このページの内容は最新ではありません。最新版の英語を参照するには、ここをクリックします。
ウェーブレットの選択
ウェーブレット解析には、連続と多重解像度の 2 つのタイプがあります。作業に最適なウェーブレット解析のタイプは、データを使用して何をしたいかによって異なります。このトピックでは 1 次元データに焦点を当てますが、同じ原則を 2 次元データに適用することができます。各タイプの解析の実行方法と解釈の仕方については、Practical Introduction to Time-Frequency Analysis Using the Continuous Wavelet TransformおよびPractical Introduction to Multiresolution Analysisを参照してください。
時間-周波数解析
詳細な時間-周波数解析の実行が目的の場合、連続ウェーブレット変換 (CWT) を選択します。実装に関しては、離散ウェーブレット変換 (DWT) よりも CWT の方がより細かくスケールが離散化されます。詳細については、連続および離散ウェーブレット変換を参照してください。
瞬時周波数
CWT は、瞬時周波数が急速に増大する信号の場合、短時間フーリエ変換 (STFT) よりも優れています。次の図では、双曲線チャープの瞬時周波数が、スペクトログラムと CWT 導出スカログラム内に破線でプロットされています。詳細については、時間-周波数解析と連続ウェーブレット変換を参照してください。
過渡特性の位置の特定
CWT は、非定常信号の過渡特性の位置を特定するのに適しています。次の図で、ウェーブレット係数が、信号内で発生する急激な変化とよく一致することに注目してください。詳細については、Practical Introduction to Time-Frequency Analysis Using the Continuous Wavelet Transformを参照してください。
サポートされているウェーブレット
データの連続ウェーブレット変換を求めるには、cwt
および cwtfilterbank
を使用します。どちらの関数も、以下の表に示す解析ウェーブレットをサポートしています。既定では、cwt
および cwtfilterbank
は一般化 Morse ウェーブレット ファミリを使用します。このファミリは 2 つのパラメーターで定義されます。パラメーターを変更して、よく使用される多くのウェーブレットを再作成することができます。時間領域のプロットでは、赤い線と青い線がそれぞれウェーブレットの実数部と虚数部です。等高線図は、時間および周波数でのウェーブレットの広がりを示します。詳細については、Morse ウェーブレットおよび一般化 Morse と解析 Morlet ウェーブレットを参照してください。
ウェーブレット | 特徴 | Name | 時間領域 | 時間-周波数領域 |
---|---|---|---|---|
一般化 Morse ウェーブレット | 2 つのパラメーターを変化させ、時間と周波数の拡散を変更することができる | "morse" (既定) | ||
解析的な Morlet (ガボール) ウェーブレット | 時間と周波数における等分散 | "amor" | ||
Bump ウェーブレット | 時間の分散が広く、周波数の分散が狭い | "bump" |
表に示しているウェーブレットはすべて解析的です。解析的なウェーブレットとは片側スペクトルを持つウェーブレットであり、時間領域において複素数値です。これらのウェーブレットは、CWT を使用して時間-周波数解析を求めるのに適しています。ウェーブレット係数は複素数値であるため、CWT は位相情報を提供します。cwt
および cwtfilterbank
は、解析的なウェーブレットと反解析的なウェーブレットをサポートします。詳細については、CWT による時間-周波数解析を参照してください。
多重解像度解析
多重解像度解析 (MRA) では、連続するスケールで Approximation 間の差分を記録しながら、徐々に粗いスケールで信号を近似します。信号の離散ウェーブレット変換 (DWT) を行うことで、Approximation と差分を作成します。DWT は、多数の自然信号のスパース表現を提供します。Approximation は、スケーリング関数のスケーリングおよび平行移動済みコピーと信号を比較することで形成されます。連続するスケール間の差分 (Detail とも呼ばれる) は、ウェーブレットのスケーリングおよび平行移動済みコピーを使用して得られます。log2
スケールでは、連続するスケール間の差分は常に 1 です。CWT の場合は、連続するスケール間の差分はより細かくなります。
MRA の生成時は、スケールを増加させるたびに Approximation を係数 2 でサブサンプリング (間引き) することも、あるいはサブサンプリングしないこともできます。どちらのオプションにも利点と欠点があります。サブサンプリングする場合、結果的に元の信号と同じ数のウェーブレット係数になります。間引き DWT では、平行移動はスケールの整数倍です。非間引き DWT の場合、平行移動は整数シフトです。非間引き DWT は、元のデータの冗長表現を提供しますが、CWT ほど冗長ではありません。用途はウェーブレットの選択だけでなく、使用する DWT のバージョンにも影響します。
エネルギーの維持
解析段階でエネルギーを維持することが重要である場合、直交ウェーブレットを使用しなければなりません。直交変換ではエネルギーが維持されます。コンパクト サポートを持つ直交ウェーブレットの使用を検討してください。Haar ウェーブレットを除いて、コンパクト サポートを持つ直交ウェーブレットは対称ではないことに注意してください。関連するフィルターは非線形位相を持っています。次の表に、サポートされる直交ウェーブレットを示します。すべてのウェーブレット ファミリ名については、wavemngr("read")
を参照してください。特定のファミリ (そのファミリで使用可能なウェーブレットを含む) の詳細を調べるには、waveinfo
とファミリの略称を使用します。たとえば、waveinfo("db")
のようにします。
直交ウェーブレット ファミリ (ファミリの略称) | 特徴 | ウェーブレット名 | 参考 | 典型例 |
---|---|---|---|---|
最適局在化 Daubechies ("bl" ) | Symlet に似たコンパクトにサポートされたウェーブレット。時間の経過における追加の 2 次モーメントを最小限に抑えることによって、Symlet の非対称性は時間の経過とともに減少する。スケーリング フィルターには N 個の消失モーメントがある | "blN" 。ここで、N = 7, 9, 10 | blscalf | |
Beylkin ("beyl" ) | 18 個の係数があり、3 つの消失モーメントがある。 | "beyl" | ||
Coiflet ("coif" ) | スケーリング関数とウェーブレットには同じ数の消失モーメント N がある | "coifN" 。ここで、N = 1, 2, ..., 5 | coifwavf | |
Daubechies ("db" ) | 非線形位相。サポートの開始付近にエネルギーが集中。特定のサポート幅に対する消失モーメント N の最大数 | "dbN" 。ここで、N = 1, 2, ..., 45 | dbaux 、dbwavf 、極値位相ウェーブレット係数 | |
Fejér-Korovkin ("fk" ) | 有効なスケーリング フィルターと理想的な sinc ローパス フィルターの間の差異を最小化するために作成されたフィルター。フィルターには N 個の係数があり、特に離散 (間引きおよび非間引き) ウェーブレット パケット変換で役立つ。 | "fkN" 。ここで、N = 4, 6, 8, 14, 18, 22 | fejerkorovkin | |
Haar ("haar" ) | 対称。Daubechies の特殊なケース。エッジ検出で役立つ | "haar" 。または同等の "db1" | ||
Han 線形位相モーメント ("han" ) | 指定された和則の次数 SR と線形位相モーメントの次数 LP によって特徴付けられる | "hanSR.LP" 。サポートされている値を確認するには、waveinfo とファミリの略称を使用 | hanscalf | |
Morris 最小帯域幅 ("mb" ) | フィルター係数 (タップ) の数 N と最適化に使用される離散ウェーブレット変換のレベル L によって指定される Morris 最小帯域幅直交ウェーブレット。isorthwfb での既定の直交性チェックはパスしない | "mbN.L" 。サポートされている値を確認するには、waveinfo とファミリの略称を使用 | mbscalf | |
Symlet ("sym" ) | 最小非対称性。ほぼ線形位相。N 個の消失モーメント | "symN" (N = 2, 3, ..., 45) | symaux , symwavf , Least Asymmetric Wavelet and Phase | |
Vaidyanathan ("vaid" ) | 24 個の係数がある。isorthwfb での既定の直交性チェックはパスしない | "vaid" |
境界の歪みへの対処方法によっては、DWT は解析段階でエネルギーを保存しない可能性があります。詳細については、Border Effects を参照してください。最大重複離散ウェーブレット変換 modwt
および最大重複離散ウェーブレット パケット変換 modwpt
はエネルギーを保存します。ウェーブレット パケット分解 dwpt
はエネルギーを保存しません。
特徴検出
近接した特徴を検出する場合は、haar
、db2
、sym2
といったサポートの小さいウェーブレットを選択します。ウェーブレットのサポートは、対象の特徴を区別できるくらい小さくなければなりません。サポートの大きいウェーブレットは、近接する特徴を検出するのが困難である傾向があります。サポートの大きいウェーブレットを使用すると、結果的に個々の特徴を区別しない係数になる可能性があります。次の図で、上のプロットはスパイクを含む信号を示しています。下のプロットは、haar
ウェーブレット (太い青の線) と db6
ウェーブレット (太い赤の線) を使用した最大重複 DWT の第 1 レベルの MRA の詳細を示しています。
データがもつ過渡特性の間隔がまばらである場合、サポートの大きいウェーブレットを使用することができます。
分散分析
分散分析の実施が目的の場合、最大重複離散ウェーブレット変換 (MODWT) がタスクに適しています。MODWT は標準 DWT の一種です。
MODWT は、解析段階でエネルギーを保存します。
MODWT は、スケール全体で分散を分割します。例については、Wavelet Analysis of Financial Data と Wavelet Changepoint Detection を参照してください。
MODWT には、Daubechies ウェーブレットや Symlet といった直交ウェーブレットが必要です。
MODWT はシフト不変の変換です。入力データをシフトすると、ウェーブレット係数が同じだけシフトします。間引き DWT はシフト不変ではありません。入力をシフトすると係数が変更され、スケール全体でエネルギーを再分布できます。
詳細については、modwt
、modwtmra
、およびmodwtvar
を参照してください。Comparing MODWT and MODWTMRAも参照してください。
冗長性
ウェーブレットの正規直交ファミリを使用して信号の間引き DWT (wavedec
) を行うと、信号の最小冗長表現が提供されます。スケール内およびスケール全体のウェーブレットにオーバーラップが存在しません。係数の数は信号サンプルの数と等しくなります。認識されていない特徴を削除するときは、最小冗長表現が圧縮に適しています。
信号の CWT は、冗長性の高い信号表現を提供します。スケール内およびスケール全体のウェーブレット間に大きなオーバーラップが存在します。また、スケールの細かな離散化を考慮すると、CWT の計算とウェーブレット係数の保存にかかるコストは DWT よりも大幅に高くなります。MODWT (modwt
) も冗長な変換ですが、冗長性係数は CWT よりも大幅に少ないのが一般的です。冗長性は、周波数ブレークポイントやその他の過渡イベントなど、調べたい信号の特性と特徴を補強する傾向があります。
作業で最小限の冗長性を使用して信号を表現する必要がある場合は、wavedec
を使用します。作業で冗長表現が必要な場合は、modwt
または modwpt
を使用します。
ノイズ除去
Symlet や Daubechies ウェーブレットなどの直交ウェーブレットは信号のノイズ除去に適しています。双直交ウェーブレットはイメージ処理にも適しています。双直交ウェーブレット フィルターには、イメージ処理にとって非常に重要な線形位相があります。双直交ウェーブレットを使用しても、イメージの視覚的な歪みは発生しません。
直交変換ではホワイト ノイズに色を付けません。ホワイト ノイズが入力として直交変換に提供された場合、出力はホワイト ノイズになります。双直交ウェーブレットを使用して DWT を実行すると、ホワイト ノイズに色が付きます。
直交変換ではエネルギーが維持されます。
sym4
ウェーブレットは、wdenoise
およびウェーブレット信号デノイザー アプリで使用される既定のウェーブレットです。bior4.4
双直交ウェーブレットは、wdenoise2
での既定のウェーブレットです。
圧縮
作業に信号またはイメージの圧縮が含まれる場合、双直交ウェーブレットを使用することを検討してください。次の表に、コンパクト サポートをもつサポート対象の双直交ウェーブレットを示します。
双直交ウェーブレット ファミリ (ファミリの略称) | 特徴 | ウェーブレット名 | 典型例 |
---|---|---|---|
双直交スプライン ("bior" ) | コンパクト サポート。対称フィルター。線形位相。Nr と Nd (それぞれ再構成フィルターと分解フィルターの消失モーメントの数) で指定される | "biorNr.Nd" 。サポートされている値については waveinfo("bior") を参照 | |
逆双直交スプライン ("rbio" ) | コンパクト サポート。対称フィルター。線形位相。Nr と Nd (それぞれ再構成フィルターと分解フィルターの消失モーメントの数) で指定される | "rbioNd.Nr" 。サポートされている値については waveinfo("rbio") を参照 |
スケーリング関数とウェーブレットのペアが 2 つあると圧縮に役立ちます (1 つのペアは解析用、もう 1 つのペアは合成用)。
双直交ウェーブレット フィルターは対称で、線形位相があります。(Least Asymmetric Wavelet and Phaseを参照)
解析に使用されるウェーブレットは複数の消失モーメントをもつことができます。N 個の消失モーメントをもつウェーブレットは、次数が N-1 の多項式に直交します。多数の消失モーメントをもつウェーブレットを使用すると、有意なウェーブレット係数が少なくなります。圧縮が改善されます。
合成に使用されるデュアル ウェーブレットは、より適切な正則性をもつことができます。再構成後の信号は平滑化されています。
合成フィルターよりも消失モーメントが少ない解析フィルターを使用すると、圧縮に悪影響を与えることがあります。例については、双直交ウェーブレットを使用したイメージの再構成 を参照してください。
双直交ウェーブレットを使用している場合は、エネルギーは解析段階で保存されません。詳細については、Orthogonal and Biorthogonal Filter Banks を参照してください。
一般的な考慮事項
ウェーブレットにはその動作を制御する性質があります。何をするかに応じて、一部の性質がより重要になる可能性があります。
直交性
ウェーブレットが直交である場合、ウェーブレット変換ではエネルギーが維持されます。Haar ウェーブレットを除いて、コンパクト サポートをもつどの直交ウェーブレットも対称ではありません。関連するフィルターは非線形位相をもっています。
消失モーメント
N 個の消失モーメントをもつウェーブレットは、次数が N-1 の多項式に直交します。例については、ウェーブレットと消失モーメント を参照してください。消失モーメントの数とウェーブレットの振動には緩やかな関係があります。消失モーメントの数が増加するにつれ、ウェーブレットの振動は大きくなります。
消失モーメントの数はウェーブレットのサポートにも影響します。Daubechies 氏は、N 個の消失モーメントをもつウェーブレットには少なくとも長さ 2N-1 のサポートがなければならないことを証明しました。
多くのウェーブレットの名前は、消失モーメントの数から派生します。たとえば、db6
は 6 個の消失モーメントをもつ Daubechies ウェーブレットであり、sym3
は 3 個の消失モーメントをもつ Symlet です。Coiflet ウェーブレットの場合、coif3
は 6 個の消失モーメントをもつ Coiflet です。Fejér-Korovkin ウェーブレットの場合、fk8
は長さ 8 のフィルターをもつ Fejér-Korovkin ウェーブレットです。双直交ウェーブレット名は、解析ウェーブレットと合成ウェーブレットがそれぞれもつ消失モーメントの数から派生します。たとえば、bior3.5
は合成ウェーブレットに 3 個の消失モーメント、解析ウェーブレットに 5 個の消失モーメントをもつ双直交ウェーブレットです。詳細については、waveinfo
と wavemngr
を参照してください。
消失モーメントの数 N が 1、2 または 3 に等しい場合、dbN
と symN
は同一です。
正則性
正則性は、関数がもつ連続導関数の数に関連します。直感的に、正則性は平滑度の尺度であると見なすことができます。データの急激な変化を検出するために、ウェーブレットは十分に正則でなければなりません。ウェーブレットが N 個の連続導関数をもつには、ウェーブレットには少なくとも N+1 個の消失モーメントが必要です。例については、不連続部分および不連続点の検出 を参照してください。過渡特性が少なく比較的滑らかなデータである場合、より正則なウェーブレットの方が作業に適している可能性があります。
参照
[1] Daubechies, Ingrid. Ten Lectures on Wavelets. Society for Industrial and Applied Mathematics, 1992.
[2] Morris, Joel M, and Ravindra Peravali. “Minimum-Bandwidth Discrete-Time Wavelets.” Signal Processing 76, no. 2 (July 1999): 181–93. https://doi.org/10.1016/S0165-1684(99)00007-9.
[3] Doroslovački, M.L. “On the Least Asymmetric Wavelets.” IEEE Transactions on Signal Processing 46, no. 4 (April 1998): 1125–30. https://doi.org/10.1109/78.668562.
[4] Han, Bin. “Wavelet Filter Banks.” In Framelets and Wavelets: Algorithms, Analysis, and Applications, 92–98. Applied and Numerical Harmonic Analysis. Cham, Switzerland: Birkhäuser, 2017. https://doi.org/10.1007/978-3-319-68530-4_2.
参考
アプリ
関数
cwt
|cwtfilterbank
|dwtfilterbank
|wavedec
|wavedec2
|wdenoise2
|wdenoise
|waveinfo
|wavemngr
関連する例
- Practical Introduction to Multiresolution Analysis
- Practical Introduction to Time-Frequency Analysis Using the Continuous Wavelet Transform