ドット表記を使用したデータの識別

親ステートからデータオブジェクトへのパスを指定するために、修飾データ名では "ドット表記" を使用します。ドット表記は、Stateflow^® チャート階層の特定レベルにあるデータを識別するための手段です。修飾データ名の最初の部分は、親オブジェクトを識別します。後続の部分は、階層パスに沿って子を識別します。

たとえば、以下のチャートでは、シンボル data は、ステート a のサブステート aa 内に存在します。ステートアクションとトランザクションアクションは、修飾データ名を使用して、このシンボルを参照します。

デフォルト遷移では、アクションは、修飾データ名 a.aa.data を使用して、チャートから最上位のステート a へ、サブステート aa へ、最後に data へのパスを指定します。
ステート a では、entry アクションが修飾データ名 aa.data を使用して、サブステート aa から data へのパスを指定します。
ステート b では、entry アクションが修飾データ名 a.aa.data を使用して、チャートからステート a へ、サブステート aa へ、さらに data へのパスを指定します。

Chart with two states named a and b. State a contains a substate named aa. State aa contains a data object named data.

修飾データ名の解決

シミュレーション中、Stateflow は、チャート階層で一致するデータオブジェクトの局所的な検索を実行することにより、修飾データ名を解決します。検索は、修飾データ名が存在する階層レベルから開始されます。

ステートアクションの場合、開始点はアクションを含むステートです。
遷移ラベルの場合、開始点は遷移元の親です。

解決プロセスでは、チャート階層の各レベルで、データへのパスを検索します。パスに一致するデータオブジェクトがある場合、プロセスはそのデータオブジェクトを一致候補のリストに追加します。その後、プロセスは階層の 1 つ上のレベルで検索を続けます。階層のチャートレベルの検索が終了すると、解決プロセスは停止します。一致が 1 つのみ存在する場合、修飾データ名は一致するパスに解決されます。それ以外の場合、解決プロセスは失敗します。シミュレーションは停止し、エラーメッセージが表示されます。

以下のフローチャートは、修飾データ名を解決するプロセスのさまざまな段階を説明しています。

Flow chart that describes process for resolving qualified data names.

ドット表記を使用する場合のベストプラクティス

修飾データ名の解決は、

すべてのデータの網羅的探索は行いません。
最初の一致が見つかった後も停止しません。

修飾データ名を解決するときに一意な検索結果が見つかる可能性を高くするには、次を行います。

修飾データ名で特定のパスを使用します。
ステートに一意の名前を付けます。
ステートやボックスを囲いとして使用して、パス解決の検索範囲を制限します。

修飾データ名解決の例

検索で一致が見つからない場合

次のチャートでは、ステート b 内の entry アクションに、修飾データ名 aa.data が含まれています。シンボル data がステート aa 内に存在する場合、Stateflow は修飾データ名を解決できません。

Chart with two states named a and b. State a contains a substate named aa. State aa contains a data object named data.

次の表は、修飾データ名 aa.data の解決プロセスのさまざまな段階を示しています。

段階	説明	結果
1	ステート `b` から始めて、`data` を含むオブジェクト `aa` を検索します。	一致なし。
2	階層の 1 つ上のレベル (チャートレベル) に移動します。`data` を含むオブジェクト `aa` を検索します。	一致なし。

aa.data の一致が検出されずに、検索はチャートレベルで終了し、エラーになります。

このエラーを回避するには、ステート b の entry アクションで、より具体的な修飾データ名 a.aa.data でデータを指定します。

検索で複数の一致が見つかる場合

次のチャートでは、ステート a 内の entry アクションに、修飾データ名 aa.data の 2 つのインスタンスが含まれています。aa という名前のステートの両方に data という名前のデータオブジェクトが含まれている場合、Stateflow は修飾データ名を解決できません。

Chart with three states named a, aa, and b. State a contains a substate named aa. Each of the states named aa contains a data object named data.

次の表は、修飾データ名 aa.data の解決プロセスのさまざまな段階を示しています。

段階	説明	結果
1	ステート `a` から始めて、`data` を含むオブジェクト `aa` を検索します。	一致あり。
2	階層の 1 つ上のレベル (チャートレベル) に移動します。`data` を含むオブジェクト `aa` を検索します。	一致あり。

aa.data の一致が 2 つ検出されて、検索はチャートレベルで終了し、エラーになります。

このエラーを回避するには、次を行います。

より具体的な修飾データ名を使用します。たとえば、次のようになります。
- ステート a のサブステート内のデータオブジェクトを指定するには、修飾データ名 a.aa.data を使用します。
- 最上位のステート aa 内のデータオブジェクトを指定するには、修飾データ名 /aa.data を使用します。
data を含むステートのうちいずれかの名前を変更します。
最上位のステート aa を、ボックスまたは別のステートで囲みます。囲いを追加することにより、検索プロセスは最上位のステート内のデータを検出しなくなります。