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理化学研究所脳科学総合研究センターにおける MATLAB を使用した神経画像解析の高速化

著者 Kobayashi (理化学研究所脳科学総合研究センター)、Mohammad Muquit (MathWorks)

理化学研究所脳科学総合研究センターにおいて、私は同僚とともに、哺乳動物の中枢神経系で高度に統制されたネットワークはどのように形成され、さらにはそれらがどのように環境や遺伝的要因の影響を受けているかについて調査しています。私たちは、研究の一環として遺伝学的手法を用いた遺伝子変異マウスを作製し、その行動表現型を調べており、それらの実験結果より、脳の領域が臭い、音、光などの外部刺激にどのように反応するかを分析することによって、特定の遺伝子と行動を結び付けています。注意および衝動性に内在する分子や細胞の仕組みを解明し、それに関連する行動障害の治療を促進するのが目標の 1 つです。

私たちは、脳の特定の領域における活動を定量化するために、脳スライス撮像と、神経活動の指標として認識されるタンパク質である c-Fos の発現量を検出するための酵素抗体染色を行っています。染料によって活性細胞が黒く染まるので、脳の顕微鏡像 (図 1) で識別し、数えることができます。

図 1 c-Fos の存在、つまり神経活動を示す暗色のスポットの脳画像。

画像解析では、数千もの画像内に含まれる何百ものスポットを数えるという、神経科学と生物学の研究室でよくみられる課題に直面しました。私たちのチームは、MathWorks のコンサルタントと協力し、関連するスポットの検出を自動化し、研究室で画像データを管理するのに使用されるプロセスを合理化する MATLAB® アプリケーションを開発しました。このアプリケーションのおかげで、単一の画像を解析するのに必要な時間が 100 分の 1 まで短縮され、研究室で分析できるサンプルの数が増大し、手動による検査では見落としていたスポットを特定し、データ管理を簡素化させることに成功しました。 

手動による画像解析

研究室で処理される典型的な画像には 300 〜 400 個のスポットが含まれているため、理研の研究者は、それぞれの画像を解析するのにほとんどの場合に 15 分以上を費やしていました。被験体ごとに約 100 枚の画像を解析する必要があるので、たった 1 匹のマウスの画像を処理するのに丸 1 日かかっていました。そのような作業は単調で、しかも結果が偏ったり、主観性に左右されたりしがちでした。たとえば、画像にたくさんのスポットが含まれている場合など、より少ないスポットが含まれる画像では無視されるような暗い領域を数に入れてしまう傾向があることが判明しました。

私たちのチームは、1 つの画像を処理するのに必要な労力に加え、対象となるすべての画像データの管理や追跡にもかなりの時間を費やしていました。時々、ファイルが間違った場所に一時的に置かれることもあり、さらなる解析が必要な画像を追跡するのが困難でした。

理研では、これらの課題に対処するために MathWorks のコンサルタントに相談しました。彼らは、MATLAB および Image Processing Toolbox™ を使用することで、スポットを自動的に検出して数え、実験結果のデータ管理のワークフローを合理化するのに役立つようなアプリケーションの開発を提案しました。

しきい値を特定するためにアルゴリズムの開発

画像内で対象部位を特定する手順としては、ある値を超えた暗い領域はスポットとみなされるような画素の輝度のしきい値を決めることが重要です。いったんこのしきい値が決まると、それぞれのスポットが完全に白で、背景が完全に黒 (それぞれ 1 と 0 で表される) であるようなバイナリ形式に元のグレースケールの画像を変換するのにそのしきい値が使用されます。しかしながら、このしきい値は、画像ごとに異なります。さらに重要なことは、しきい値を特定するのに最も効果的な手法が画像ごとに異なる可能性があるという点です。    

MathWorks のコンサルティング チームは、しきい値を見つけるための 4 つの異なるアルゴリズムを実装しました。1 番目のアルゴリズムは、Image Processing Toolbox の graythresh 関数を使用して、Otsu 法を適用します。これは、黒と白のピクセルの級内分散を最小限にするしきい値を特定します。2 番目のアルゴリズムは、しきい値の両端の画素の割合がグローバルな強度分散の関数のなるように、グローバル画素の密度に基づいてしきい値を選択します。3 番目のアルゴリズムは、2 番目と同じ方法を使用しますが、グローバルではなくローカルな強度差異に基づきます。4 番目のアルゴリズムは、3 番目と同じ方法を使用しますが、多くのドットが互いに触れ合うような画像において、より正確に数えられるように、つながっている点を分離するための追加手順を適用します。

画像の前処理と後処理

MathWorks のコンサルタントは、しきい値を設定するために開発されたアルゴリズムに加えて、全体的な手順の実効性を向上させるために画像の前処理と後処理の手順を実装しました。

前処理の手順では、コントラストと輝度を調整することでハレーション効果を低減し、ローパス フィルターを使用してノイズを低減し、モルフォロジー演算によってスポットのエッジを平滑化します。二値画像に適用される後処理の手順には、ノイズと無関係なエッジからスポットを区別する中央値フィルタリングとモルフォロジー演算が含まれています。

後処理の後、画像に対して粒子解析が実施され、暗いスポットの数をカウントし、残っている大きな暗い領域や背景のノイズを除去します。

コンサルタントが数百の画像に関して、前処理、しきい値処理、後処理、および粒子解析の操作をテストし、アルゴリズムに磨きをかけ、パラメータを微調整しました。

グラフィカル インターフェイスの構築

理研の研究者が画像処理アルゴリズムを簡単に使用できるようにするために、コンサルティング チームは MATLAB ベースのインターフェイス (図 2) を開発しました。

図 2 脳細胞の画像を処理するためのグラフィカル インターフェイス。

私たちは、処理対象の画像をロードしてから、インターフェイスを使用して画像内の関心領域 (ROI) (図 3) をマークしました。

図 3 研究者が解析したい画像の領域 (下) を特定するに使用された、ポリゴンでマークされた関心領域 (上)。

その後、目的のしきい値アルゴリズムを選択し、画像処理アルゴリズムを呼び出します。アルゴリズムによって特定されたスポットがカウントされ、レビュー用に画面上にまとめられます。時々、ある特定の画像に関して最も効果的な方法で生成された結果を使用する前に、別のしきい値法を用いて画像を速やかに再処理します。

最後の手順として、結果を保存する MATLAB または Microsoft® Excel ファイルを指定します。これらのファイルには、スポットの数、検体番号、日付、しきい値法、使用された ROI が含まれています。

研究を加速させる

新しい MATLAB 画像処理アプリケーションを使用することで、以前は 15 分かかっていた画像の解析を秒単位まで大幅に短縮できます。以前、私たちのチームは、脳の全領域 (約 100 枚) の神経画像解析を行うことは滅多にありませんでした。時間と労力がかかり過ぎたからです。MATLAB を使用することで、この操作には何日も要することなく、数分で完了できるようになりました。同様に重要なこととして、肉眼では検出不可能なスポットを検出アルゴリズムが特定するので、より良い結果が得られるようになりました。

自動化された MATLAB システムによって、面倒な計数作業にかかる時間が大幅に削減されま
した。私たちは、そのような作業から解放されたことで、重要な研究活動に多くの労力と専門知識をつぎ込めるようになりました。これにより生まれた時間と、従来よりも多くの画像を処理する能力とが相まって、以前は考えられなかったような新たな研究領域を模索できるようになりました。さらに、このことが、私たちのグループの研究に進歩をもたらしました。例えば、与えられた外部刺激の解析に脳内の最も適切な領域(ROI)を検出するために脳全体のスクリーニングや異なった遺伝子改変されたコントロール同士の比較などです。

私たちは、カルシウム指示薬を使用して、染色画像における特定の刺激に対する生細胞の反応を強調するような研究、および生体内信号解析などを使用する研究など、似たような研究の取り組みについて、MATLAB を使用した画像処理の自動化を実装することを計画しています。

著者について

Yuki Kobayashi

理化学研究所脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チームに研究員として在籍中。九州大学大学院医学研究院より博士号(2013年)を取得。現在、精神疾患の病理機序について分子遺伝学手法を用いて解析を行っている。

Mohammad Muquit

マスワークスにシニアテクニカルコンサルタントとして在籍中。東北大学情報工学科より学士号(2001年)取得後、情報科学研究科より修士号(2003年)と博士号(2006年)を取得。興味のある研究分野はコンピュータービジョン、医療用画像解析、バイオマトリックスなど。

年作成 2014 - 92185v00


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