Main Content

このページの内容は最新ではありません。最新版の英語を参照するには、ここをクリックします。

サイリスタによる HVDC 送電システム

この例では、12 パルス、1000 MW (500 kV-2kA) 50/60 Hz HVDC 送電システムの定常状態および過渡特性を示します。

Silvano Casoria (Hydro-Quebec)

説明

1000 MW (500kV、2kA) 高圧直流送電システム (HVDC) は、500 kV、5000 MVA、60 Hz のネットワークから 345 kV、10000 MVA、50 Hz ネットワークに高圧直流送電するシステムです。

整流器とインバーターは、2 つの直列接続された 6 パルス サイリスタ ブリッジを使用する 12 パルス型のコンバーターです。整流器とインバーターは、300 km の分布定数線路と 2 つの 0.5 H の平滑リアクトルを介して接続されています。変圧器のタップの位置を変えてシミュレートすることはできません。固定タップが前提となります。Rectifier サブシステムと Inverter サブシステムの 2 つの変圧器ブロックを開いて、一次電圧に乗算されている値を確認します (整流器側が 0.90、インバーター側が 0.96)。コンバーターに必要な無効電力は、コンデンサ バンクのセットと 11 次、13 次、およびハイパス フィルターの組み合わせによって、それぞれの側で合計 600 Mvar が提供されます。インバーター AC 側と整流器 DC 側に地絡故障を発生させるために 2 つの配電用遮断機 (ブレーカー) が使用されます。

DC Protection 機能がそれぞれのコンバーターに実装されています。整流器において、DC 地絡保護は、遅延角を検出し、地絡電流を解消するために、遅延角をインバーター領域に適用します。インバーター側において、サイリスタの転流失敗防止制御は、AC 地絡故障を検出し、サイリスタの転流失敗のリスクを減少させるために遅延角の最大制限値を減少させます。Low AC Voltage Detection ブロックは、AC 電圧の低下が検出されたときに DC 地絡保護をロックします。Master Control ブロックは、コンバーターの開始と停止の起動に加えて、指令電流の増減を行います。電力系統システムと制御システムは、両方ともサンプル時間 Ts = 50µs で離散化されます。モデルの "Model initialization" 関数によって、MATLAB® ワークスペースで Ts = 50e-6 が自動的に設定されます。制御システムの説明については、ユーザー マニュアルの HVDC 送電システムのケース スタディを参照してください。

シミュレーション

このシステムは、始動から定常状態までをシミュレーションできるようにプログラムされています。制御器の動的な応答を観察するために、整流器の指令電流とインバーター基準電圧にステップ信号が適用されます。最後に、停止処理が開始して、コンバーターをブロックする前に DC 電源が低下します。シミュレーションを開始します。Data Acquisition サブシステムの RECTIFIER スコープと INVERTER スコープを開き、トレース 1 (1pu = 500 kV) の DC 線電圧とトレース 2 (1pu = 2kA) の DC 線電流 (基準値と測定値) を観察します。

開始と停止

Master Control で、整流器とインバーターの指令電流を増加させることによってコンバーターのブロックが解除され、コンバーターが開始されます。t = 0.02 秒において (コンバーターのブロックが解除されたときなど)、0.3 秒で指令電流が最小値の 0.1 pu にランプ状に変化します (0.33 pu/秒)。この最初のランプ (t = 0.32 秒) において、DC 送電線が定格電圧で充電され、DC 電圧が定常状態に達します。t = 0.4 秒において、指令電流は 0.18 秒で 0.1 pu から 1 pu (2 kA) に変化します (5 pu/秒)。この起動処理の最後 (t=0.58 秒) に、DC 電流は定常状態に達します。整流器は電流を制御し、インバーターは電圧を制御します。定常状態において、整流器側とインバーター側の α 点弧角 (トレース 3) は、それぞれ 16.5 度および 143 度です。消弧角 γ (最小値) はインバーターで測定され、トレース 4 に示されます。定常状態において、最小値は 22 度と 24 度の間です。動作の制御モード (0 ~ 6 の整数) がトレース 4 に示されます (0 = ブロック、1 = 電流制御、2 = 電圧制御、3 = α の最小値制限、4 = α の最大値制限、5 = α の強制的設定、6 = γ 制御)。t = 1.4 秒で、電流を 0.1 pu までランプ状に低下させることによって停止処理を開始します。t = 1.6 秒で、整流器における Forced-alpha は電流をゼロにし、インバーターにおける Forced-alpha は DC 電圧を下げます。t = 1.7 秒において、サイリスタの駆動パルスはいずれのコンバーターにおいてもブロックされます。

電流および電圧レギュレーターのステップ応答

Master Control で "Enable Ref. Current Step" スイッチが上の位置にあることを確認します。このスイッチは、基準電圧にステップ信号を適用するために使用します。また、インバーターの制御で基準電圧ステップ信号が有効であることを確認します。t=0.7 秒で最初に -0.2 pu ステップ信号が指令電流に印加され (1 pu から 0.8 pu に減少)、t=0.8 秒で指令電流が 1 pu の元の値にリセットされます。電流は、約 0.1 秒で安定します。ステップ信号は、インバーターの基準電圧にも適用されます (t=1.0 秒/ 1.1 秒で -0.1 pu / +0.1 pu)。

整流器における DC 送電線の地絡故障

スイッチを下の位置に設定することによって、Master Control における指令電流および基準電圧とインバーター制御に各々適用されたステップ信号を無効にします。地絡故障が t = 0.7 秒で適用されるように、DC Fault ブロックにおいて、[Switching times] の増倍率を 100 から 1 に変更します。シミュレーション終了時間を 2 秒から 1.4 秒に減らします。整流器の DC 地絡保護 (DCPROT) が既定でアクティブになります。FAULT スコープを開き、DC 地絡電流を観察します。再度、シミュレーションを実行してください。

地絡故障が発生すると、DC 電流は 2.3 pu に増加し、DC 電圧は整流器側でゼロに低下します。この DC 電圧の低下は、整流器側で指令電流を 0.3 pu に減少させる Voltage Dependent Current Order Limiter (VDCOL) による影響で見られます。DC 電流は地絡故障中にも流れ続けます。そして t = 0.77 秒において、整流器のサイリスタの点弧角 α は、DC 電圧が低くなっていることが検出されるため (70 ミリ秒以上で VdL< 0.5 pu) DC 保護によって 166 度になります。整流器は、このとき、インバーターとして動作します。その DC 電圧は負になり、直流送電線に蓄積されたエネルギーが、交流 (AC) ネットワークに逆流します。その結果、地絡電流 (I DC Fault) が次のゼロクロッシング時において急激に低下してゼロになります。整流器のサイリスタの点弧度 α は t=0.87 秒で減少し始め、およそ 0.4 秒後に DC 電圧と電流が通常の値に復帰します。

インバーターの AC 線-対地絡間故障

DC Fault ブロックにおいて、[Switching time(s)] に設定した 1 を 100 に変更し、直流送電線の地絡故障が発生しないようにします。A-G Fault ブロック (本来は、Breaker ブロック) では、[Switching time(s)] に設定された増倍率を 100 から 1 に変更し、t = 0.7 秒において線-対地絡間故障が 6 サイクルの間だけ発生するようにします。整流器とインバーター保護の Low AC 電圧検出 (LACVD) サブシステムおよびインバーター保護の Commutation Failure Prevention Control (CFPREV) が既定でアクティブになります。再度、シミュレーションを実行してください。

DC 電圧と電流に 120 Hz の振動が発生していることに注目してください。故障が t = 0.8 秒で解消したとき、VDCOL が機能し、指令電流を 0.3 pu に減少させています。システムは、地絡故障を解消した後、およそ 0.35 秒で故障発生前の元の状態まで回復します。LACVD は地絡故障を検出し、DC 地絡保護システム (DC Fault Protection サブシステム) の動作をロックします。この場合、DC 電圧が低下した場合でも、直流送電線の地絡故障を検出しなくなります。CFPREV サブシステムの出力 (A_min_I) を見ると、故障中と故障後に、サイリスタの転流余裕を増加させるように、サイリスタの点弧の遅延角の最大制限値を小さくしていることがわかります。ここで、[CFPREV] ダイアログ ボックスで [ON State] の選択を解除することによって CFPREV 保護を非アクティブにします。シミュレーションを再実行して、DC 転送の回復時間の違いを観察します。サイリスタの転流失敗現象は回復中に発生するようになることに注意してください。サイリスタの転流失敗現象は、転流電圧の極性が反転する前に、直流を流入するバルブの障害が原因で起こります。その現象の徴候は、影響を受けるブリッジにかかる DC 電圧が 0 になることです。これは、DC 回路インダクタンスによって主に決められる時定数で DC 電流が増加する原因となります。