柔軟ビームの概要
柔軟ビーム ブロック
Simscape™ Multibody™ で柔軟ビーム ブロックを使用すると、小さい線形の弾性変形が可能な、一定断面をもつ細長体をモデル化できます。これらの変形には、伸張、たわみ、ねじりが含まれます。これらのブロックを使用するには、[ライブラリ ブラウザー] で、[Simscape] 、 [Multibody] 、 [Body Elements] 、 [Flexible Bodies] 、 [Beams] をクリックします。
以下の図は、柔軟な溝形ビームのモデルを示しています。この例では、横断的な点荷重が適用されて、ビームにたわみとねじれが生じます。ビームのたわみとねじれの角度は、断面の平面における力の作用点によって変わります。MATLAB® コマンド プロンプトで smdoc_flexible_cantilever_channel
と入力して、モデルを開きます。
ビームのジオメトリ
ビームのジオメトリは、その断面の押し出しです。一般的な断面は、穴の有無に関係なく、General Flexible Beam ブロックでサポートされています。さらに、ビームの断面は、溝形、山形、中空円柱形など、多くの標準的な形状をとることができます。標準的な断面形状をもつビームの場合は、以下の柔軟ビーム ブロックを使用します。
接続座標系
各ビームには、[A] と [B] のラベルが付いた 2 つの接続座標系があります。各接続座標系には、別のブロックに接続可能なブロック上に座標系端子があります。接続座標系はビームの端に配置されており、[R] のラベルが付いたローカル基準座標系の z 軸上にあります。基準座標系は、ビームの内部参照の役割を果たすだけで、座標系端子はもちません。
変形モデル
Simscape Multibody では、すべての柔軟ビームは弾性のたわみ変形、軸変形、ねじり変形をもつことができます。ビームは細長体と仮定されます。その長さは断面全体の寸法を大きく超えていなければならず、変形はすべて線形で小さくなければなりません。
ビームのたわみ変形と軸変形は、従来の (オイラー・ベルヌーイの) ビーム理論に従います。たわみは、ビームの断面平面 (xy 平面) のどの軸を中心としても構いません。断面のスライスは、平面内で剛体で、変形中も平面のままであり、ビームの変形した中立軸に対し常に垂直であると仮定されます。ビームのねじりはサンブナンのねじり理論から派生したものであり、断面のスライスは平面内では剛体ですが、平面外に反るのは自由です。
これらの仮定のうち 1 つ以上が満たされていない場合は、結果が不正確になることがあります。たとえば、次の図で、横断的な点荷重を受ける片持ちビームは、たわみ変形 δ が大きいと結果が不正確になります。たわんでいる間、ビームの自由端は、真の物理パス (点線の軌跡) に従うのではなく、下方向に垂直に動きます。誤差 ε は、δ の増加に従って増加します。
材料特性
Simscape Multibody の柔軟ビームは、均質で等方的、かつ線形弾性的な材料で作られていると仮定されます。密度やヤング率などの材料特性は、ブロック ダイアログ ボックスの [Stiffness and Inertia] セクションで指定できます。軸、屈曲、ねじりの剛性など、ビーム断面の特性は、指定した材料とジオメトリの特性を使用して、ブロックにより自動的に計算されます。計算された値を確認するには、ビームのブロック ダイアログ ボックスで [Stiffness and Inertia] 、 [Derived Values] を開き、[Update] ボタンをクリックします。
減衰法
ビーム ブロックは、一様モーダル減衰と比例減衰の 2 つの減衰法をサポートします。一様モーダル減衰法は、ビームのすべての振動モードに同一の減衰比を適用します。比例減衰法では、減衰行列 [C] は、質量行列 [M] と剛性行列 [K] の線形結合です。
,
ここで、α と β はスカラー係数です。
離散化
ビーム ブロック ダイアログ ボックスの [Discretization] セクションにある [Number of Elements] パラメーターは、ビームを離散化するために使用する有限要素の数を指定します。この値は、シミュレーションの精度 (多くの要素が必要な場合あり) とシミュレーションの速度 (要素数を少なくする必要あり) とのバランスが取れるように選択できます。精度の要件を満たす必要最少限の要素を使用してください。
たわみ変形の場合、ビーム ブロックは 3 次エルミート内挿法を使用して、各要素を通じた変位分布を計算します。軸変位とねじり回転の分布は、線形内挿法によって得られます。
シミュレーションのパフォーマンス
モデルでビーム ブロックを使用する場合、シミュレーションのパフォーマンスの精度と速度に影響を及ぼす要素がいくつかあります。この節では、柔軟ビームの使用、ソルバーの選択、減衰の設定という 3 つの最重要要素の影響について説明します。
柔軟ビームを使用するとマルチボディ シミュレーションの精度が高くなる場合がありますが、柔軟ビームは、システムの数値的剛性と自由度数を増やすことにより、シミュレーション速度を遅くする傾向があります。シミュレーション速度を上げるには、ボディの変形がごくわずかであるなら必ず剛体を使用する必要があります。さらに、[Discretization] セクションの [Number of Elements] パラメーターはシミュレーションのパフォーマンスに大きく影響します。詳細については、離散化セクションを参照してください。
ソルバーはマルチボディ シミュレーションのパフォーマンスにとってきわめて重要です。柔軟ビームを含むシステムはスティッフな性質があるため、これらのシステムでは ode15s、ode23t、daessc などのスティッフ ソルバーがより優れた機能を発揮する傾向があります。さらに、ソルバーの許容誤差と最大次数も、シミュレーションの精度と速度に影響します。詳細については、ソルバーの選択を参照してください。
メモ
ode23t を除くすべてのソルバーは、一定レベルの数値的散逸を提供し、これが柔軟なマルチボディ システムのモデル化に役立つ場合があります。
減衰がごくわすか、またはまったくない柔軟ビームをモデル化する場合、望ましくない高周波数モードが応答にあると、ソルバーで適切な数値的散逸が提供されていない場合に、シミュレーションの速度が低下する可能性があります。その場合は、少量の減衰を追加すると、モデルの精度に大きく影響することなく、シミュレーションの速度を改善できます。
重力下での変形
Simscape Multibody の柔軟ビームは重力に反応しますが、それは重力が Mechanism Configuration ブロックで指定されている場合のみです。Gravitational Field ブロックによる力は無視されます。柔軟ビーム ブロックを含む座標系ネットワークに Gravitational Field ブロックが含まれている場合、ボディは無重力であるかのように動作します。可とう体と Gravitational Field ブロックを同じ座標系ネットワーク内で使用すると、[診断ビューアー] にコンパイルに関する警告が表示されます。
メモ
Mechanism Configuration ブロックと Gravitational Field ブロックの両方を使用して重力をモデル化すると、コンパイル エラーが発生します。
可視化
各柔軟ビーム ブロックのダイアログ ボックスには、折りたたみ可能な可視化ペインが含まれています。このペインは、モデル化しているビームの視覚的なフィードバックを即座に提供します。これを使用して、ビームの断面、長さ、色に問題がある場合は見つけて修正します。標準ビューを選択するか、回転、パン、ズームすることにより、さまざまな視点からビームを調べることができます。
可視化ペインのツールストリップで [Update Visualization] ボタン をクリックして、ビームに対する最新の変更を表示します。[Apply] または [OK] をクリックして、モデルに対する変更を確定します。
メモ
任意のボタンをポイントすると、その機能を確認できます。
さらに、可視化ペインを右クリックすると、状況依存メニューが表示されます。このメニューでは追加オプションが提供され、背景色を変更したり、ビュー規則の設定を変更したり、可視化ペインを複数のウィンドウに分割してビームをさまざまな視点から表示したりできます。