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RF 劣化要因と補正によるエンドツーエンドの QAM シミュレーション

この例では、衛星ダウンリンクの RF 劣化要因と補正の効果を表示する可視化機能を説明します。このリンクは、AWGN がある場合は 16-QAM 変調を利用し、ハイ パワー アンプ (HPA) を使用して衛星通信に伴う損失を克服します。HPA は非線形動作を取り入れていますが、これは他の RF 劣化要因が重なったときは、軽減手法を使用する必要があります。

この例には以下が含まれます。

  • MATLAB ベースのシミュレーター関数 QAMwithRFImpairmentsSim.m。この関数は GUI から入力パラメーターを受け取ります。

キーワード: QAM、RF 劣化要因、I/Q 不均衡、非線形性、RF 補正。

はじめに

シミュレーションは、GUI で表示されたパラメーターから設定できます。

GUI を開き、次を行います。

  • パラメーターの変更

  • MATLAB によるシミュレーションの実行

  • 信号コンスタレーションとスペクトルの可視化

  • 元となる MATLAB コードの表示

  • C コードの生成とシミュレーションの実行 (有効な MATLAB Coder™ のライセンスが必要)

QAMwithRFImpairmentsExample

[Simulate] ボタンは構成されたリンクを、インタープリター型 MATLAB コードを使用してシミュレートします。シミュレーションの実行中に、GUI を使用して一部のシミュレーション パラメーターを変更できます。パラメーター設定の更新による影響は、ただちに [Results] パネルまたはプロットで観察できます。シミュレーションの実行中に調整できないパラメーターはグレー表示されます。調整不可能なパラメーターを変更するには、シミュレーションを停止しなければなりません。

[View MATLAB Code] ボタンは、エディターでシミュレーターのコードを開きます。これによって、視覚的な検証とシミュレーションで使用される基になる関数に関するより詳しい調査を行うことができます。

[Run Generated Code] ボタンをクリックすると、MATLAB 関数が実行可能な MEX ファイルにコンパイルされ、コンパイル処理の終了後にシミュレーションが実行されます。MEX バージョンのシミュレーションは、コンパイル処理自体からの時間ペナルティはありますが、かなり高速に実行できます。シミュレーションがインタープリター モードまたは MEX ファイルのどちらから実行されていても、同じパラメーターを変更できます。

[Stop Simulation] ボタンは実行中のシミュレーションを停止させます。これはインタープリター型 MATLAB と MEX ファイルの両方で機能します。このボタンは、シミュレーションの実行中のみアクティブです。

[Help] ボタンをクリックすると、この HTML ページが表示されます。

シミュレーションの概要

シミュレーションでは、以下のステップが実行されます。

  • ランダムな整数の生成

  • 16-QAM による変調

  • ルート レイズド コサイン (RRC) 送信フィルター

  • HPA の経由

  • 送信アンテナ ゲインの適用

  • 大気条件に基づくパス損失の適用

  • RF 劣化要因を伴う AWGN チャネル経由の信号の受け渡し

  • 受信アンテナ ゲインの適用

  • DC オフセットの削除

  • 自動ゲイン制御の適用

  • RRC 受信フィルター

  • ADC 効果の適用

  • I/Q 振幅と位相の不平衡の補正

  • ドップラー シフトの補正

  • 16-QAM の復調

  • ビット エラー レートの計算

次のブロック線図は、システムのアーキテクチャを示しています。

次の信号劣化要因を指定できます。

  • 受信機のノイズ温度。[0, 600] K の範囲

  • ドップラー誤差。[-3, 3] Hz の範囲

  • DC オフセット。[0, 20] の範囲で最大信号電圧の割合として表現

  • 位相ノイズ。[-100,-48] dBc/Hz の範囲

  • I/Q 振幅の不均衡。[-5, 5] dB の範囲

  • I/Q 位相の不均衡。[-30, 30] 度の範囲

  • HPA バックオフ レベル。[1, 30] dB の範囲

  • [2 16] ビット範囲内で ADC のビット数を変更することで生じる量子化誤差

  • [0.1 2] 振幅単位 (AU) の範囲内での ADC のフル スケール電圧による飽和

増幅器がその線形領域で動作するため、30 dB の HPA バックオフはわずかな歪みに相当し、1 dB のバックオフは著しい歪みに相当します。Saleh モデルを使用して HPA の動作をシミュレートします。詳細情報は、comm.MemorylessNonlinearityのページに記載されています。

この GUI から、ドップラー誤差、I/Q 不均衡および DC オフセットの補正を有効化または無効化できます。これらの補正は、3 つの System object によって行われます。comm.CarrierSynchronizerはドップラーによる周波数オフセットを補正し、comm.IQImbalanceCompensatorは振幅および位相の不均衡を補正し、dsp.DCBlockerは DC オフセットを補正します。

結果と表示

GUI コントロールを使用して以下を表示できます。

  • 送信 RRC フィルターの出力で測定された送信信号のスペクトル。

  • 受信 RRC フィルターの入力で測定された受信信号のスペクトル。

  • 受信信号のコンスタレーション ダイアグラム。

  • HPA 入力信号のコンスタレーション ダイアグラム。

  • HPA 出力信号のコンスタレーション ダイアグラム。

既定のパラメーターを使用した標準的なスペクトル プロットを以下に示します。AWGN の効果は帯域外信号のスペクトルで最も容易に見ることができます。この場合、受信信号のノイズ フロアは送信信号のスペクトルより 20 dB 高くなります。受信信号スペクトルは、チャネルを介した伝播損失の影響も示しています。

I/Q 不均衡の補正が無効になっている場合のコンスタレーション ダイアグラムのプロットを示します。赤い + 記号は、16-QAM 基準コンスタレーションを表します。コンスタレーションは未補正の不平衡によってスケーリングされ、回転されています。

非線形 HPA の動作の効果は、同じコンスタレーション ダイアグラム プロットを使用して、HPA Input および HPA Output として表示されます。これらのダイアグラムは、増幅器が飽和より 7 dB 低い出力で動作している場合の AM/AM 歪みおよび AM/PM 歪みの効果を示します。AM/AM 歪みが HPA 出力信号コンスタレーションの '丸みがかった' 外観の原因になり、他方、AM/PM はコンスタレーションの回転の原因になります。

ビット エラー レート、誤り数、送信されたシンボルの総数、パス損失および Eb/No は、GUI の [Results] パネルに直接表示されます。

その他の調査

GUI を使用して、以下のパラメーターを変更します。

  • リンクのゲインと損失: ノイズ温度を 0 から 290 K (標準) の間で変更し、受信信号のスペクトル アナライザー プロットに効果を表示します。同様に、リンク距離、大気条件および搬送波周波数を変更し、受信信号のスペクトルへの影響を表示します。リンク マージンにおける変更も、計算後のパス損失と Eb/No に反映されています。

  • HPA AM-to-AM および AM-to-PM 変換: [HPA backoff] を 30 dB (わずかな非線形性) から 1 dB (著しい非線形性) の間で変更します。値 7 dB は中程度の非線形性を表します。スペクトル プロット、HPA 出力コンスタレーション、受信信号コンスタレーション ダイアグラムに効果を表示し、さらにビット エラー レートへの効果も確認します。非線形性を増加させるとスペクトル再成長が増加し、HPA 出力コンスタレーションが 'より丸く' なり回転する原因となります。"HPA backoff" パラメーターは、シミュレーションの実行中に調整可能です。

  • 位相ノイズ: [Phase noise] を -48 dBc/Hz (高) に設定し、受信信号コンスタレーション ダイアグラムで接線方向の分散増分を観察します。このレベルの位相ノイズは、誤差が発生しそうにないチャネルでも誤差を引き起こすのに十分です。Phase noise を -55 dBc/Hz (低) に設定し、接線方向の分散が減少していることを観察します。このレベルの位相ノイズは、エラー レートを大きく増加させることはありません。次に、HPA backoff レベル パラメーターを 7 dB (中程度の非線形性) に設定します。適度なレベルの HPA 非線形性や、適度なレベルの位相ノイズは、それぞれが個別に適用される場合はそれほど多くのビット エラーを生じませんが、一緒に適用されると、発生するビット エラーが大幅に増えることに注意してください。Phase noise パラメーターは、シミュレーションが停止しているときのみ調整可能です。

  • DC オフセットおよび DC オフセット補正: [DC offset] を 10 に設定し、[DC offset] チェック ボックスをオフにして DC オフセット補正を無効にします。コンスタレーション ダイアグラムが大きく変化します。DC offset 補正を再度有効にし、受信信号コンスタレーション ダイアグラムと信号スペクトルを表示して DC オフセットが削除されていることを確認します。DC offset パラメーターと DC offset 補正パラメーターは、いずれもシミュレーションの実行中に変更可能です。

  • I/Q 不均衡: [Amplitude and phase imbalance] チェック ボックスをオフにし、I/Q 不均衡の効果を受信コンスタレーション ダイアグラムに表示します。振幅と位相の不平衡のフィールドを変更して、受信信号コンスタレーション ダイアグラム上で異なる値による効果を観察します。I/Q 不均衡補正を再度有効にし、受信したコンスタレーションがそのコンスタレーションの基準点と一致していることを確認します。これらのパラメーターは実行中に変更できます。

  • ドップラーおよびドップラー補正: [Doppler error] を 0.7 Hz に設定し、"ドップラー誤差" の補正を無効にして、受信した信号の未補正のドップラーの効果を表示します。BER が 0.5 に近いことに注意してください。"ドップラー誤差" の補正を再度有効にしてドップラー誤差を補正します。BER が減少していることを確認します。これらのパラメーターは、シミュレーションが停止しているときのみ使用できます。

  • ADC 効果: 受信信号で増加する量子化誤差の効果を確認するには、ADC のビット数を減らします。受信信号に飽和を課して、システム パフォーマンスへの効果を確認するには、ADC のフル スケール電圧を減らします。

  • コード生成: [Run Generated Code] ボタンをクリックすると、シミュレーションが実行されます。初回の実行時には、シミュレーションの実行前にコンパイルが行われるため、インタープリター型 MATLAB でシミュレーションを実行する場合よりも処理に時間がかかります。HPA backoff のレベルを変更し、シミュレーションを再実行します。[Results] パネルがすぐに更新されることがわかります。次に、Phase noise を変更し、[Run Generated Code] ボタンをクリックします。位相ノイズは調整不可能なパラメーターであるため、コードは再コンパイルされます。"Rx constellation" オプションを有効にしてシミュレーションを再実行します。スコープがアクティブな場合、ビットの誤りの結果はよりゆっくり蓄積されますが、スコープは、インタープリター型 MATLAB でシミュレーションを実行する際よりもかなり速く更新されることがわかります。

  • BER 推定: 既定では、劣化要因と補正の効果をスコープ上で容易に可視化できるように、[Number of bit errors] パラメーターは Inf に設定されています。BER 推定では、通常 50 ~ 200 の誤りを収集すれば十分なため、スコープを無効にして、[Number of bit errors] パラメーターを Inf から 100 に変更します。シミュレーションを実行して有効な BER 推定を入手する際は、変更可能なパラメーターでも変更しないことが重要です。

参考文献

[1] Saleh, Adel A.M., "Frequency-Independent and Frequency-Dependent Nonlinear Models of TWT Amplifiers," IEEE® Transactions on Communications, Vol. COM-29, No. 11, November 1981.

[2] Kasdin, N.J., "Discrete Simulation of Colored Noise and Stochastic Processes and 1/(f^alpha); Power Law Noise Generation," The Proceedings of the IEEE, Vol. 83, No. 5, May, 1995.

[3] Kasdin, N. Jeremy, and Todd Walter, "Discrete Simulation of Power Law Noise," 1992 IEEE Frequency Control Symposium.

[4] Sklar, Bernard, Digital Communications: Fundamentals and Applications, Englewood Cliffs, N.J., Prentice Hall, 1988.