技術の進歩に伴い、電力網ではソフトウェア定義型への移行が進み、インバーターベース電源 (IBR) や大規模なインバーターベース負荷 (IBL) が主流になりつつあります。この変化に伴い、電力網の形成、安定化、安全性の確保にソフトウェア アルゴリズムを活用することへの関心が高まっています。電力系統エンジニアは、シミュレーションを使用して以下を行えます。

  • 電磁過渡現象 (EMT) の解析
  • 系統連系の評価
  • グリッドコード準拠の評価
  • グリッド フォーミング コンバーター制御とグリッド フォローイング コンバーター制御の開発
  • リアルタイムテスト向けのモデルの準備

このよくある質問 (FAQ) では、Simscape Electrical™ を使用したシミュレーション手法、モデルの忠実度、スケーラビリティ、リアルタイム展開について説明します。

代表的な適用分野

電力システム シミュレーション入門

電力システム シミュレーションを始めるにはどうすればよいですか?

Simscape Electrical は、ソフトウェア定義の電力網の設計と検証に携わるエンジニアリング チームに、制御アルゴリズム、パワー エレクトロニクス、ネットワーク ダイナミクスを単一のシミュレーション環境で結び付ける実践的な手段を提供します。MathWorks® は、Simscape Electrical を使い始めるための自己学習形式の対話型入門コースを数多く提供しています。次の入門コースは、最初に受講するのに適しています。

  • Simscape 入門:自己学習形式の無料オンラインコース (1 時間) です。Simscape™ の基礎と、複数の物理ドメインにわたって動的システムをモデル化する方法を学びます。
  • 電力システム シミュレーション入門:電力システム シミュレーションの基本を扱う、自己学習形式の無料オンラインコース (1.5 時間) です。シンプルなマイクログリッドをモデル化し、再生可能エネルギーシステム向けの重要な制御アルゴリズムを評価する方法を学びます。

MATLAB と Simulink では、どのような電力システム シミュレーションのワークフローがサポートされていますか?

電力システム シミュレーションのワークフローには、MATLAB®、Simulink®、Simscape、Simscape Electrical が必要になります。アプリケーションの範囲によっては、ほかの製品もワークフローに適している場合があります。たとえば、Simulink Control Design™ は制御設計とパラメーター最適化のワークフローを提供し、Simscape Battery™ はバッテリー マネジメント システム開発のワークフローを提供します。

モデル化に関する考慮事項

電磁過渡現象 (EMT) シミュレーションにはどのようなソルバーを使用すればよいですか?

EMT シミュレーションには、後退オイラー法ソルバーや台形則ソルバーなどの固定ステップソルバーを使用できます。タイムステップはアプリケーションによって異なりますが、50 Hz と 60 Hz のシステムでは 50 マイクロ秒に設定するのが一般的です。

適切なモデルの忠実度はどのように選べばよいですか?

モデルの忠実度とは、特定のシミュレーションにどの程度の詳細が含まれているかを指します。たとえば、EMT シミュレーション用にパワーコンバーターをモデル化する場合、電力システム解析では 3 つの基本的な忠実度レベルを使用します。

エンジニアリング上の目的 開始時の一般的な忠実度
高速なシステム解析 平均値
高速なスイッチング解析 平均スイッチ
故障を含む詳細なスイッチング解析 スイッチ線形

3 つのレベルは、平均値、平均スイッチ、スイッチ線形です。

  • 最も忠実度が低いのは平均値です。パワーコンバーターは変調波を直接エミュレートします。また、デバイスのスイッチングはモデル化されません。最も高速なシミュレーション オプションで、高調波情報が不要な解析に適しています。
  • 次の忠実度レベルは平均スイッチです。パルス幅変調 (PWM) を、PWM 発生器のタイムステップより大きなタイムステップにわたって平均化できます。この手法では、低次の高調波レベルを正確に捉えながら、大きなタイムステップで物理システムをシミュレーションできます。この手法は、サブサイクル平均化とも呼ばれます。
  • スイッチ線形の忠実度レベルでは、パワー エレクトロニクス デバイスのオン・オフのスイッチングを直接シミュレーションします。この忠実度レベルでは、物理システムの応答における PWM スイッチングパターンを正確に捉えられるタイムステップを選択する必要があります。

大規模な電力システムモデルを構築し、拡張するにはどうすればよいですか?

一般的に、エンジニアは大規模電力システムをテキストベースのファイル形式で記述し、それを MATPOWER などの潮流計算ツールで解析してから EMT モデルを構築します。この場合、ネットワークデータを読み取る MATLAB スクリプトを作成できます。スクリプトは Simulink API を使用して、電力潮流の記述からプログラムによりベースとなる電力システムモデルを構築します。電力システムが大規模であるほど、計算量が多くなります。推奨される方法は、モデルを小さなサブネットワークに分割することです。次に、これらのサブネットワークを、モデル参照やサブシステム参照などのモデルアーキテクチャを使用して接続します。

別の種類の大規模システムとして、モジュラー マルチレベル コンバーターのように、繰り返し使われるコンポーネントを多数含む大規模なパワーコンバーター トポロジがあります。また、Simulink API を使用してこれらのアーキテクチャを生成することもできます。

送電システムや配電システムをモデル化できますか?

はい。平衡システムと不平衡システムの両方をモデル化できます。また、必要に応じて多相システムもモデル化できます。

8760 時間解析などの長時間解析をシミュレーションできますか?

はい。Simscape Electrical モデルをフェーザモードでシミュレーションするように設定できます。このモードでは、任意のタイムステップでシミュレーションでき、標準的な 1 年間を 1 時間刻みで進める 8760 時間シミュレーションにも対応しています。このタイプのシミュレーションは、一般的に準静的シミュレーションと呼ばれます。

リアルタイム シミュレーション

大規模な電力システムモデルをリアルタイム シミュレーションに対応させるにはどうすればよいですか?

一部のモデルは規模が大きすぎてリアルタイムでシミュレーションできないため、一概には言えません。ただし、モデルの構築とテストの際は、次のガイドラインを参考にしてください。

  • 電力システムモデルを段階的に構築し、デスクトップ上でシミュレーション パフォーマンスの初期評価を行います。エンジニアリング上の目的を達成できる最も低いモデルの忠実度を選び、ソルバーには固定コスト設定を使用します。
  • モデルをリアルタイム環境でテストする際にオーバーランが発生した場合は、モデルを小さなサブシステムに分割し、リアルタイム シミュレーション時に使用するコア数を増やすことを検討してください。

パワーコンバーターのリアルタイム シミュレーションのパフォーマンスを向上させる手法はありますか?

サブサイクル平均化は、リアルタイム シミュレーション パフォーマンスを向上させるための一般的な手法です。この手法では、低次のスイッチング高調波を正確に捉えながら、物理モデルのシミュレーション ステップ時間を大きくできます。サブサイクル平均化では、ステップ時間と、対象とする高調波範囲とのトレードオフを考慮する必要があります。

別の方法として、高調波範囲全体を扱う必要がある場合は、パワーコンバーター モデルを HDL コードで実装し、FPGA に展開することもできます。

シミュレーションを使用してグリッドコード準拠を評価するにはどうすればよいですか?

シミュレーション モデルを使用してグリッドコード準拠を評価するには、低電圧外乱、周波数外乱、またはその両方などの条件下でモデルを実行するテストハーネスを作成します。テスト結果を記録し、レポートを自動生成して、準拠性の総合的な評価に役立てます。

MathWorks へのご相談のタイミングとその他のリソース

ソフトウェアの使用を開始したら、早い段階で MathWorks のサポートチーム、アカウントチーム、またはコンサルティング担当者にご相談ください。目的を絞って相談することで、何から始めるべきかを明確にし、よくある実装ミスを回避できるほか、製品の機能と制限事項を理解し、お客様のアプリケーションに適したベストプラクティスを適用できます。