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GTO を使った自励式無効電力補償装置 (STATCOM)

はじめに

この節で扱う例では、送電システムの自励式無効電力補償装置 (STATCOM) の定常状態と動特性を調べるために、Simscape™ Electrical™ Specialized Power Systems ソフトウェアを使用する方法を説明します。STATCOM は、パワー エレクトロニクス技術を使ったフレキシブル交流送電システム (FACTS: Flexible AC Transmission Systems) の分路デバイスの 1 つです。これは、無効電力を生成または吸収することによって、交流送電システムの受電端の電圧を調整します。STATCOM に精通していない場合は、Static Synchronous Compensator (Phasor Type) ブロックのドキュメンテーションを参照してください。STATCOM の動作原理が説明されています。

STATCOM の電力定格に応じ、パワー コンバーターに対してそれぞれ異なるテクノロジーが使用されています。高出力の STATCOM (数百 Mvars) は、通常、GTO を使った矩形波駆動する電圧源コンバーター (VSC: Voltage Sourced Converter) を使用します。一方、低出力の STATCOM (数十 Mvars) は、IGBT (または IGCT) を使ったパルス幅変調 (PWM) 駆動する電圧コンバーター (VSC) を使用します。大規模な電力システムにおける電気機械の低い共振周波数 (通常は、0.02 Hz から 2 Hz まで) により、この現象の解析を行うためには、通常、30~40 秒またはそれ以上のシミュレーション時間が必要です。

この節の例で述べる STATCOM モデルは、パワー エレクトロニクスを表すスイッチング素子を使って構成される詳細なモデルです。これは、高周波成分を打ち消すために、方形波駆動する 48 パルス形の電圧源コンバーター (VSC) と千島結線変圧器を使用しています。この STATCOM モデルを解析するには、固定時間ステップ (この場合、25µs) での離散シミュレーションが必要であり、通常は、短い時間 (数秒) における STATCOM の動特性を調べるために利用されます。主な解析内容は、制御システムの最適化と、コンバーターにより生成される高調波成分の影響などです。

自励式無効電力補償装置 (STATCOM) の説明

この例で説明する STATCOM は、power_statcom_gto48p モデルで提示されています。このモデルを読み込み、このモデルにさらに変更を加えることができるように case3 という名前で作業ディレクトリに保存してください。このモデルは、母線 B1 で電圧制御を行う 100 Mvar の STATCOM を使った、3 母線の 500 kV システムを表します。

母線 B1 に接続している等価システムの内部電圧は、Three-Phase Programmable Voltage Source ブロックによって変化させることができ、システム電圧の変化に対する STATCOM の動的な応答を観測できます。

自励式無効電力補償装置 (STATCOM) の構成

STATCOM は、48 パルス形の 3 レベル インバーターと、可変 DC 電圧源として動作する直列に接続された 2 つの 3000µF のコンデンサで構成されます。インバーターが生成する大きさが可変の 60Hz の電圧は、19.3kV 付近で変化する可変の DC 電圧から生成されます。

STATCOM 500kV 100 MVA ブロックをダブルクリックします。

これは、+/-7.5 °の位相シフトを生じる 4 つの位相調整変圧器 (千島結線変圧器)、これに接続された 4 つの 3 レベル三相インバーター回路で構成されます。

第 23 次と第 25 次の高調波を除き、これらの位相調整変圧器は、第 45 次の高調波までのすべての奇数番目の次数の高調波を打ち消します。Y 結線とΔ結線の変圧器の 2 次側では、第 5+12n (5、17、29、41、...) 次と第 7+12n (7、19、31、43、...) 次の高調波を打ち消します。さらに、変圧器の 2 つのグループ (7.5°進みのある Tr1Y と Tr1D、7.5°遅れのある Tr2Y と Tr2D) 間の 15°の位相シフトにより、第 11+24n (11、35、...) 次と第 13+24n (13、37、...) 次の高調波が打ち消されます。すべての第 3n 次高調波が変圧器 (Δ結線、接地していない Y 結線) で吸収されることを考慮すると、変圧器により吸収されない高調波は、順に、第 23 次、第 25 次、第 47 次、第 49 次の高調波成分となります。3 レベルの三相インバーター回路に対して、GTO の適切な導通角 (σ = 172.5°) を選択することによって、第 23 次と第 25 次の高調波を最小化することができます。その結果、三相インバーター回路が生成する主要な高調波は、順に、第 47 次と第 49 次の高調波になります。この STATCOM を構成する三相インバーター回路の入力に、バイポーラ形の DC 電圧を使うことで、STATCOM を構成する位相調整変圧器 (千鳥結線変圧器) の出力としては正弦波を近似する 48 ステップの電圧を生成します。

次の図は、STATCOM を構成する 48 パルス形の 3 レベル インバーターが生成する電圧 (位相調整変圧器の一次電圧に相当する) とその高調波成分を表します。

無負荷状態の 48 パルス形の 3 レベル インバーターにより生成される電圧の時間波形と周波数スペクトル

この周波数スペクトルは、SymPowerSystems のサンプル モデル power_48pulsegtoconverter の例を実行することで得られます。このサンプル モデルでは、同じコンバーター トポロジが使用されています。FFT 解析は、Powergui ブロックの [FFT Analysis] ツールを使用して実行されました。FFT 解析は、無負荷状態における 48 パルス形の 3 レベル インバーターの動作と 0~6000Hz の周波数範囲におけるインバーター電圧の 1 サイクルの時間波形を使用して計算されます。

自励式無効電力補償装置 (STATCOM) の制御システム

STATCOM コントローラーを開きます。

STATCOM の制御システムの役割は、生成される AC 電圧が、必要となる無効電力に対して適切な大きさとなるように、コンデンサの DC 電圧を増加させたり減少させることです。この制御システムは、(変圧器とインバーターの損失で必要となる小さな有効電力を除く) 無効電力のみを生成したり吸収するために、STATCOM の接続母線において、生成される AC 電圧をシステム電圧と同期させることも必要になります。

STATCOM の制御システムは、次の 4 つの部分から構成されます。

  • PLL (位相同期回路) はシステム電圧に GTO を駆動するパルス信号を同期させ、Measurement System サブシステムに角度指令を与えます。

  • Measurement System サブシステムは、abc_to_dq0 ブロックと離散フーリエ解析の手法を使って、STATCOM の電圧と電流の正相の成分を計算します。

  • 電圧制御は、2 つの PI 制御器により実行されます。測定電圧 Vmeas と基準電圧 Vref から、Voltage Regulator ブロック (外側のループ) が、Current Regulator (内側のループ) により使用される無効電流指令 Iqref を計算します。Current Regulator サブシステムの出力は、GTO の導通角 α です。この導通角 α は、システムの電圧に関するインバーター電圧の位相シフトです。この導通角 αは、下記に述べるように、短い時間を除き、ゼロに非常に近い値となります。

    Voltage Regulator サブシステムの中には、ある傾き (この場合、0.03pu/100MVA) をもつ V-I 特性を得るために、電圧を低下させる Droop と名付けた Gain ブロックが含まれています。したがって、STATCOM の動作点が容量性 (+100Mvar) から誘導性 (-100Mvar) に変化するとき、SVC の電圧は、1-0.03=0.97pu と 1+0.03=1.03pu の間で変化します。

  • Firing Pulses Generator サブシステムは、PLL サブシステムの出力 (ωt) と Current Regulator サブシステムの出力 (GTO の導通角 α) から、4 つのインバーターに対して、GTO を駆動するパルス信号を生成します。

この STATCOM の制御システムの動作原理を説明するために、システム電圧 Vmeas が基準電圧 Vref よりも低くなることを仮定します。このとき、電圧レギュレーターでは、無効電流の出力がより大きくならなければなりません (Iq の正の値 = 容量性電流)。さらに大きな容量性の無効電力を生成するために、電流制御器はシステム電圧に対するインバーター電圧の位相遅れを増加させます (GTO の導通角αを大きくする)。その結果、有効電力が交流送電システムからインバーターの可変 DC 電圧源として動作するコンデンサに一時的に供給されます。したがって、コンデンサの DC 電圧が増加するので、その結果、STATCOM の出力として生成される AC 電圧がより高くなります。

前述したように、3レベル インバーターの GTO の導通角 σ は、172.5°に固定されてきました。この導通角 σ は、方形波で駆動する電圧形インバーターが生成する AC 電圧の第 23 次と第 25 次の高調波を最小化します。さらに、これら以外の高調波を減少させるために、DC Balance Regulator サブシステムは、インバーターの可変 DC 電圧源として動作する正側と負側の 2 つのコンデンサの電圧を等しくなるように制御します。これは、インバーターを生成する AC 電圧の正と負の半サイクルに対して、GTO の導通角 σにわずかなオフセット量を付加することで実現できます。

STATCOM の制御システムは、さらに [Operation Mode] の項目で [Var contorl (Fixed Qref)] または [Var contorl (Fixed Iqref)] を選択することができます。STATCOM Controller サブシステムのブロック パラメーターを設定するダイアログ ボックスを参照してください。それを選択した場合、q 軸電流指令 Iqref は、電圧レギュレーターで生成されず、上記と同じダイアログ ボックスで指定される無効電力指令 Qref または q 軸電流指令 Iqref により決定されます。

自励式無効電力補償装置 (STATCOM) の定常状態と動特性

ここでは、システムの電圧が変化するときの、STATCOM の定常状態の波形と動的応答を観測します。Three-Phase Programmable Voltage Source ブロックのパラメーターを設定するダイアログ ボックスを開き、プログラム設定された時間に応じて段階的に変化する電圧の大きさ (以下、電圧ステップと呼ぶ) を調べます。さらに、STATCOM Controller サブシステムのブロック パラメーターを設定するダイアログ ボックスを開き、STATCOM が基準電圧 1.0pu をもつ電圧制御モード ([Operation Mode] の項目が [Voltage regulation] に設定) にあることを確認してください。シミュレーションを実行し、STATCOM サブシステムの Scope ブロックで波形を観察します。以下に、それらの波形を示します。

システムの電圧ステップに対する STATCOM の動的な応答を示す波形

はじめに、システムの電源電圧は 1.0491pu に設定されています。その結果、STATCOM が動作していないときに、母線 B1 で電圧が 1.0pu になります。基準電圧 Vref が 1.0 pu に設定されているので、はじめの STATCOM はフローティング状態 (浮遊化状態でゼロ電流) です。DC 電圧は 19.3 kV です。t=0.1 秒において、電圧は定格電圧の 0.955 pu まで急激に 4.5% 減少します。STATCOM は電圧を 0.979pu に維持するために、無効電力 (Q=+70 Mvar) を生成するように動作します。95% の整定時間は、およそ 47 ms です。この時点で、DC 電圧は 20.4 kV まで増加しました。

このとき、t=0.2 秒において、電圧は 1.045 pu まで増加します。STATCOM は電圧を 1.021pu に維持するために、無効電力が容量性から誘導性になるまで、その動作点を変更するように動作します。この時点で、STATCOM は 72 Mvar を吸収し、DC 電圧は 18.2 kV まで低下しています。STATCOM の一次電圧と電流を示す上図の 1 つ目の波形で、およそ 1 サイクルのうちに電流が容量性から誘導性へと変化しているのが観測されます。

最終的に、t=0.3 秒において、電圧はその基準値 (1 pu) に戻り、STATCOM の動作点が 0 Mvar に戻ります。

下図は、STATCOM の無効電力が容量性であるときと誘導性であるときの、定常状態での動作を表す 2 サイクル分の波形を拡大表示したものです。下図の波形は、STATCOM の一次電流の他に、位相調整変圧器の A 相の一次電圧と二次電圧を示します。

STATCOM の無効電力が容量性および誘導性である場合の、定常状態の電圧と電流

STATCOM の無効電力が容量性 (Q=+70Mvar) であるとき、インバーターで 48 ステップのパルス電圧として生成される二次電圧 (pu 単位) は、一次電圧 (pu 単位) よりも高く、一次電圧と同期していることに注意してください。また、電流は電圧よりも 90°進んでいます。したがって、STATCOM は正の無効電力を生成します。

一方、STATCOM の無効電力が誘導性であるとき、位相調整変圧器の二次電圧は一次電圧よりも低くなります。また、電流は電圧よりも 90°遅れています。したがって、STATCOM は負の無効電力を吸収しています。

最終的に、Signals and Scopes サブシステムを開くと、さまざまな波形を観測することができます。DC 電圧が、無効電力を変化させるように増加または減少する場合の GTO の導通角 α の過渡的な変化に注目してください。定常状態の GTO の導通角 α (0.5°) は、STATCOM を構成する変圧器 (位相調整変圧器) とコンバーター (48 パルス形の 3 レベル インバーター) において、それらの損失を補償する小さな有効電力潮流を維持するために必要な位相シフト量です。