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電気回路の離散化によるシミュレーション

はじめに

離散化を実装するには、Powergui ブロックのダイアログ ボックスで [Discretize electrical model] を選択します。Powergui ブロックのダイアログ ボックスを開き、ここでサンプル時間を設定します。この電気システムは、Tustin 法 (固定ステップの台形積分と同じもの) または後退オイラー法を使って離散化します。

通常、Tustin 法の方がより高い精度を得られます。ただし、ダイオードやサイリスタが含まれる回路については、後退オイラー法では非常に小さいスナバを使用できるため、Tustin 法で発生するような数値振動を避けることができます。

代数ループを回避するために、Forward Euler 法を利用して電動機が離散化されます。非同期機および同期機については、台形法 (反復または非反復のどちらか一方) も使用できます。

シミュレーションの精度は離散化として設定する時間ステップによって決まります。粗いサンプル時間を選べば、十分な精度は得られません。そのサンプル時間で求める精度が得られるか否かは、サンプル時間を変えてシミュレーションを繰り返し、連続積分法での結果と比較して、妥協できる精度が得られるできるだけ粗いサンプル時間を見出すしかありません。通常、50Hz または 60Hz の電力システムのスイッチングによる過渡状態をシミュレーションする場合に、20μs から 50μs のサンプル時間は十分良い精度が得られます。あるいは、ダイオードやサイリスタのようなライン転流に使われるパワー エレクトロニクス部品を使った回路においても、20μs から 50μs のサンプル時間で十分良い精度が得られます。しかし、強制整流式のパワー エレクトロニクス スイッチを使った回路では、サンプル時間はもっと短くしなければなりません。絶縁ゲート バイポーラ トランジスタ (IGBT)、電界効果トランジスタ (FET)、ゲート ターンオフ サイリスタ (GTO) などは、通常、高い周波数でスイッチングします。たとえば、8kHz で動作するパルス幅変調 (PWM) インバーターをシミュレーションするには、1µs かそれ以下の時間ステップが必要になります。

電子回路を離散化した場合も、連続系の制御システムを使用することができます。ただし、シミュレーション速度は、離散系の制御システムを使用することにより改善されます。

スイッチとパワー エレクトロニクスの離散化

スイッチとパワー エレクトロニクス部品は、スイッチを閉じると Ron 抵抗が低くなり、スイッチを開くと無限抵抗をもつ純粋な抵抗素子によって示される非線形素子です。シミュレーション中にスイッチの状態が変化するたびに、回路の線形部分の離散状態空間モデルが再評価され、回路トポロジの変化が反映されます。状態空間モデルの計算方法上の理由から、スイッチは誘導性回路と直列に接続することはできません。ほとんどのアプリケーションでは、スナバ回路をパワー エレクトロニクス部品に接続する必要があります。

強制整流式のデバイスの場合、高い抵抗値をもつ純抵抗のスナバを使用してスナバ回路を非常に小さくすることができます。ただし、ダイオードやサイリスタなど自然整流式のデバイスの場合は、固定タイム ステップでシミュレーションが行われるため、デバイスが遮断されると電流ゼロクロッシングが正確に検知されなくなります。小さい負の電流がチョッピングされると、数値振動が発生しますが、これは RC スナバをダイオードとサイリスタへ接続することで制御できます。RC スナバのサイズはサンプル時間と、線形電気回路で使用する離散化手法によって異なります。

離散化手法は Powergui ブロックの [Configure parameters] メニューから選択します。既定の離散化手法は Tustin 法です。Tustin 法は、固定ステップの台形積分と同じものです。R2011b 以降、代替の離散化手法として 後退オイラー法が使用できるようになりました。ほとんどのアプリケーションでは Tustin 法の使用をお勧めします。ただし、ダイオードやサイリスタが含まれる回路については、後退オイラー法で非常に小さいスナバが使用できるため、数値安定性を確保できます。後退オイラー法の欠点は、精度が低いことですが、短いサンプル時間を使用することによって Tustin 法と同等の精度を得ることができます。

Tustin 法および後退オイラー法を使用した離散モデルの例

次の例は、power_rectifier の例を使用してスナバと離散化手法がモデルの安定性に与える影響について説明しています。

  1. power_rectifier の例を開きます。この回路は RC スナバ (Rs = 1000 Ω; Cs = 0.1 μF) に並列に接続された 3 つのダイオードを使用した整流器です。

  2. Powergui のメニューで [Configure parameters] を選択し、[Simulation type][Discrete] を選択して、[Solver type][Tustin] にしたままで、[Sample time] に 50 ms と指定します。離散化モデルのシミュレーション結果は、連続モデルで取得された波形に非常に近似しています。

  3. 次に、非常に小さいスナバを使用してこの離散モデルのシミュレーションを実行します。抵抗が非常に小さい (Rs= 100 kΩ) 純抵抗のスナバを使用できます。Diode ブロック メニューのスナバ値を Rs= 1e5、Cs = inf に変更します。

  4. シミュレーションを開始します。整流電圧 (Vd) とダイオード電圧に数値振動が発生していることを示す結果が得られます。

    Tustin 法のソルバーで取得された波形: Ts = 50 us、抵抗スナバ Rs = 100 kΩ

  5. ソルバー タイプを後退型オイラーに変更し、シミュレーションを繰り返します。数値振動がなくなっていることを確認してください。次の図はシミュレーション結果と連続ソルバーを使って取得した結果を比較しています。この特定のサンプル時間 (Ts = 50 ms) では、波形は前述の例と非常に近似しています。連続ソルバーを使用して最大の精度を得るために、次のシミュレーション パラーメーターを使用しました。Tolerance = le-4、Absolute Tolerance = le-4、Solver Reset Method = Robust。

    連続ソルバーと後退オイラー法の離散ソルバーにより取得された波形の比較

電動機の離散化

電動機は電流源としてシミュレートされる非線形素子です。これらの素子は、寄生抵抗または容量素子が電動機の端子に接続されていない限り、誘導性ネットワークには接続できません。

離散システムで電動機を使用する場合、寄生抵抗負荷を増加させて数値振動の発生を避ける必要が生じることがあります。寄生負荷の量はサンプル時間と電動機の離散化に使用されている積分法によって異なります。

同期機モデルおよび非同期機モデルの場合、前進オイラー法または台形離散化法のどちらかを選択できます。その他のすべての電動機モデルについては、前進オイラー法による離散化手法を使用します。

同期機および非同期機の場合は、それぞれのブロック メニューの [Advanced] タブで電動機の離散化手法を選択します。反復台形モデルなどの陰的なソルバーを使用すると、最高の精度が得られます。このモデルを使用すると代数ループが発生し、Simulink® ソルバーが強制的に反復され、より高い精度が得られるようになります。ただし、精度は高くなりますが、その分シミュレーション時間が遅くなります。

反復台形モデルを使用すると、数値安定性を確保しながら、非常に小さい寄生負荷をもつ電動機のシミュレーションを実行できます。ただし、多くの電動機やパワー エレクトロニクス部品などの非線形素子がモデルに含まれる場合は、Simulink ソルバーが代数ループを解けないことがあります。このような場合は、前進オイラー モデルや非反復の台形モデル (単位遅延の導入により代数ループが切断された台形モデル) などの非反復離散化手法を使用しなければなりません。

非反復ソルバーを使用するには、より大きい寄生負荷またはより短いサンプル時間が必要です。最小抵抗負荷はサンプル時間に比例します。60 Hz のシステムにおいて 25 µs のタイム ステップでは、最小負荷は電動機の定格電力のおよそ 2.5% になります。たとえば、50 μs のサンプル時間で離散化された電力システム内の 200 MVA の同期機では、およそ 5% の抵抗負荷、すなわち 10 MW の抵抗負荷が必要です。サンプル時間を 20 μs に減少すると、抵抗負荷は 4 MW で十分です。

SM および ASM ブロックを使用した離散モデルの例

次の例は、power_machines の例を使用して電動機の離散化手法と並列負荷量がモデルの安定性に与える影響について説明しています。

  1. power_machines の例を開きます。この例には、1 MW の負荷と並列で同じ母線に接続された同期機 (SM) 1 台と非同期機 (ASM) 1 台が含まれます。

  2. Powergui メニューで [Configure parameters] を選択し、[Simulation type][discrete] を選択して [sample time] に Ts = 50 μs と指定します。

  3. Load Flow ツールを使用して電動機モデルを初期化します (Powergui Load Flow ウィンドウで [Compute] および [Apply] ボタンをクリック)。

  4. シミュレーションを開始し、モデルが定常状態で始まっていることを確認します。

このモデルでは、既定の離散化手法は Synchronous Machine ブロックおよび Asynchronous Machine ブロックの [Advanced] タブで前進オイラー法に設定されています。相対的に大きい 1 MW の負荷が電動機の端子に接続されているため、このモデルは安定しています。この負荷は SM 定格電力の 32% および ASM 定格電力の 60% を表します。

次の図は、2 つの非反復離散化手法 (前進オイラー法と非反復の台形法) によるシミュレーション結果と連続モデルで取得された基準波形を比較したものです。この図では、A 相電圧 (トレース 1)、ASM の A 相電流 (トレース 2)、SM の A 相電流 (トレース 3)、SM と ASM の速度 (トレース 4) の 3 つの波形が示されています。

  • 連続モデル (青色)

  • ASM および SM の前進オイラー モデルを使用した離散モデル (赤色)

  • ASM および SM の 非反復台形モデルを使用した離散モデル (緑色)

非反復台形モデルの方が前進オイラー モデルよりも高い精度を得られます。特にトレース 2 とトレース 3 でシミュレーション誤差が顕著であり、前進オイラー モデルが ASM および SM の電流の DC 成分を保てないことを示しています。

ここで、電動機の端子に実質的に負荷を接続せずにこの離散モデルをシミュレートします。たとえば、1 MW の負荷を 1 kW (SM および ASM 電動機の定格電力のそれぞれ 0.032% と 0.06%) に減少させます。

抵抗負荷を 1 MW から 1 kW に変更し、シミュレーションを開始します。1 kW の負荷は前進オイラー法の電動機モデルの安定性を保証するには小さすぎるため、数値振動が発生することに注意してください。

50 kW ずつ負荷を増加させていくと、安定モデルを得るための必要最小限の負荷は前進オイラー モデルでは 150 kW であることがわかります。これは、電動機の定格電力合計の 3.1% に相当します (4.80 MVA = ASM の 3.125 MVA + SM の 1.678 MVA)。非反復台形モデルを使用する場合は、最小限の負荷は 350 kW になります (電動機の定格電力合計の 7.2%)。

この離散モデルを 1 kW の負荷でシミュレートするための唯一の方法として、反復台形法を両方の電動機に使用する方法があります。Simulink では、代数ループに関する警告メッセージが表示されるようになりました。シミュレーション結果は正確で、連続モデルと同等の精度が得られます。ただし、シミュレーション速度がかなり遅くなるという欠点があります。

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