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熱流体システムのモデル化

熱流体ブロックを使用する場合

流体システムの熱挙動は多くの工学アプリケーションで問題となります。流体はエネルギーを蓄えて周囲に解放することができ、多くの場合、この過程で何らかの作業が行われます。この例としては、地中のパイプライン内での原油の流れや、航空機のアクチュエータでの作動油の流れがあります。

温度の変化が無視できる範囲である場合には液体は等温流体として動作するため、モデル化のプロセスを単純化できます。ただし、詳細な熱解析を目標とする場合または温度の変動が大きい場合は、このような仮定を行うことはできません。

特定のモデルを作成する際に熱流体ブロックが適しているかどうかを判断するには、表現する流体システムを検討します。他の Simscape™ ブロック (Isothermal Liquid や Two-Phase Fluid など) のほうがアプリケーションに適している場合があります。次の項目を評価します。

  • 相数

    液状媒体は単相か多相か。

  • 関連する相

    液状媒体は気体、液体または多相の混合体か。

  • 熱効果

    シミュレーションの時間スケールで温度が大幅に変化するか。解析にとって熱効果は重要か。流体特性の温度依存性は重要か。

一般的には、流体システム内で単相の流体の温度が大幅に変化する場合に熱流体ブロックを使用します。

モデル化のワークフロー

熱流体モデルでは、次の 4 つの手順で構成されるワークフローを推奨しています。

  1. モデル要件の設定 — モデルの目的と範囲を定義します。その後、関連するコンポーネントとモデル内での相互作用を特定します。モデルを作成する際にはこの情報をガイドとして使用します。

  2. 物理コンポーネントのモデル化 — 関連するコンポーネントや相互作用をモデル化するために、適切なブロックを決定します。次に、ブロックをモデル キャンバスに追加し、Simscape の接続ルールに従ってつなぎます。ブロック パラメーターを指定します。

  3. 解析のためのモデルの準備 — モデルにセンサーを追加します。または、Simscape でのデータ ログのためにモデルを構成します。センサーを設定した各変数で物理単位を確認します。

  4. シミュレーションの実行 — ソルバー設定を構成します。その後、シミュレーションを実行します。必要に応じて、目標の忠実度に達するまでモデルを調整します。

モデル要件の設定

モデルを作成する際には、モデルの目的と要件をはっきりと理解しておくことが重要です。モデルで何を達成しようとしているのか。そして、関連するコンポーネント、プロセス、状態は何か。重要なものと、重要ではないものを区別しておきます。物理システムのおおまかに似たものをガイドとして、単純なモデルから作業を始めます。その後モデルがアプリケーションに適した忠実度に達するまで詳細を追加する作業を繰り返します。

たとえば、地中に埋設された断熱材を施した原油のパイプラインを考えてみましょう。原油がパイプラインの内部を流れると、パイプラインの周囲の温度は内部の原油よりも低いため、熱伝導による熱損失が発生します。熱は 3 種類の材料の層 (パイプの壁、断熱材、土壌) を通して流れ、原油の温度が低下します。ただし、問題となるのは土壌と断熱材の層における熱伝導のみです。一般的なパイプの壁は薄くて熱伝導性が高いため、パイプの壁での熱伝達による熱損失はほとんどありません。このプロセスを省略することで、モデルを簡素化してシミュレーションを高速化できます。

また、各コンポーネントの大きさと特性を決定しなければなりません。モデルの作成中に、コンポーネントの Simscape ブロックでこれらのパラメーターを指定します。流体媒体の物理特性を入手します。通常、このデータはメーカーのデータ シートに記載されています。また、解析的表現を使用して物理特性のルックアップ テーブルを定義することもできます。

パイプをモデル化する際には、動的圧縮率と流体慣性が過渡的なシステムの動作に与える影響を考慮します。効果の時間スケールがシミュレーションの実行時間を超える場合は、通常影響を無視することができます。モデルを作成する際には、無視できる影響をオフにして、シミュレーションの速度を改善します。動的圧縮率と流体慣性の特徴的な時間スケールは、それぞれおよそ L/cL/v です。ここで、

  • L はパイプの長さです。

  • v はパイプを通じた平均流速です。

  • c は流体媒体中の音速です。

特定の影響がモデルに関連するかどうかわからない場合は、この影響を取り入れた状態と取り入れない状態でモデルをシミュレーションします。その後、2 つのシミュレーション結果を比較します。差がかなり大きい場合は、この影響を取り入れたままにします。その結果、小さい時間スケールでモデルの忠実度が高くなります。たとえば、パイプ内での逆流に関連する過渡状態時などです。

物理コンポーネントのモデル化

モデル キャンバスに Thermal Liquid Settings (TL) ブロックを追加することから始めます。このブロックを使用して、流体媒体の物理特性を提供します。ブロックをダブルクリックし、計画段階で入手した物理特性のルックアップ テーブルを入力します。

物理コンポーネントとコンポーネント間の相互作用をモデル化するために、適切なブロックを特定します。コンポーネントは、単一のブロックを必要とする単純なものもあれば、複数のブロックを通常は Simulink® Subsystem ブロック内に必要とする複雑なものもあります。ブロックをモデル キャンバスに追加し、Simscape の接続ルールに従ってつなぎます。

損失による作動油の加温の例は単純なコンポーネントと複雑なコンポーネントを示しています。Flow Rate Source (TL) は理想的な動力源を表現しています。これは単純なコンポーネントです。Double-Acting Cylinder Subsystem ブロックは油圧アクチュエータの機械的部分を表現しています。これは 2 つの Translational Mechanical Converter (TL) ブロックを含む複雑なコンポーネントです。

ブロックを接続したら、関連するパラメーターを指定します。これには、大きさ、物理的状態、経験的相関係数および初期条件が含まれます。Pipe (TL)Rotational Mechanical Converter (TL)、および Translational Mechanical Converter (TL) の各ブロックで、動的圧縮率と流体慣性などの影響に関する適切な設定を選択します。

メモ

正確なシミュレーション結果を得るために、既定のパラメーター値を常にモデルの適切なデータに置き換えてください。

解析のためのモデルの準備

モデルを解析するには、データ収集のためにモデルを設定しなければなりません。最も単純な方法は、モデルにセンサー ブロックを追加することです。Thermal Liquid ライブラリには 2 種類のセンサー ブロックが用意されています。スルー変数 (質量流量およびエネルギー流量) のためのセンサー ブロックと、アクロス変数 (圧力および温度) のためのセンサー ブロックです。PS-Simulink Converter ブロックを使用すれば、センサーで測定する変数の物理単位を指定できます。

また、この代わりに Simscape のデータ ログを使用することもできます。この方法ではブロックの代わりに MATLAB® コマンドを使用して、より広範囲のモデル変数とパラメーターにアクセスできます。例としては、パイプラインの 1 セグメント内における流体媒体の動粘性率があげられます。このパラメーターは Simscape のデータ ログを使用して解析できますが、センサー ブロックは使用できません。

Simscape のデータ ログの概要については、シミュレーション データ ログについてを参照してください。ログ データのプロットの例については、シミュレーション データのログ作成とプロットを参照してください。

シミュレーションの実行

モデル化のワークフローの最後の手順では、モデルをシミュレーションします。シミュレーションを実行する前に、数値ソルバーがモデルに対して適切であることを確認します。これを行うには、[コンフィギュレーション パラメーター] ダイアログ ボックスを使用します。

物理モデルでは、daesscode23tode15s などの可変ステップ ソルバーを使用すると一般的にパフォーマンスが最高になります。シミュレーションの精度を上げるには、ステップ サイズと許容誤差を小さくします。シミュレーションを高速化するには、反対にこれらの値を大きくします。

シミュレーションを実行します。センサーと Simscape データ ログからのシミュレーション データをプロットするか、より詳細な解析のためにこれらのデータを処理します。必要に応じて、モデルを微調整します。たとえば、シミュレーションにおける問題を修正する場合や、モデルの忠実度を改善する場合などです。

熱流体コンポーネントの表現

熱流体システムには、基本的なものから高度に特殊化したものまで、さまざまな複雑度のものがあります。基本的なシステムのモデル化は、多くの場合単純なコンポーネントで十分です。チャンバー、パイプ、ポンプおよび流体媒体自体のコンポーネントがあります。単純なコンポーネントは多くの場合業界に依存せず、単一の熱流体ブロックを使用してモデル化できます。たとえば、パイプラインの 1 セグメントは単一の Pipe (TL) ブロックを使用してモデル化できます。

特殊なシステムをモデル化する場合は、一般的にカスタム コンポーネントを使用します。これらのコンポーネントは単一の熱流体ブロックでは表現できません。損失による作動油の加温の例にある 5 方向の方向制御バルブはこのようなコンポーネントの例です。カスタム コンポーネントは多くの場合特定の業界に特有のもので、熱流体ブロックをより複雑なサブシステムにまとめてモデル化しなければなりません。

熱流体媒体の指定

Thermal Liquid Settings (TL) ブロックは流体媒体の熱力学的特性を指定します。これらの特性は、圧力と温度の両方を使用する関数であると仮定されています。この仮定は、特に圧力または温度、あるいはその両方が大幅に変化するモデルで、モデルの忠実度を大幅に向上させます。

このブロックは双方向性ルックアップ テーブルを入力として受け入れます。これらのテーブルは、離散化された圧力と温度での異なる熱力学特性値を示しています。これらのテーブルの値には、製品データ シートに記載されている実測データか、解析的表現から計算された値を使用できます。

マルチドメイン システムのモデル化

熱流体ブロックは異なる種類の保存端子を含むことができます。これらの端子には熱流体の保存端子だけではなく、熱保存端子と機械保存端子も含まれます。これらの端子を使用することで、熱流体のサブシステムを熱および機械のサブシステムとつなげることができます。

たとえば、Pipe (TL) ブロックの熱保存端子を使用してパイプの壁を通じた伝導性熱伝達をモデル化できます。原油のパイプラインのモデル化はアプリケーションの 1 つです。加熱された原油輸送の最適なパイプラインの配置の例はこの方法を示しています。

同様に、Translational Mechanical Converter (TL) ブロックの並進機械保存端子を使用して、熱流体システム内の油圧を機械的な作動力に変換できます。油圧アクチュエータのモデル化は一つのアプリケーションです。損失による作動油の加温の例はこの方法を示しています。

次の表は、熱保存端子または機械保存端子をもつ熱流体ブロックをリストしています。これらのブロックを使用して、熱流体、熱および機械のサブシステムを含むマルチドメイン モデルを作成できます。

熱流体ブロック熱保存端子機械保存端子
Constant Volume Chamber (TL)
Pipe (TL)
Rotational Mechanical Converter (TL)
Translational Mechanical Converter (TL)

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