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UPFC および PST を使用した電力潮流の制御

はじめに

この節で扱う例では、Simscape™ Electrical™ Specialized Power Systems ソフトウェアを使用して、送電システムの電力過密を緩和するために使用される統合電力潮流コントローラー (UPFC) の定常状態と動特性を調べる方法を説明します。

UPFC に精通していない場合は、Unified Power Flow Controller (Phasor Type) ブロックのリファレンス ページを参照してください。

電力システムの説明

500 kV / 230 kV の伝送系に、モデル化された電力システムの単線結線図を示します。

500 kV / 230 kV の伝送系

UPFC は、500 kV /230 kV 伝送システムの電力潮流を制御するために使われます。ループ構造に接続されるシステムは、基本的には 3 つの伝送線 (L1、L2、L3) と 2 つの 500 kV/230 kV 変圧器バンク Tr1 と Tr2、これらを相互接続する 5 つの母線 (B1 から B5) で構成されます。230kV システムにある 2 つの電力プラントは、合計 1500MW を発電します。これは、500kV、15000MVA に相当し、母線 B3 に接続された 200MW の負荷に伝送されます。それぞれのプラント モデルは、電力系統安定化装置 (PSS) の他に、速度調整器、励磁システムを含みます。通常の動作では、母線 B4 と B5 の間に接続された 2 つの 400 MVA 変圧器を通して、電力プラント #2 の発電容量 1200 MW の大部分が 500 kV 相当に送られます。この例では、3 つのうち 2 つの変圧器しか利用できないという不測の事態を想定しています。この場合、Tr2= 2*400 MVA = 800 MVA です。電力潮流は、プラント #2 で発電される電力の大部分 (1000 MW のうち 899 MW) は 800 MVA 変圧器バンクを通り伝送され、96 MW はループ内で循環していることを示します。したがって、変圧器 Tr2 は 99 MVA によりオーバーロードされます。例では、UPFC がこの電力過密をどのように緩和するか説明します。ライン L2 の右端にある UPFC は、母線 B_UPFC での電圧の他、500 kV の母線 B3 での有効電力および無効電力の制御に使用されます。UPFC は IGBT を利用する 2 つの 100 MVA コンバーターで構成されます。1 つは分流コンバーターであり、1 つは DC 母線に相互接続されている直列コンバーターです。直列コンバーターは、ライン L2 と直列のグランドに対するライン基準電圧 (28.87kV) の最大 10% を投入できます。

この例は、power_upfc モデルで提示されています。このモデルを読み込み、このモデルにさらに変更を加えることができるように case2 という名前で作業ディレクトリに保存してください。

Powergui ブロックの Machine Initialization ツールを使用して、モデルはプラント #1 と #2 で初期化されています。それぞれのプラントでは 500 MW と 1000 MW の発電が行われ、Bypass ブレーカーが閉じられているため UPFC は非稼動です。母線 B1 から B5 で結果として得られる電力潮流は、モデル上で赤い番号で示されています。この電力潮流は、500 kV / 230 kV の伝送系の単線結線図に示す電力潮流に対応します。

UPFC を使った電力潮流計算制御

UPFC のパラメーターは、ダイアログ ボックスで与えることができます。Power データのパラメーターにおいて、直列コンバーターは、0.1pu の最大供給電圧をもち、定格で 100MVA であることを確かめてください。分流コンバーターも定格で 100 MVA です。さらに、Control パラメーターにおいて、分流コンバーターは電圧調整モードにあり、直列コンバーターは電力潮流制御モードにあることを確かめてください。UPFC の基準の有効電力と無効電力は、Pref(pu) および Qref(pu) とラベルされたマゼンタのブロックで設定されます。はじめに、Bypass ブレーカーが閉じられ、母線 B3 での結果の実電力潮流は 587 MW と -27 Mvar です。Pref ブロックは、実電力潮流に対応する、5.87 pu の初期有効電力潮流を使ってプログラムされます。次に、t=10s において、Pref は 5.87pu から 6.87pu まで 1pu (100MW) ずつ増加します。一方、Qref は -0.27pu で一定に保たれます。

シミュレーションを実行し、母線 B3 で測定される P と Q がどのように参照値に従うかを UPFC Scope ブロック上で見ることができます。以下に、波形を再び生成します。

587MW から 687MW まで変化する基準電力に対する UPFC の動的応答

t=5 s において、Bypass ブレーカーが開くと、顕著な過渡状態がなく、Bypass ブレーカーから UPFC 直列分岐まで実電力が流れます。t = 10 秒において、電力が速度 1 pu/s で増加します。電力が 687 MW まで増加するのに、1 秒かかります。母線 B3 での有効電力の 100MW の増加は、94 度の角度で、0.089pu の直列電圧を投入することで達成されます。この結果、Tr2 を流れる有効電力潮流が、899 MW から 796 MW まで、およそ 100 MW 減少します。ここで、Tr2 は許容負荷を伝達します。VPQ Lines と名付けられた Scope ブロックで、母線 B1 から B5 までの有効電力の変化を確認してください。

UPFC P-Q の制御可能領域

UPFC ダイアログ ボックスを開き、Show Control パラメーター (直列コンバーター) を選択します。Mode of operation = Manual Voltage injection を選択します。この制御モードにおいて、直列インバーターが生成する電圧は、Vdqref 入力で多重化された 2 つの外部信号、Vd、Vq により制御され、マゼンタの Vdqref ブロックで生成されます。最初の 5 秒間、Bypass ブレーカーは閉じたままなので、PQ の軌跡は (-27Mvar、587MW) の点に留まります。次にブレーカーが開くときに、投入される直列電圧の大きさは、0.0094pu から 0.1pu までランプ状に変化します。10s において、供給電圧の角度は、速度 45deg/s で変化し始めます。

シミュレーションを実行し、UPFC Scope ブロックで信号 P と Q を観測します。これらの信号は、供給された電圧の位相の変化に従い変化します。シミュレーションの終わりに、“Double click to plot UPFC Controllable Region” というラベルが付けられた青いブロックをダブルクリックします。母線 B3 で測定される、UPFC の有効電力の関数として UPFC 無効電力の軌跡を生成すると、下図のようになります。楕円内部の領域は、UPFC の制御可能領域を表します。

UPFC の制御可能領域

PST を利用する電力潮流制御

UPFC ほどフレキシブルではありませんが、移相変圧器 (PST) は、PST がある場合とない場合の 2 つの電源間の送電に示すように位相角 δ に直接作用するため、電力潮流を制御する非常に効率的な手段です。PST は、電力網上で電力潮流を制御するために最も一般的に使われるデバイスです。

PST がある場合とない場合の 2 つの電源間の送電

ここで、負荷時タップ切換器 (OLTC) をもつ PST を使用して、電力システムの電力潮流を制御します。六角形のデルタ接続を使用する PST のフェーザ モデルは、[Simscape][Electrical][Specialized Power Systems][Power Grid Elements] ライブラリにあります。この PST 接続の詳細については、Three-Phase OLTC Phase Shifting Transformer Delta-Hexagonal (Phasor Type) ブロックのリファレンス ページを参照してください。

UPFC を制御するマゼンタのブロックの他に、モデル内の UPFC ブロックも削除してください。さらに、UPFC Measurements サブシステムと UPFC Scope ブロックも削除します。[Simscape][Electrical][Specialized Power Systems][Power Grid Elements] ライブラリからモデルに Three-Phase OLTC Phase Shifting Transformer Delta-Hexagonal (Phasor Type) ブロックを追加します。ABC 端子を母線 B_UPFC に接続し、abc 端子を母線 B3 に接続します。ここで、PST ブロックのダイアログ ボックスを開き、以下のパラメーターを変更します。

Nominal parameters [Vnom(Vrms Ph Ph) Pnom(VA) Fnom (Hz)]

[500e3 800e6 60]

Number of taps per half tapped winding

20

基準の電力は 800MVA (PST を通り伝送される最大予測電力) に設定されます。タップ数は 20 に設定されるので、位相シフトの精度はステップごとにおよそ 60/20 = 3 °です。

電力システムにおいて、B_UPFC から B3 までの実電力潮流 (PST なし) は P=+587 MW です。PST がある場合とない場合の 2 つの電源間の送電 の V1 と V2 は、B_UPFC と B3 それぞれに接続されたシステムの内部電圧を表します。これは、式 1 の角 δ が正であることを意味します。したがって、式 2 に従うと、B_UPFC から B3 まで電力潮流を増加するには、ABC 端子に関する abc 端子の PST の位相シフト Ψ も正でなければなりません。このタイプの PST の場合、タップが負の方向に移動しなければなりません。これは、PST タップ切換器の Down 入力にパルスを送ることで達成されます。

タップの位置は、Up 入力または Down 入力にパルスを送ることで制御されます。このケースでは、0 から正の値に位相シフトを増加させる必要があるので、Down 入力にパルスを送らなければなりません。Pulse Generator ブロックをコピーして PST の Down 入力に接続します。ブロック ダイアログ ボックスを開き、以下のパラメーターを変更します。

周期

5

パルス幅 (周期の %)

10

したがって、5 秒ごとにタップは負の方向に 1 ステップ移動し、位相シフトがおよそ 3 度増加します。

最後に、Bus Selector ブロックを PST の測定出力 m に接続します。ブロック ダイアログ ボックスを開き、以下の 2 つの信号を選択します。

  • Tap

  • Psi (degrees)

これら 2 つの信号を 2 入力の Scope ブロックに接続し、シミュレーション中にタップの位置と位相シフトを観測します。シミュレーション時間を 25 s に設定し、シミュレーションを開始します。

VPQ ラインの Scope ブロック上で、母線 B1 から B5 での電圧と、これらの母線を通る有効電力と無効電力を観測します。タップの位置の変化、母線 B3 (PST を通る電力) と B4 (変圧器 Tr2 を通る電力) を通る PST の位相シフト Ψ と有効電力の伝送は、下図のようになります。

PST のタップ位置を変更することによる、B3 と B4 を通る有効電力の制御

それぞれのタップ位置の変化により、位相角がおよそ 3 度変化し、結果として B3 を通る電力が 60MW 増加します。タップ位置 -2 において、変圧器 Tr2 を通る電力が 900MW から 775MW まで減少すると、UPFC と同じ目標値が達成され定常状態を制御します。OLTC においてタップ数を増加させると、位相角と電力ステップでより良い精度を得ることができます。

位相角の離散的な変化により、有効電力のオーバーシュートと微小変動が生じることがわかります。電力プラント 1 と 2 のマシンのこれら電力変動は、地域間の典型的な電気的変動や機械的変動ですが、励磁システムに接続された電力系統安定化装置 (PSS) により速やかに減衰します。

PSS を励磁システムの vstab 入力 (電力プラントの Reg_M1 と Reg_M2 サブシステムに位置します) から接続を外すと、地域間の変動の減衰に PSS がどのように影響するかわかります。PSS がある場合とない場合の B3 を通る有効電力は、以下で再現されています。PSS がない場合、1.2 Hz 不足減衰の電力振動は明らかに許容されていません。

PSS による電力振動の減衰