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STATCOM フェーザ モデル

この例では、500 kV 伝送線路での中間点電圧制御に使用する自励式無効電力補償装置 (STATCOM) を示します。

Pierre Giroux and Gibert Sybille (Hydro-Quebec)

説明

自励式無効電力補償装置 (STATCOM) は主要な FACTS デバイスの 1 つです。STATCOM は電圧源コンバーターを基に、無効電力を吸収または生成することによりシステム電圧を制御します。サイリスタベースの静止型無効電力補償装置 (SVC) とは異なり、STATCOM の出力電流 (誘導性または容量性) は AC システム電圧と独立に制御することができます。

電力網は、600 km の伝送線路で接続された 2 つの 500 kV 等価回路 (それぞれ 3000 MVA および 2500 MVA) で構成されています。STATCOM が動作していない場合、伝送線路の実電力潮流は母線 B1 から B3 まで 930 MW です。STATCOM は線路の中間点 (母線 B2) に配置されており、定格は +/- 100 MVA です。この STATCOM は、一般的な 3 レベル PWM STATCOM のフェーザ モデルです。[STATCOM] ダイアログ ボックスを開いて [Display Power data] を選択すると、モデルが表している STATCOM の DC リンク定格電圧は 40 kV で、375 uF 相当の静電容量をもつことがわかります。AC 側では、等価インピーダンスの合計は 100 MVA で 0.22 pu となります。このインピーダンスは変圧器の漏れリアクタンスと、実際の PWM STATCOM の IGBT ブリッジの位相リアクトルを表します。

シミュレーション

1.STATCOM の動的応答

ここでは、モデルの動的応答を確認します。[STATCOM] ダイアログ ボックスを開いて、[Display Control parameters] を選択します。[Mode of operation] が [Voltage regulation] に設定されていて、[External control of reference voltage Vref] が選択されていることを確認します。また、[droop] パラメーターが 0.03 に設定されていて、[Vac Regulator Gains] が 5 (比例ゲイン Kp) と 1000 (積分ゲイン Ki) に設定されていることも必要です。[STATCOM] ダイアログ ブロックを閉じて、"Step Vref" ブロック (STATCOM の "Vref" 入力に接続されている赤色のタイマー ブロック) を開きます。このブロックは、基準電圧 Vref を次のように変更するようプログラムする必要があります。まず、Vref を 1 pu に設定します。t =0.2 秒で Vref は 0.97 pu に低下し、t = 0.4 秒で Vref は 1.03 に上昇します。最後に t = 0.6 秒で Vref を 1 pu に戻します。また、母線 B1 の Fault Breaker がシミュレーション時に動作しないようにしてください ([Switching of phase A, B and C] のパラメーターを選択しない)。

シミュレーションを実行して、"VQ_STATCOM" スコープを確認します。最初のグラフには、Vref 信号 (マゼンタのトレース) が、STATCOM 母線で測定された正相電圧 Vm (黄色のトレース) と共に表示されます。2 番目のグラフには、STATCOM により吸収 (正の値) または生成 (負の値) された無効電力 Qm (黄色のトレース) が表示されます。STATCOM は "Var Control" モードではなく "Voltage regulation" モードになっているため、信号 Qref (マゼンタのトレース) はここでのシミュレーションには関係ありません。

Qm 信号から、システムの閉ループ時定数が約 20 ms であることがわかります。この時定数は主に、母線 B2 での電力システムの強度と、STATCOM のプログラムされた Vac Regulator gains に依存しています。制御器のゲインの影響を確認するには、Vac Regulator Gains の 2 つのゲインを 2 倍にしてシミュレーションを再実行します。応答がずっと速くなり、オーバーシュートも小さくなることが観察されます。

Vm 信号と Vref 信号から、STATCOM が完全な電圧レギュレーターとしては機能していないことがわかります (Vm は基準電圧 Vref に厳密には追従しません)。これは 0.03 pu の制御器 droop (制御スロープ) が原因です。特定の最大容量/誘導範囲に対してこの droop を使用すると、STATCOM の線形動作範囲を拡張したり、他の電圧補償器 (ある場合) と自動的に負荷を共有することができます。droop パラメーターを 0 に設定し、電圧レギュレーターのゲインを 5 (Kp) と 1000 (Ki) に戻します。その後でシミュレーションを実行すると、今回は、測定電圧 Vm が基準電圧 Vref に完全に追従することがわかります。

2. 故障条件での STATCOM と SVC の比較

ここでは、STATCOM モデルを同じ定格 (+/- 100 MVA) の SVC モデルと比較します。"SVC Power System" (マゼンタのブロック) をダブルクリックすると、STATCOM が接続されている電力網と同様の電力網に接続された SVC が表示されます。故障インピーダンスと直列につながれた故障ブレーカーを使用して、両方のシステムで遠隔の故障のシミュレーションを実行します。故障インピーダンスの値は、母線 B2 で 30% の電圧低下が発生するようにプログラムされています。シミュレーションを実行する前に、まず時間ベクトルに 100 を掛けて "Step Vref" ブロックを無効にします。その後、[Switching of phase A, B and C] のパラメーターを選択して故障ブレーカーをプログラムし、このブレーカーが t = 0.2 秒で 10 サイクルの間動作するようプログラムされていることを確認します ([Transition times] パラメーターを確認)。また、"SVC Power System" の故障ブレーカーに同じパラメーターが設定されていることを確認します。最後に、STATCOM の droop を元の値 (0.03 pu) に戻します。

シミュレーションを実行して、"SVC vs STATCOM" スコープを確認します。最初のグラフは、両方のシステムでの測定電圧 Vm (SVC はマゼンタのトレース) を表示します。2 番目のグラフは、SVC (マゼンタのトレース) と STATCOM (黄色のトレース) で生成された無効電力 Qm の測定値を表示します。10 サイクルの故障期間中に、SVC と STATCOM の重要な違いが観察されます。SVC により生成された無効電力は -0.48 pu で、STATCOM により生成された無効電力は -0.71 pu です。また、SVC により生成される容量性電力の最大値はシステム電圧の二乗に比例し (定サセプタンス)、STATCOM により生成される容量性電力の最大値は電圧の低下に伴い線形的に低下します (定電流)。故障中に容量性電力をより多く供給できるこの能力は、STATCOM が SVC より優れている重要点の 1 つです。さらに、通常は STATCOM の応答は SVC より速くなります。これは、STATCOM では電圧源コンバーターを使用しているため、サイリスタの点弧に関連する遅延 (SVC の場合は約 4 ms) がないためです。