Tata Motors が世界一の低価格車 Tata Nano のエンジンマネジメントシステムを開発

「このプロジェクトではモデルベース デザインによるプロトタイピングが重要な鍵となりました。モデル化、シミュレーション、テストのために統合されたプラットフォームを使用することで、すばやく変更を行い、システム全体を構築する前にシステムがどのように反応するかを予測できました。この初期段階における見識が、コントローラー、エンジン、そして Nano 自体の設計を方向付けるものとなりました。」

課題

Tata Nano 用の新しいエンジンマネジメントシステムを設計し、厳しいコストとスケジュールの制限を満たすこと

ソリューション

MathWorks のモデルベース デザイン ツールを使用して、プロトタイプ制御システムのモデル化、シミュレーション、コード生成を実行

結果

  • 2 つの高価なセンサーを排除
  • 検証サイクルの期間を数週間から数時間に短縮
  • サプライヤー選定前にプロトタイプの設計と要求仕様の検証を実行

Tata Nano

世界一の低価格車として発売時に注目を集めた Tata Nano の価格は、約 2500 米ドルです。排気量 624 cc の 2 気筒エンジンを搭載した Nano は 4 人乗りで、時速 105 キロでの巡航走行が可能ですまた、インド製自動車の中では最高の燃費 (23 km/L) と最も低いCO2排出量 (101 g/km) を誇っています。

Nano で設定されたコストと効率性に関する厳しい目標を達成するため、Tata ではまったく新しいエンジンマネジメントシステム (EMS) を設計し、モデルベース デザインを利用して開発期間と製品コストの削減を行いました。

Tata Motors の Advanced Engineering Group の Deputy General Manager である S Govindarajan 氏は次のように述べています。「モデルベース デザインのおかげで、プロトタイプのエンジンと EMS をすばやく開発できたほか、設計の選択肢を検討し、量産用ハードウェアとソフトウェアの要求仕様を調整することもできました。Nano の EMS での成功を受けて、当社では現在多くのプロジェクトに MathWorks のツール チェーンを使用しています。」

課題

Nano は他の車とは非常に異なるため、エンジンと部品の両方を白紙の状態から設計および開発しなければなりませんでした。このため、プロジェクトの開始後、EMS の要求仕様は頻繁に変更されました。

安全性、排ガス乗り心地およびドライバビリティに関する目標をできる限り低いコストで達成することが要求されました。エンジニアは、ソフトウェアの機能で置換できる部品など、不要な部品を特定して排除する必要がありました。同時に、ソフトウェアで必要なメモリを最小に抑え、ソフトウェアが迅速に実行することを確認しなければなりませんでした。

製品のコストに加え、開発期間も大きな課題でした。Nano 以前には、Tata Motors はベンダーから実際に機能する EMS が納品されるまでエンジンを始動することができませんでした。Tata Technologies の Assistant General Manager である Prasanta Sarkar 氏は次のように述べています。「インド市場では既存の EMS 機能を見直すだけでは、Nano のコスト目標を達成することはできないと感じていました。一方で、まったく新しい設計でサプライヤーと繰り返しの作業を行うのは、時間を要します。このため、初期開発を社内で行わなければならなかったのです。」

ソリューション

Tata Motors ではモデルベース デザインを採用しました。理由はエンジニアが設計の選択肢を検討して、すばやくプロトタイプを作成し、制御方法を改良できるからです。スケジュールとコストの制約を考えると、これらはいずれも重要な機能でした。Tata では以前に EMS を改良できる開発したことがなかったため、エンジニアは立ち上げ期間を短縮するため、確立されたツール チェーンの利用を希望していました。そこで選ばれたのが、MATLAB®、Simulink®、Stateflow® および Simulink Coder™ です。

プロトタイプのエンジンが完成する前に、Tata Motors のエンジニアはスタート、アイドル、部分負荷、全負荷のモードの運転状態を含む、制御システムのモデル化を行いました。

閉ループ シミュレーションを実行するために、ソフトウェアインザループ テストとハードウェアインザループ テスト用コントローラーのモデルが Simulink のエンジン モデルに統合されました。これらのテストによって、電気系統やアース ラインの電子制御装置 (ECU) とのショート、センサーやアクチュエーターの開回路状態、ならびに ECU の予期しないリセットといった、コントローラーの通常の動作と、支障が発生した場合の処理能力を検証することができました。

さらに、シミュレーションと HIL テストによって、エンジンの排気量、トルク出力および電気的アーキテクチャを評価することができました。このプロジェクトでは設計の実現可能性を検証するベンチマークとなる車がなかったため、これらの初期評価は非常に重要なものでした。

HIL テストの後、オンターゲット ラピッド プロトタイピング ECU を使用して一連の Nano のプロトタイプに制御アルゴリズムが実装されました。そして、ソフトウェアを再生成する前に、繰り返しの作業がすばやく行われ、テストで明らかになった問題を解決するために Simulink モデルの調整が行われました。

Nanoの プロトタイプで要求仕様を検証した後、Tata Motors は EMS の詳細な要求仕様をまとめ、サプライヤーを選定しました。その後、Tata Motors とサプライヤーが共同して量産バージョンが作成されました。

量産用の EMS の設計は、安全性、コスト、燃費に関する主要な目標をすべて上回り、インドの非常に厳しいバーラト ステージ IV 排ガス規制を満たしています。この Nano プロジェクトの成功を受け、Tata では量産用コード生成に Embedded Coder™ を使用した組込みソフ

結果

  • 2 つの高価なセンサーを排除. Sarkar 氏は次のように述べています。「Simulink でのシミュレーションによって、組込みソフトウェアの機能で置換できるセンサーを 2 つ特定しました。カム センサーとノック センサーをソフトウェアの機能とキャリブレーションに置き換えることで、センサーと配線用ハーネスのコストを節約できました。」
  • 検証サイクルの期間を数週間から数時間に短縮. Sarkar 氏は次のように述べています。「ソフトウェアの設計を始めた時点では未知の要素が多く存在したため、設計の繰り返し作業を何回も行わなければなりませんでした。しかし、Simulink でモデル化とシミュレーションを行い、Simulink Coder でコードを生成することでこのプロセスを加速できました。この結果、従来の方法では何週間もかかる各ソフトウェア リリースの検証を約半日で完了できました。」
  • サプライヤー選定前にプロトタイプの設計と要求仕様の検証を実行. Govindarajan 氏は次のように述べています。「モデルベース デザインのおかげで、EMS プロトタイプの開発を社内で完成することができました。EMS に関して培った開発スキルと知識に基づいて、サプライヤーとの交渉を行い、より効率的に共同作業を進めることができました。そして Nano で問題なく稼働しているプロトタイプのデモンストレーションを行うことで、当社とサプライヤー両方のリスクが低減されました。」