると、モデルが初期化されていないため、t=0 でフェーザ モデルの信号に過渡応答が発生します。Powergui の [Steady-State Voltages and Currents] オプションを使用して、詳細モデルの母線 B4 に流れる初期電流を導出します。"B2/Ia" として識別される A 相出力電流は、1129.4 A rms、169°です。この電流を PST 定格に基づき単位あたりに換算すると、1129/1443 = 0.7824 pu/ 300 MVA となります。[Initial pos. seq. output current] パラメーターで [0.7824 169] を指定します。ここでシミュレーションを再実行すると、t=0 で過渡応答は観察されないはずです。

不均衡な条件での操作

フェーザ モデルは不均衡な条件に対して有効です。2 つのブレーカーで [Phase A Fault] をオンにすると、t=5 秒で単相故障が加えられます。母線 B1 および B3 で測定される電流は同一でなければなりません (たとえば、タップ位置 +5 では、Ia=3.48 pu、Ib=2.25 pu、Ic=2.10 pu)。

フェーザ モデルだけのシミュレーション

フェーザ モデルによるシミュレーション速度の増加を評価するために、詳細 PST モデルを削除して、フェーザ モデルの複製で置き換えます。制御信号を "Up" と "Down" の入力に再接続します。再度、シミュレーションを実行してください。モデルはおよそ 5 倍の速さで実行されます。これは主に、詳細モデルの OLTC スイッチがシミュレートされないからです。